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27-1 魔界の絶対者がまだ怠惰だった頃のこと


前章のあらすじ


 ネコヒトはパティアをリュックに背負って東に向かった。

 魔石の採集ポイントまでやってくると、パティアに新しい楽器を買ってくると約束してネコヒトはタルトと共にレゥムへ旅立つ。


 またその道中、カスケード・ヒルから北東へと移動する殺戮派の傭兵たちと遭遇した。嫌われ者のミゴーを含めた、大きな極秘作戦が始まろうとしている。


 ・


 レゥムに到着するとネコヒトは花屋のヘザーを頼った。

 リセリの彼氏はパーフェクトなイケメン、それと婚活話のグチを聞かされ、どうにか聖堂のホルルト司祭との渡りを付けてもらう。


 聖堂の屋根裏部屋には、司祭ホルルトと、エル・リアナ本国からやってきた封印省の調査官、三白眼のバタヴィアが待っていた。

 彼女との情報交換の結果、ネコヒトはフードの中の姿を明かし、パティアの父エドワードの末路の情報を代価に、彼の正体を知る。


 エドワード・パティントン卿は封印省に属する研究者。

 そして彼は、魔王を人間として生み出す研究をしていた。ネコヒトの推測が正しければ、パティアこそその研究成果。


 ・


 その翌日より、調査官バタヴィアが東方への遠征に同行してくれた。

 長旅の果てに東の自由都市の1つで、バタヴィアの協力により聖王家の保管する魔王の遺物を確認する。しかしそれは偽物だった。


 ネコヒトはショックのあまり目的を見失いかけたが、バタヴィアの提案により、ダメ元で東にある別の聖王家におもむくことになる。

 その道中、盗賊を征伐し、聖王そっくりの巨体の豪農の家にたどり着いた。亡き魔王の遺物、ブローチとリ・クルスはそこに存在した。


 その当主はエレクトラムの正体が、先祖からの口伝にあるネコヒトだと見抜き、言う。

 盗賊退治と、先祖の真実を代価にそれをネコヒトに返すと。


 ネコヒトは盗賊団を既に潰してあると返し、毛嫌いしてきた聖王の末裔のために、笛を奏でるネコから見えた聖王の姿を語りだすのだった。


――――――――――――――――――――――――――――

 語られることのない断章

  魔王の寵愛を受けた、とあるネコヒトの見た歴史 - 破滅 -

――――――――――――――――――――――――――――


27-1 魔界の絶対者がまだ怠惰だった頃のこと


 全てが終わった後だからこそ見えてくるものもあります。

 300年前に起きた一連の出来事は、何者かによって全て仕組まれていたことだったのだと。


 何もかもが手遅れになってから、ようやくわたしもまた気づきました。

 これは追想。やさしさを失った魔王様と、その愚かな僕ベレトートと、不死身の英雄の物語です。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「魔王様、また人間どもが茨の長城(・・・・)に……」

「うむ、そうか、だが……今日はだるい……。その話はまた後日にせよ……」


「ですが現にもう敵がそこまで……!」

「くどいの、そんなの現場がどうにかすれば良かろう……。わらわは絶対に、ここから動かんえ……そち(・・)らのせいで、まばたきするのも面倒になってきたからなぁ……」


 最初は全面戦争を煽る小事変の繰り返しから始まりました。

 人間の世界で起こった教皇の崩御と、それによる新教皇の誕生が1つの契機です。


 今思うとその時の教皇選挙も、どこまで公平なものだったやら怪しいものです。

 まあともかくこれにより、彼らの十字軍が断続的に、ギガスラインからこちら側に派兵されてくることになりました。


 今の世界ではとても考えられないことです。

 しかしまたある日、秋頃に入りかけた頃、その十字軍の一隊が茨の森を抜け、当時最も穏健だった魔侯爵家の跡継ぎを惨殺するという、魔界を震撼させる大事件が起きました。


「イェレミア様、我々はもう我慢の限界です! ここまでされて、なぜやつらの征伐をお命じになられない!」

「貴女様は私たちの王! 忠誠を疑ったことなど一度もありません。が……魔侯爵の血筋を殺害されたとあっては、民も納得しませんぞ!」


 連日騒がしい連中が魔王様の城に押し掛けました。

 朝から晩まで、口をそろえて言うのです。人間どもに天罰を、人間どもに恐怖を、ギガスラインを潰してしまおうと。


「そちらも飽きんの……だがわらわの結論は1つだえ。ダルい、面倒、働きたくない……」

「3つではないですか魔王様っ!」


 魔王様は直訴に応じませんでした。

 わたし個人の持論? いえ、わたしはただの僕、お側付きが私見を持つ必要などありません。

 それに魔王様は、既にその前から疑っておられましたから。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 その頃はイスパ様、イスパ・アルマド魔公爵も頻繁に魔王城にやって来て下さいました。

 領地とはけして近い距離とは言えないというのに、足繁く通ってくれていたのです。


「よく来たイスパ、そちが来るとこの辛気くさい城が華やぐ。それにやつらのせいで、うちの子たちが怯えてかなわんえ……」

「事が事ですからな、皆が殺気だっておりますな」


 魔王城という名で呼ばれていますが、その実は放し飼いの動物園のようなものでした。

 猫が6割、犬が3割、その他が1割といった立派な犬猫屋敷でしたよ。


「それで、調べはついたかぇ……?」

「はい、間違いありません。魔界の世論を操作するために、敵をローゼンラインの内側に手引きした者がいます。しかし首謀者まではまだ……」


「はぁぁ……そうか、それはまた、面倒なことになったのぅ……」

「全くです。事実を公表し、実行犯を処刑したところで、もはや……彼らは納得などしないでしょう」


「かわいいわらわのベレトート。そのやわらかい肉球で、腰を揉んでおくれ……」

「はい、魔王様。失礼します、イスパ様」


 ええそうなのです。

 魔族を束ねる王はそれでも戦おうとはしませんでした。


 普段からだらけ切って姿勢が悪い人です。

 ベッドに寝そべるそのお尻の上に乗ってわたしが腰を揉むと、イスパ様はいつだって羨ましそうに自分が育てたネコヒトを見つめるのでした。


「んっんんっ……おぉぉぉ……肉球が最高だぇ、これは効くぇぇ……♪」

「陛下、あまり色っぽい声を上げられると……私たちはあらぬ疑いを受けてしまいますかと」


 イスパ様は魔界諸侯が好戦派に染まってゆく中、それでも怠惰な魔王様を信じていました。

 それにそうでした。そのとき魔王様はこう言っていたのでした。


「ふぅ……。戦って、戦って、戦って……それが何になるぇ……。人間と仲良く手を結べとは言わん。だがなぁ……上手くやつらを絶滅させることに、んぉぉぉ……♪ 成功……したところで、何も変わらん……」

「フッ……しかし煽動された者たちはこう言うでしょう。……なぜです。やつらは我々を滅ぼそうとしている。あんな凶暴な生き物は、逆にこちらから地上より抹消してやるべきだ、と」


 わたしは愚かにも、結局その思想に染まったことになります。

 怒りに身を任せて殺戮派に属し、魔王様の仇を取ろうとしました。


 魔王様とイスパ様が望む、わたしの姿ではとてもなかったでしょう。

 魔王様は横寝に変えて、今度は二の腕を見せて、白く美しいそこをお気に入りのネコヒトに肉球で揉ませました。


「無駄だ、何も変わらんぇ……。イスパ、わらわは予言するえ、もし人間が滅びたら、今度はデーモン種寄りの魔族と、人や獣に近い魔族が殺し合いを始める……」


 魔王様の僕であることは魔界至高の喜び。

 例え獣枠であろうとも、その魔王様にわたしは愛されていました。イスパ様が羨むのも当然です。


「滅ぼしても、役者が変わるだけ、何もかわらん……。ならば仲間同士で殺し合いをするより、人間という仮想敵を相手にな……。こうして団結している今の形の方が、まだマシだとは思わんかえ……」

「だから貴女は、面倒で、ダルくて、働きたくないのですな」


 結果が同じなら動くだけムダ。まあ確かにそういった部分が大いにあったでしょう。


「うむ、理解してくれて何よりじゃ」

「ならば、滞っている書類の方を片付けていただけますかな?」


「……うむ。今日はちと日が悪いな、それは明日にするえ。おおそうじゃ、そちがやってくれてもかまわんえ?」

「は、御心のままに……」


 いえその……ここはわたしから擁護しておきましょう。

 魔王様は、その気になればどんな相手にも勝利できる絶対者です。


 それゆえに魔王様は勝利への執着が薄い。

 努力して何かを得ようとか、現状を打破して良くしていこうなどとは、考えることすらしない特別な生き物でした。


 魔王イェレミア様は、絶対の存在だったのです。


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