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29-1 世界で一番の幸せ者 - よっぽどのヤバい話 -

 ホーリックスちゃんは力持ちだからな、適材適所ってことででかい材木を運んだり、しっかり押さえてもらう仕事を頼んだ。

 まあそうすりゃ、色々役得な光景を眺めることもできたしな?


 大工がしゃがみ込んでも不自然はねぇ、頭上を見上げることもそりゃあるだろう。へへ、うへへへ……マジもんの絶景だったわ。


「ん……そろそろ、あちらも、落ち着いた頃か……」

「何だ、もう行っちまうのか? もう少しだけうへへ……おっと、腹が空いてきてよだれがあふれてたわ」


 気のせいか冷ややかな目線が俺を見下ろしているような、そんな気もするがそれは気のせいだ。

 堂々としろ、堂々としてりゃ向こうも勘ぐり過ぎだと思う。……多分な?


「バニー、なぜ人を見ながら、よだれをすする……」

「そらぁホーリックスちゃん見てるとよ、昼飯が恋しくなってきてな」


「ああ……そういった部分でも、そろそろ、厨房にも戻らなくてはな……」


 たくましい女牛魔族が伐採にかり出されている最中、厨房ではジアたち女の子が腕を振るっている。

 ただ火を使うからな、心配なんだろう。


「お前さんも真面目だねぇ……おっ、なんだ、やっこさんの方から来てくれたみたいだぜ。オマケも一緒だ」


 そうこうやってるとネコヒトの方から納屋に来てくれた。

 背中にへばりついたパティアと一緒にな。


「教官……無事で良かった!」

「おや、ちょうどいいところに居ましたねリック。戻ってきて早々ですみませんが、お二人にご相談したいことがあります。というより、報告でしょうかね」

「にゅわーっ?! ねこたんっ、なにをするーっ、パティアから、はなれちゃだめだぞー!」


 不平を言うパティアをネコヒトは背中から引きはがしていたよ。

 こりゃ何かあったみてぇな、いつになくマジだ。


「おおそうだパティ公、今から厨房に行ってよ、例の干物を焼いてやったらどうだ?」

「あっ、そうだったーっ!! あのねあのねねこたんっ、パティアなーっ、ねこたんに、おみやげ(・・・・)が、あるんだよー!」


 喜ぶことが確定してるやつだ。

 パティアは白いネコヒトに張り付くのを止めて、よくわからんがその場で飛び跳ねたり、腕をグルグル回してたわ。


「ネコヒトよ、じっくり話すなら食堂がいいだろ?」

「まっててねっ、ねこたんっ! うおーっ、こうしちゃ、いられない! いくよーっしろぴよーっ!」


 効果てきめんで笑っちまう。

 どこからともかく降ってきた白い小鳥と一緒に、パティ公は城に全力で駆けていったよ。


「……何ですか、おみやげって?」

「お前さんが度肝抜くやつだ。ま、楽しみにしてな、期待を裏切らねぇ良い物がお前さんを待ってるからよ」


 つーか突っ込むのも野暮かもしれんが、念のため言っておくか。

 パティ公よ、そりゃおみやげじゃなくて、おもてなしって言うんだぜ。


「教官が帰ってくるのを、パティアもオレも、楽しみにしていた。絶対に喜ぶ、そう確信している、おかえりなさい、教官……」


 はてさて、今度は何を持って帰ってきたのかねネコヒトよ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 畑とガキどもの話をしながら食堂に移った。

 この時間の食堂は休みの連中がくつろいでたりもするが、今日は幸先良く空き部屋だ。


 席について暗所で冷えた水を飲み干すと、ネコヒトが周囲を慎重に見回してから本題を口にする覚悟を付けた。

 こりゃマジで、よっぽどもよっぽどのヤバい話かもわからんな。


 ホーリックスちゃんも様子を理解してか沈黙と鋭い注目を選んでいた。

 けど俺は動揺したり流されたりしないぜ。パティ公が作ったでこぼこの陶器の水差しから、もう一杯冷たい水を注ぐ。


「ベルン側の、ギガスラインが陥ちました」


 あまりに現実離れした話だと、頭がそのまま受け止めてくれねぇみたいだ。

 深い沈黙が広がり、厨房の方からパティ公の不思議な鼻歌だけが遠く響いていた。


 今なんて言った? ギガスラインが陥ちた? ベルン王国側だと……?

 チラッとホーリックスちゃんの顔をのぞいてみたら、殺気を感じかねないほどに険しかったよ。


「マジか……。ありゃぁ、力押しで陥とせるものじゃねぇだろ……どんな裏技使ったんだよ、魔軍のやつらはよ……?」

「やったのは、やはり、殺戮派か……?」


 魔族たちがどんなに人間より強い肉体と種族特性を持っていようとも、アレを突破するのは無理だ。

 特にベルン側は守備が厚く、世界中から義勇兵と物資が集まる。正面からじゃ絶対に越えられない。


「恐らくそうでしょう。実は殺戮派がカスケード・ヒルで多数の傭兵を集い、北東へと進んでいるのを、行きの旅でわたしも確認しています」

「バカな……」


 ホーリックスちゃんは暗い顔で黙り込んでいた。

 真面目なたちだからな、余計なことばかり考えちまってるんだろう。


 そこで俺はリックの肩を軽く叩いた。へへへ……筋肉質だがスベスベしてるぜ。


「どうどう、落ち着きなホーリックスちゃん」

「バニー……だがオレは……」


「もうお前さんは魔軍を抜けたんだ、関係ねぇよ。いちいち何でもかんでも自分の責任だと、そうやって背負い込むのは良くねぇって」

「だが……だが、オレは、ミゴーに謀られるまで、戦いを通じて、正統派の有利になるよう、働いた……責任が、ないわけじゃない……」


 でもよ、今回やらかしたのは殺戮派なんだろ?

 なんて言っても納得しないのがリックちゃんだ。


 それにここのだけの話、俺は魔軍正統派にはそこまで悪いイメージがない。

 陰でサラサールと繋がってる穏健派よりもな。


「リック、バーニィの言うとおりですよ。この里にとっては外のことなど対岸の火事です。わたしたちの目的は、ここで静かに暮らすこと、わざわざ藪をつつく必要などありません」

「なら、ならなぜ、オレに伝えたんだ教官!」


 今度は背中を撫でるチャンスだった。

 ちゃっかりとその役割にあやかって、まあ……ネコヒトのやつには白い目で見られたが、とにかく一石二鳥でなだめたよ。


「落ち着けってリックちゃん、何でもねぇことだ。ただこうなると、外との行き来に気を使うことになる。だからお前さんに伝えたんだ」

「バニー……だが、だがこんなの、何て言ったらいいんだろう……ムズムズして、はがゆい……」


 元軍人としてはそれが正常な感性なのかもな。

 過去を完全に捨て去って自由人になった俺と違って、ホーリックスちゃんはまだ割り切れてねぇみたいだ。


「男爵との取引もしばらくは必要最小限にしましょう。もしうかつに外に出れば、他の魔軍とはち合わせになる可能性があります。というより、カスケード・ヒルからの傭兵部隊とぶつかる確率が一番高いでしょうね」

「レゥムとの貿易もこうなりゃもう無理だな……ちっ、こりゃちょいと痛手だぞ……」


 タルトのやつもしばらく理由を付けてこっちに来れないってことだ。

 せっかくリセリを取り戻せたのによ、悔しい展開だろうな……。


「まあ元々貿易無しでやってきたのです。それにいざとなれば、わたしとピッコロがこっそりどうにかしてみせますよ」


 それと少し考えた。ネコヒトがこの話を内密にしようとしていた理由を。そうか、こりゃちと困るな。


「ああそうだこの話、他の連中には内緒にするんだよな? というより……キシリールだ。アイツの耳に入ると、ちょいと余計なことになるかもしれん。アイツはクソ真面目だからな……」

「知れば、国に戻ろうとする……。あり得るな、その可能性は、けして低くない」


 ネコヒトのやつは何も言わずに耳を立てて、ときどき厨房の方をうかがっていた。

 魚の脂が焼ける匂いだ。耳がしきりに動いて落ち着きがない。


「そういうこった。それじゃ、今度は俺の方から里の経過報告をさせてもらうぜ」

「おや、話が飛びましたね。ですが気になります、ぜひお聞きかせ願いましょう」


「お前さんが外をほっつき歩いてる間に……ああそうだ、そのへんの理由も、後でちゃんと説明してくれるよな?」

「ええ、まあ可能な部分だけ」


 こりゃ怪しいもんだわ。

 しっかり追求していかないとはぐらかされることになりそうだ。


投稿遅くなりました。

ねこたんのストック回復がんばっていたら、日付が……。

本章ではとてもかわいい挿絵があります。仕上がりの良い絵なので、ぜひお楽しみに。


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