28-3 おかえり、ねこたーん! ふわふわにしといた!
残りの魔力を振り絞り、ネコヒトは魔界の森を駆け抜けました。
出発したのは夜更けでしたから、隠れ里にたどり着いたのは朝ご飯が終わった頃です。
きっとパティアもしろぴよも朝食に気を取られていたのでしょう。
パティアがわたしの帰還に気付いたのは、広場で子供たちに囲まれたその後になりました。
「ねーーこーーたーーんっっ!!」
「うっ……?!」
といっても十分過ぎるねこたん探知能力です。
すぐに人だかりをかき分けて、わたしはいつものように歓迎のダイビングタックルを受けることになったわけです。
「ねこたんっ、おかえりー、ずっとずっと、パティアはまってた!! おかえりーっねこたーんっ!!」
「ただいま。寂しい思いをさせてすみません、ようやく用事が終わりましたよ」
「へーき! もうかえってきたから、へーき! はぁぁぁ……このもこもこのために、いきているぅぅ……」
「あのパティア、人が見ています。勝手に服のボタンを外さないで下さい……」
パティアはわたしにしがみついて離れませんでした。
それだけ寂しかった、そんなの誰が見たってわかりました。
わたしはパティアが満足するまで、服の中に手を突っ込まれようと、したいようにさせるしかありません。
ところがそこに見慣れぬネコヒトが現れました。
「ん……はて、あなたはどちらさまでしょうか?」
「にゃーにゃ……おかえり、大先輩……もう、もう大変だった……にゃ……」
「フ、フフフ……何だ、誰かと思えばクレイではないですか。どうしたんですかその毛……」
クレイでした。あのゴワゴワとからまってた毛並みが綺麗に伸ばされて、風に逆立つほどにふわふわになっています。
「大先輩の代わりにされたにゃ……来る日も、来る日も、にゃーの毛をこの子がブラシで……恐ろしい娘だにゃ……」
「ああ、納得ですね。おや、本当にふわふわになっていますね」
驚きです。どれほど執拗にブラッシングされたらこうなるのでしょうか。
もはやクレイには見えません、別ネコヒトです。毛並みが綺麗なだけで気品さえ感じさせられました。
「でもなー、こっちがほんものっ! ごめんねー、こげにゃん……こげにゃんとは、ひとときの、かんけい? だったのだ……」
「娘がお世話になったみたいですね、とても」
パティアはしがみついたまままだ離れません。やさしくそのブロンドの後ろ髪を撫でて、わたしから胸に包み込みました。
すると見るに見かねてでしょうか、クレイが神妙な顔でこちらを見ます。
「ところで大先輩にお願いがあってきたにゃ」
「はて、なんでしょう。確かにあなたがわざわざ出迎えにくるなんて、これはおかしいですね」
そろそろ立ち上がりたいのですが、パティアは離れてくれません。
わたしはパティアをそのまま抱き締めて、クレイのおかしな態度をよく見ました。
「実はこの里に呼びたいヒトがいるにゃ……相談、乗ってくれないかにゃ……?」
「いえこれでもわたし、急報を抱えて帰ってきた身なのですがね。まあいいです、そっちのやつは何の話です?」
北部ギガスラインがどうなろうと、この結界の中に閉じこもってる限り関係の無い話です。
行き来や流通が困難になりますがね、ここでは外の争乱とは無縁でいられるのです。
「……その、にゃーには妹がいるにゃ。それをここに連れてきたいにゃ……。だからにゃー、ちょっとの間だけ、ここ、出てってもいいか、にゃ……?」
「こげにゃんっ、いもうといたのか!? いいよっ、つれてこよっ、ふかふかがふえるなら、パティアはだいかんげい! ふかふかいっぱい、パティアたちのさとに、あつめたいなー!」
わたしがクレイのお手柄を知ったのはこの後のことでした。
クレイは結界の外側に、わたしに契約を疑われることを承知した上で、子供たちを連れ戻しに行ってくれていたのです。
彼が気まぐれを起こさなければ、凄惨な事件が起きていた。そればかりは認めるしかありません。
しかしですね、クレイ……その妹は本当に存在するのですか?
わたしも信じてやりたいですけど、これまでの前科が前科なのでどうにも判断が付きませんよ……。




