26-?? その頃、里では…… 3/4 4/4
・結局ただのスケベなうさぎ
その後は俺も竿を持って釣りに集中した。
釣果を楽しそうに喜ぶ2人を見ていたら、俺も初心にあてられたわ。やっぱ物を楽しむなら純粋な気持ちを忘れちゃいけねぇよ。
暖かい日射しと気持ちのいい風に、ラブ公はうとうとと首で船をこぐ。
マドリちゃんの方はまた釣り針を下ろして、夢中で湖と自分の仕掛けを見つめていた。
ラブ公を起こしたらかわいそうだしな、無理に話題を作る必要もない。
俺もぼんやり水面と森を眺めたよ。
魔界の森は不思議だ。針葉樹、広葉樹、常緑樹、熱帯の植物から寒冷地の植物まで、探せば何だって生えてる。
いっそネズ木の実を探して、魔界の酒でジンでも漬けるのもいいかね……。
「……はっ!!」
「急にどうしたんですか、バーニィさん?」
はしゃぐ2人の姿が俺を無欲の聖人に変えた。
ところがよ、見ちまった……。
「い、いや、いやなんでもねぇよ、ちょっと深呼吸してみただけだ、何にもねぇって」
「バーニィさんって、失礼な言い方になってしまいますけど……ふふ、ひょうきんです」
釣りに夢中になってるせいで他に目がいかねぇんだろうな……。
マドリちゃんのスカートのすそがまくれててよ、普段見ることも叶わない部分! マドリちゃんの白くて綺麗な足が! ふとももの上の方まで暖かいお日様の下に露わになっていたんだよ!!
「あの、バーニィさん……?」
「ああ……そりゃ、嬉しいね……」
こういうところで俺は株を落とす。それはわかってる、だがこれは男の宿命だ。
男っているのはよ、隠されたものに超よぇぇのよ。
だから冒険者と探検家は男ばかり、ベールに包まれた内側を探らずにはいられねぇ!
「あの、急にどうしたんですか……?」
「え、いや、別に何でもないって。へへへ……」
「へへへ……?」
毛穴どころか産毛すら確認できないほどに、そりゃ綺麗な足だった。
長くほっそりとしていてよ、筋肉もあまりないが実に女の子らしい感じだ……。
マドリちゃんはよ、どんな人間の姫様より美しいと思うぜ俺はよぉーっ!
「……ぁっ?!」
ヤベッ、さすがに気づかれたか……。
だが俺はただ単に見ただけだ、スカートをまくったわけじゃねぇ、悪いのはスカートっていうガードの甘い服装そのもんだ。
ところがおかしいな。マドリちゃんは自分のすそを戻さなかった。
もしかしてマドリちゃんも見られて喜んでたりするのか、へへへへ……。
自分の姿に気づいていないふりをしているが、頬と長い耳がみるみるピンク色に染まってゆくな……へへへへっ♪
「はっ、きた!? えいっ!!」
何だよラブ公、こっちは超良い雰囲気――
「うっうひゃっ、な、なんだこりゃぁぁぁっっ!!?」
その時、俺の横顔をねっとりとした何かが包み張り付いた……。
「わああああごめんなさいバニーさんっっ!!」
「うわっ、だ、大丈夫ですかっ!? あっまさかそれっ、デモンフィッシュ!?」
怖気を覚えるその外見、もう二度と忘れやしねぇ……。
グニャグニャぶよぶよした吸盤付きの触手を持った変な塊が、俺の顔にびったり張り付いて、引っぱってもはがれなくなったんだよ!
「バニーさんっ今すぐ僕が!」
「わっうわっ、こいつ滑っ、こ、このーっ!」
「おおお前らありがとよっ、ってっ、なっ、ななっ、なんじゃコイツワァァァーッッ?!!」
後で知った話じゃソイツ食えるらしい……。
いや信じられねぇ、こんなもの食うやつらの気が知れねぇ……!
「ギャーーーッッ!!」
俺はそのおぞましい深淵の悪魔みてぇな何かを、自分の顔から湖へとぶん投げていた……。
ラブ公……こういうのはもう勘弁してくれ……。
マドリちゃんの脚をガン見したのは、確かに風紀とかモラルに反する行為だったかもしれねぇ……。
「バニーさんっ平気ですかっ?!」
「あんなのも、潜んでいるんですねこの湖……あれ、何か顔に付いてます」
「あたた……おお、なんじゃこりゃ、うわ、ネチャネチャする……」
顔にデモンフィッシュの吸盤が張り付いてた。
それに顔中が粘液まみれだ……。ぁぁ……酷い目にあったわ……。
デモンフィッシュ、この経験はこの先夢に見かねないトラウマになりそうだ……。
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・顔がデモンフィッシュ臭いうさぎ
もちろんその後は湖水に顔つっこんでよ、頭ごと全部洗ったよ……。
それでも変な臭いが残りやがる……。
本当に東の方の連中はあんなもん食うのかよ……。
「あ、こげにゃん、ではなくクレイさんが手を振ってますよ」
「ふぅぅ……あの野郎、もうかぎ分けてきたのかよ……」
デモンフィッシュの次はクレイの野郎だそうだ。
岸に立つ姿は豆粒みてぇに小せぇ。しょうがねぇから声が届くところまでオールを漕いだ。
俺たちが魔石を採集している間、ガキどもを助けてくれたって話だしな……。
「大量ですかにゃ、うさぎさん?」
「ああそうだぜっ、今からそっち戻るから厨房に運ぶのを手伝ってくれ! でっけぇサモーヌ・トラトが釣れたぜ!」
「みゃぁっ、それは大変にゃ! 責任持ってみゃーがお届けするにゃ!」
「うるせーっ、お前さんの言う責任は羽毛ほどの重さも持ってねーだろが!」
しょうがねぇ……。
俺は岸まで戻ると船を陸揚げした。それからラブレーとマドリと別れて、クレイと一緒に厨房まで釣果を運ぶことにしたよ。
「じゃそういうことだ、ちょいと運んでくる」
「もうウサギさんったら、ちょっとはみゃーを信用してほしいにゃ~?」
「私は信用してます。だけどクレイさんだけだと手に余るんじゃないでしょうか……」
ラブ公とマドリちゃんはもっと釣りをしたそうな顔だった。
ま、俺みたいなおっさんがいない方が、若者同士の親交を結ぶ機会にもなるだろうな。
「僕たちも飽きたら魚と一緒に帰ります。バニーさん、リックさんによろしくお願いしますっ」
「ちっ……だにゃ……」
「おい、聞こえてんぞコゲネコよ……」
俺がいないと、この野郎リックにいい加減なこと言って、サモーヌをつまみ食いしたり、アジールフィッシュをちょろまかすかもしれねぇ……。
「わざと聞こえるように言ったにゃ~、ウサギさんはノリが良いからにゃー」
「そうかよ。おらそっち持て、このどら猫が」
それによ、こりゃリックちゃんにみやげを持ってゆくチャンスだ。
コゲネコに尻尾を持たせて、俺は鼻歌と一緒に広場へと森を抜けていった。
「そういやよ、ネズの木を見なかったか? 見かけたら実を取って――」
「お酒に漬けようにゃ! それとにゃーはマタタビも良いと思うにゃ!」
まだ少し気が早いが、森の果実を使ったリキュールの話をしながらな……。




