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4-3 たまにはゆっくり過ごそう、魚でも釣って 2/2

 しばらくの時間が経ちました。ところがどうもおかしいのです。


「よっと、また釣れた。悪いなぁ2人とも」

「ぅぅ……ずるいっ、なんでバニーたんばっかっ、なんかおかしいぞー!」


 やたらと釣りの上手いバーニィ、なかなか当たりのこないわたしたち、水瓶には彼が釣ったアユーンにイワーン、マッスンが6匹という図になっていたのです。


「お、また来たわ」


 さらに7匹目、パティアが感情そのままに唇を突き出してイライラするのも当然です。

 わたしもさっきから尻尾を、草地の地面にビッタンビッタンッせずにはいられない。


「バーニィは何か不正をしているのでしょうか……ああそうだ、その竿とこの竿を交換してくれませんか?」

「ねこたん……パティアもおなじきもちだ……。ぅぅぅぅぅっ、くやしい……っ!」


 聞きかじりの知識では、あまり釣り場で騒ぐのは良くないと聞きます。

 その同じ環境下で、バーニィだけが釣れる理由には繋がらないのですけど……わたしも悔しい。

 ところがそのとき、パティアの竿にわずかな反応がありました。


「き、きたぁーっ、いくぞねこたんっ、おさかなこいっ、えいやーーっっ!!」


 ところが引くのが早過ぎました。

 釣り竿には何も引っかからず、あまりに軽い反動に8歳のお子様がひっくり返ります。

 周囲を見回し、魚が連れていない現実に彼女は愕然とします。


「な、なぜだ……おさかな、つれてない……、ぅぅぅっ、このままだと、パティア、なくぞ……!」

「いいかパティ公、種類にもよるが魚は最初つんつんとな、まず獲物の様子をうかがうんだわ。だからつんつんと当たりが来ただけじゃ、まだつれない、わかったか?」


 パティアは返事を返さない、この子はこれで負けず嫌いなところがあるので無言で起きあがり、釣り竿を湖水にまた垂らしました。

 すると今度はわたしに当たりがきた。憧れの、自分で釣った魚がついに食べれる時が来たのです。わたしは竿を力いっぱい振り上げる。


「ミャ……」

「だから今言っただろ! ここのやつは、食いついて、グイッて向こうが引っ張ってからじゃないと釣れないんだってよ!」


「はい、言われる前から知ってますよそんなこと。わたし300年生きてるんですから」

「いや知ってるようには全然見えなかったけどな……」

「ねこたん、いま、ミャ、っていったなー! パティアなー、ねこたんのなきごえなー、だいすきだぞー」


「いえそれは空耳でしょう」


 再びわたしたちは静かに当たりを待つことにした。

 次こそは釣り上げてみせます。娘の手前というのもあります、ここは冷静になってさっきの失敗を挽回しなくては。


「お、きてるぜパティ公、焦るなよ?」

「わかってるっ、バニーたんはよけいなこと、いうな! うずうず……ぅぅ、ツンツンから、グイッ、ツンツンから……とぉぉーーっっ!!」


 その瞬間、パティアがアユーンフィッシュを釣り上げていた。

 瞳をキラキラ輝かせて、少女の小さな手が魚をつかむ。


「わっわっ、あれっこのっかんねんしろーっ! このっこのっ、ぷぁぁっ?! めが、めがぁぁ……!」


 当然滑りました、小さな子供の手でどうにかなるものではありません。

 アユーンを触ったその手で顔を押さえていました。


「おうおう、大騒ぎだなパティ公。はははっ、顔に水しぶきぶっかけられたか、洗っとけ、アユーンフィッシュ臭くなるぜ」


 釣り竿は慣れているバーニィが世話をしてくれて、無事パティアのアユーンフィッシュが水瓶に入ることになりました。


「やったー、つれたぞねこたん、ばにーたん! みろ、このさかな、パティアがつった! もっとみろっ、ほらほかのやつより、でっかいぞー!」

「おおすごいすごい。……よっと、これで8匹目だっけか?」


 これが勝利者の余裕か、バーニィがイワーンを釣り上げて水瓶に落とした。

 おかしい……なぜこの男ばかり……。


「しっかし釣りなんてするやつがいないせいかね、ここの魚はバカだねぇ~!」

「それすら釣れないわたしは魚類以下ですか……」


「しょげるなよ、釣りじゃよくあることだ。お、引いてるぜネコヒト」

「はっ、魚ッッ!!」


 わたしは竿をまた力一杯振り上げた。

 ……振り上げてから気づいた、しまった、また正気を失ってしまっていたのです。


「惚れ惚れするくらいヘッタクソだなぁ……」

「ねこたん、がまんだぞー? あはは、ねこたんは、ねこたんなのに、つりがにがてかー。あはははー、へんなのーっ!」

「正直に申せば、とても苦手です……。魚が大好き過ぎでして、そのせいで焦ってしまうのでしょうか……」


 レイピアで突いて漁をしようと試みたこともありますが、手元がブレてどうにもなりませんでした……。


「言ってる矢先にまた引いてるぜネコヒトっ、がんばれ、我慢だ、我慢だぞっ」

「はっ?! 我慢……我慢……よしきたっ!」


 わたしは我慢してから竿を振り上げた。

 それなのに魚はいない。うねるミミズだけが骨の釣り針に突き刺さっていた……。


「だからよぉ、早いって言ってるだろがよ……。おっとまたきたわ、おっこりゃなかなかでかいぜ。お、おおっ?!」

「おわーっっ、なんだこりゃぁ、で、でっかーっっ!?」

「ミャッ、それはあのっ、サモーヌではないですかっ!!」


 それは美味しくて大きな魚、赤い身が特徴のサモーヌでした。

 わたしは考えを少し改める必要に迫られているのかもしれない。

 うさんくさい男ですがこのバーニィ・ゴライアス、釣りの腕だけは確かなようです……。


 こうして定期的に魚を釣ってきてくれるなら、これからもずっとここに居させてやってもいい。むしろいつまでもここに居て欲しい、うかつにもそんな気さえしてきました……。

 昔の人も言いました、持ちつ持たれつと。


「早速焼いて食おうぜ、余ったやつは薫製だ。アユーンの薫製は食ったことあるか?」

「言う間でもありません、どちらも好物です。いえあえて言い直しましょう、魚の燻製は大好物です」

「パティアはないなー、でも、ねこたんがそこまでいうなら、おいしいんだろなぁー……ジュルリ……」


 バーニィは、アユーンの薫製作りスキルまで持っているというのか……。

 わたしの腹がグゥグゥ鳴りだすと、バーニィとパティアに笑顔がこぼれていました。

 不思議なことに、見栄っ張りのわたしだというのにそれが嫌ではなかったみたいでした。



◎●(ΦωΦ)●◎



 アユーンが焼けました。

 実は塩を少量だけシスター・クークルスがつけてくれていたので、味わいはなお格別です。


「バニーたんっ、なんでこんなおいしーのっ、ずっとパティアにだまってた!? うまいっ、さいこうだっ、パティアは、おさかなすきに、なってしまったー! はぐはぐ……ふはぁぁ~♪」

「釣れたてを食べたのはいつ以来、ミャー、でしょうか、ニャー。バーニィ・ゴライアス、あなた素晴らしい、釣りの天才ですよミャー」


 ニャーニャーミャーミャー出てしまうくらいに、アユーンは究極的に美味でした。

 パリパリの皮に脂の乗った身、骨ごとそれをバリバリとわたしは腹の中におさめていきました。


「ふぅ……すみません、歳を取ると肉より魚が美味しく感じられてくるものでして」

「それただ単にネコだからじゃねぇかな……」

「ねこたんは、ねこだからなー、おさかなすきなのはー、しょうがない。バニーたん、ねこたんうれしそうだ、またつってなー」


 いいえわたしはネコではありません、れっきとした別の生き物ネコヒトです。


「わはははははっ、もちろんだパティ公。ああなんか面白れぇなぁここの生活、ああ楽しいっ! 喜んでまた釣ってやるよ、ネコヒトに餌付けすんのが、こんなに面白れぇとは思わなかったしなぁ~っ」

「パティアもそうおもう! パティアはここすきだ、またあそぼうなー、バニーたん、ねこたんっ」


 パティアのメギドフレイムで焼いたアユーンは、芯まで熱が通っていて肝も最高の味わいでした。


 魔王様……そこでわたしふと思いましたよ……。

 ハサミとメギドフレイムは使いようだと。

 全てを滅ぼす破滅の業火も、他の才能と折り重なると価値を生み出すものなのです。


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