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26-??+1 あの、実はボク……

・滅びた公爵の末


 バーニィさんとクレイさんが岸辺を去ると、それは僕にとって告白のチャンスでした。

 あ、といっても色恋の話ではありませんよ。彼に大切な話があったんです。


「行っちゃったね。何だかんだあの2人、そんなに仲が悪いってほどでもないかもね。……マドリ?」

「あ……。はい、確かにそうかもしれません。クレイさんは誤解されやすいけど、でも良い人だと私は思います」


 ベレト――いえエレクトラムさんに言われました。

 ラブレーに真実を打ち明けて、味方になってもらうといいって。ヘンリー男爵の配下である彼なら、事情を理解してくれるだろうって。


「そうかな。クレイさんは、うーん……男爵様は信用するなって、言ってたけど……子供たち助けてくれたんだよね……」


 言うのは簡単です……。

 でもなかなか真実を口にする勇気は出ませんでした……。


 僕たちは並んで湖水に釣り竿を下ろして、高くなってきた日射しを浴びながら湖水を眺めます。

 言わなきゃ、そろそろちゃんと言わなきゃ……。そう思うだけで本当の覚悟はなかなか付きません……。


「あの、実は、私……」

「どうしたの、マドリ? さっきのクレイさんの話?」


「いえ、それとは別で……。あ、あの、その……すごく、言いにくいことがあって、でも、どうか、聞いて欲しいことが……」


 ラブレーはとてもやさしい人でした。

 パティアさんにはまだ複雑な気持ちを残しているみたいですけど、一時期よりずっとやわらかくなっています。


「何だろ。いいよ、同じ家で暮らす仲だしね、マドリが隣にいるとパティアの注意もそれて……ああいや、あいつの話は今はいいか」


 あの子に好かれる全身ふかふかの毛並みを持つ少年は、話をごまかすように対岸に目を戻します。……とにかく言わなきゃ。


「あ、ああああのっ、あの実はッ、実は私……!」

「えっ、なに? あれ、なんか……なんかマドリ顔が赤くない……?」


「とても、恥ずかしい告白なので、仕方ないんです……! あ、ああそうだっ、ぼ、僕の名前を言います!」

「名前? マドリでしょ? というか、僕……?」


 うううう……上手く、伝わってくれない……。

 慌てれば慌てるほど頭が混乱して、ラブレーを混乱させる言葉が僕の口から次々と……っ。


「ち、違うんです……あの、ベレ、いや、エレクトラムさんから、提案されて、その、あの……僕の本当の、名前はッ」

「あ、ちょっと待って……。よしっ、釣れたっ。……それで?」


 ラブレーが虹色の綺麗な川魚を釣り上げたことなんて、今はどうでもいいです。

 僕は叫びました。言わなきゃいけない秘密を!


「リード・アルマドと申しますッッ!」


 僕はマドリお嬢様じゃない、レアル・アルマドの息子リードなんだ!



 ・



 僕が真実を告げると、ラブレーは驚いてレインボー・マッスンと一緒に飛び上がっていました。


「……え。えっ、ええっ、ええええええーーっっ!? ということはっ、えっ……こ、公子、いえ公爵様なのッ!?」

「い、いえ……もう家は滅びてますから、僕はただのリードです……」


 父上の無念を晴らそう、そう思っていた頃もありました。

 だけど結局その感情を魔将アガレスに利用されて、僕らはアルマド公爵家を滅亡させてしまった……。


 ここで分相応に、ただのマドリとして生きるのが正しいと今は思う……。


「そうだったんですか……」

「はい……」


「それにしても驚きました。新しい公爵様って、女性(・・)だったんですね」

「え」


 何を言っているのかわかりませんでした……。

 ちゃんと伝わってると思ってたのに、そんな、僕、まだ女の子だと思われている……。


「いえ、だから、違うんです! 僕、僕は……男なんですよぉっっ!!」

「あははっ、マドリも冗談言うんだね。あ、ごめん、リード様って言わなきゃでした」


 傷つきました……。

 男だと信じてもらえないことにも、友達になれたと思ってたのに、様付けで呼ばれたことにも……。


「あのねラブレー、これは嘘じゃなくて……」

「だって無理があるよ、こんなにかわいい男がいるわけないじゃないか。あ、でもリード様の話はわかったよ、男爵様も人が悪いよね。もちろん喜んで、僕も貴方の身分を隠し通す協力をするよ、友達として」


 無理もなにもないよ!

 何かの間違いでこういう顔に生まれちゃっただけで、僕は男だよラブレー! 僕は、かわいくなんかないんだ!!


「ラブレーッちゃんと聞いてよ! だから僕っ、本当に男なんです、お願いだから信じて下さいよぉーっ!!」

「あっ待った、パティアが来るよっ」


「ひっ、ひぇっ!?」


 そのとき草むらが揺れました。

 それはエレクトラムさんをやさしい人に変えた不思議な子です。


 草むらからブロンドの少女が生えて、それが僕たちの前に元気な駆け足で飛んできました。


「あっ、ラブちゃんとまどりんだー! こんなところであうとは、きぐーだなー」

「うん、釣りしてた。パティアこそまた勝手に森を歩き回ってる」


「へへへ……バニーたんと、ねこたんにはないしょだぞー。んーー……ねーねー、それより、こげにゃん、しらなーい?」

「それならさっきバーニィさんと一緒に、魚を厨房に運びに行ったよ。マドリが大物釣ったんだっ、見たら驚くからな!」


 かわいい女の子っていうのは、パティアさんみたいな子のことを言うんだよ……。

 僕は男、僕は男、男なのにどうして君は信じてくれないんだ……。


「おお、そうだったかー。わかった、ありがとーラブちゃん!」


 それで納得したみたいで、パティアさんが僕たちに背を向けました。

 だけど僕は、そのまま行かせちゃまずいことに気づいた。


「待ってパティアさん!」

「おー? えへへ、なーにっ、まどりーん♪」


 呼び止めたらパティアさんは反転して、それから僕のお腹に抱きついた。

 女の子のいい匂いがする。エレクトラムさんを変えた、その魅力もわかる。


「あの、さっきの僕たちの話、聞いてた……?」

「というよりなんでお前、クレイさんを追ってるんだ? 追いかけっこなら、僕が付き合ってあげないこともないけど!」


 う……僕の質問が……。ラブレー、これは誰かに聞かれたらとてもまずいことなんだ。

 もし、もしもあの、バーニィさんなんかに聞かれたら、男だってバレたら……気まずいどころじゃないよっ!!


「あのなー。パティアは、かんがえたのだ……」

「あ、もしかして真剣な話か……?」


「うん……あのねラブちゃん……。ねこたん、まだしばらく、かえってこないって……。だからなー、それならなー、しょうがないし……こげにゃんでがまんするっっ!!」

「ああ、それはちょっと同情する」


 するとパティアさんが僕から離れて、今度はラブレーに飛びついていった。


「わかってくれるかー、ラブちゃーんっ♪」


 だけどラブレーはパティアさんに正直じゃないところがあるから、尻尾を振りながらも避けていた。

 でもパティアさんは慣れっこみたいだ。


「違う、クレイに」


 避けられてもパティアさんはへこたれずにラブレーの前に詰め寄っていた。

 後ろから見ると、ラブレーの尻尾がまた揺れてるのが見える。ラブレーも素直じゃない。


「まずはー、こげにゃんなー、け、がなー、ごわごわだからなー。こげにゃんを、ぶらっしんぐ、するのだー。じゃあねー!」

「僕の話聞けよ……」


 僕はリード・アルマドという正体の告白に成功しました。

 だけど、認めたくないけど、どうもこれ、女装が型にはまり過ぎてるみたいで……ラブレーには男だって認めてもらえませんでした……。


「パティアのしめい! それはっ、こげにゃんを、ふわふわにすること! まってろぉーっ、こげにゃーんっっ!!」


 なら最後の手段。スカートに手をかけて、僕は消えてゆくパティアを見送るラブレーを視線の中央に置く。

 ……ダメでした、意気地なしの僕に、男だって証拠を突きつける勇気なんて……。


 だって脱いだら、それこそ変態じゃないですか僕……。


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