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26-?? その頃、里では…… 1/4 2/4


26-?? その頃、里では…… 1/4


・不良うさぎ


 ネコヒトのやつがおっかねぇ顔して遠征に出て、かれこれ俺が数えることもなくなるくらいの日々が経った。


 こいつは意外とせん索好きのアイツのための話だ。

 自分が拾ってきたからかわからんが、どうもやたらとマドリちゃんのことを気にかけてるみてぇだしな。


 それじゃ始めるぜネコヒトよ。

 俺から見た限りでは、ラブレーとマドリは同じ家に2人で住むようになってから、何かと共通点も多いせいもあってなのかね、みるみるうちに仲良くなっていったよ。


 まあそこは俺とアンタの計算通りでもあるんだがな。

 しかしそこには俺の打算もあるんだわ。

 あの2人を一緒にすれば、ラブ公をかわいがりに行く建前でよ、かわいいマドリちゃんの笑顔が見れる。


 俺にとっちゃこの家はゆとりと癒やし、理想の訪問先だったわけさ。

 いやぁ、建てて良かったと思ったね。いっそ俺ふくめての3人で暮らせるくらいの広さにすりゃ良かったよ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 で、ここからがお話の本題だ。


「よぅラブ公っ、お前さん今日は休みだってな、遊びに来てやったぜ」

「あっ、バニーさん、いらっしゃいっ! えっと、だけどすみません……休ませてもらっちゃって……」


「あ……? おいおい、何言ってんだお前? あのな、働き過ぎな連中を基準に考えるのは止めとけよ。ほら……典型的なところでクークルスちゃんとかよ、ああいう労働を苦ともしない人種は、特殊な生き物なんだよ、俺たちゃもっとのんびりしようぜ」


 ラブ公は十分にがんばってるよ。

 最初は他の連中と群れなかったコイツも、今じゃあのマザコンワンコの配下というより、ほとんどうちの住民として溶け込んでる。


 嬉しいね、この里にはそういう不思議な魔力があるんだよ。


「それを言ったらバニーさんも、最近がんばり過ぎじゃないですか?」

「そうか? だが俺はちゃんと休みは休みとして取ってるぜ」


 ラブ公は朝昼晩と食堂に顔を出して、暇を見つけてはパティアなんかとそりゃ楽しそうに森を駆けっこしたりよ、おっさん安心したよ、正直なところよ。


「あっ、マドリ、おかえりっ!」

「ただいまラブ――わっ、ば、バニーさん……き、来てたんですね……っ」


 マドリちゃんともこの通りだ。

 ラブ公に慕われているはずの身としては、なんかちょいと嫉妬しなくもない。


「何だ、もしかしてお前さんも休みか?」

「あ、はい、なのでシロピアンローズの観察を。……だけど、休日は何だかいつも落ち着かないというか」


「ならマドリっ、僕と駆けっこしよう!」

「そ、それはちょっと、嬉しいけど……明日の体力の方が心配かな……」


 ラブ公の散歩はマラソンと変わらん。

 走るのが得意なのもあって、普段は山菜採集や素材集めに一役買ってくれている。


「うっし、なら暇人同士で釣りに行こうぜ。マドリちゃんも俺の船に乗せてやるからよ、よし行こう、もう決まりだ、いくぞお前らっ」

「はい、お供します! マドリも行こうよ!」

「ちょっと引っ張らないでラブっ、もう、強引ですよ2人とも……ひぁっ!?」


 さりげなく背中側に手を回して、俺もマドリちゃんを家の外へと押していった。

 正しくは背中ではなく尻を押すことになったんだけどよ、たまたまだよ、たまたま。たまたま(・・・・)触っちまったんだ。


 なつっこいワンコに、純情かわいいマドリちゃんか。へへへ、やっぱここは天国に違いねぇぜ……。


26-?? その頃、里では…… 2/4


・スケベなうさぎさん


 すっかり春だ、その日も良い天気だった。

 暖かな日射しが水面を照らして、チカチカしたやつがユラユラ揺れていい気分だ。


 自分で自分を誉めてやりてぇ、船作って正解だったよ。

 地上とはまた違った、船の上でしか感じられない風とか水の匂いがした。


「なかなか上手くなったじゃねーかラブ公。じゃ、このへんにするか」

「へへへっそう言われると嬉しいです! わっ、わふっ……」


 パティ公じゃねーがラブ公の頭と首をちょこっとモフって、それから俺は船倉から釣り竿を1本持ち上げる。

 そんでマドリちゃんに手招きした。


「え、えっと、何でしょうか……?」

「ちょっとこっち来な、釣りのやり方を教えてやるよ」


 さっき尻触ったせいか? 警戒されてるようだ。

 いやでも何も抗議とかしてこなかったしよ、ありゃ挨拶みてぇなもんだろ。な?


「は、はい……では、ご教授になります……」

「もっとこっちだ、ほら来い」


「いえっ、こ、これ以上は……うっうわっ……」

「よし捕まえた。あんま暴れんなよ、一度転覆すると船に戻るのって恐ろしく大変なんだぜ」


 どうにかこうにかちょいと強引にな、マドリちゃんを後ろから抱き込んで座り直した。

 そんで桃色の後ろ髪をガン見、じゃなくて彼女に釣り針を握らせてな、おっさんの操作で元気な餌を針に付けて湖にビュンと飛ばしたよ。


「え、餌……話には聞いていましたけど、本当に虫なんですね……」

「そこはそのうち慣れる。ラブ公、一人でできるか?」

「はいっ、バニーさんを見て覚えました!」


 ラブレーは若いのにあのブルドッグ男爵の下で働いてる身だ。

 感心するくらい器用に餌を付けて、仕掛けを上手に飛ばしていたよ。


「あのですね、あの浮きを見て下さい。あれが水中に軽く沈むと、餌に魚がちょっかいをかけている目安になります」

「あらそれは本で読んだことがあります。大きな当たりが来るまで、辛抱強く待つんですよね?」


 で、俺のお楽しみを横取りしてくれたわけだ。

 まあ俺の目当てはもう果たされたようなもんだしよ、いいんだけどな。


「まあそんなところだ。いきなり食らいついてくるやつもいれば、やたらと慎重な魚もいる、そこは感覚で覚えろ」

「はいっ。……あ、あの、ですがこれ……いつまで、あの……バーニィさん……?」


 釣り竿を握るマドリの手を上から包んで、俺は軽く竿を上下させて簡単な釣りの動作を身体で教える。

 なんかよ、後ろから抱きすくめてのセクハラ中になんなんだけどよ……これ、昔を思い出すわ。


「わかってるわかってる、もう少しリラックスしてろ」

「む、むむむ、無理ですぅぅ……っ、ぅ、ぅぅ……。なんで、ボクが……」


 昔、騎士じゃねぇ方の父親にこうやって俺も教わったっけな……。

 大工仕事でガサガサに荒れたその手でよ、クソ生意気な息子に珍しく笑ってたっけ……。


「今なんか言ったか?」

「なんでもないです……。あ、ここでは何が釣れるんですか?」

「アユーンとかマッスン、それにアジールフィッシュも釣れるよマドリ」


 最後のは海魚だ、おかしな話だよな。

 しかしあの日ばかりは驚いたけどよ、人ってのは何にでも順応するもんだ。釣れるんだからしょうがねぇだろ。考えてもわかんねーんだからそこで終わりだ。


「そうなんだ……。えっと、何だか、私もわくわくしてきました。楽しいかもしれません、これ……」

「おうそうだろ、釣りの良さがわかるたぁマドリちゃんも大人だねぇ」


 体つきの方はまだこう……膨らみってやつがあんまねぇが、そこは今後の成長に期待だな。


「僕もそう思います! というよりカスケード・ヒルでは、こんな時間なんて取れませんでしたし……」

「ほーー、お前さんどんな生活してたんだ?」


「あのですねっ、うちは兄弟が多かったんです。だから僕、10歳の頃に男爵様のところへ奉公に上がりました」

「そりゃまた……お前さんも苦労してたんだな、ラブ公……」

「10歳で商会に……すごい」


 まあネコヒトの話じゃ、魔族ってのは全体的に早熟だ。

 だから人間の俺にはわからんが、それを含めて見てもラブ公のやつはなかなか大したもんだと思う。


「毎日働いて、休日には商会の――イヌヒトの仲間と街道を一日中走ったり、兵舎でやってる魔法教室に加わったりしていました」

「わぁ……ラブレーは努力家なんですね!」

「ところがこの里にやって来たら、パティ公のやつに実力の差を見せつけられちまって、ついつい意地になっちまってたってわけか」


「ク、クゥン……。だってアイツ、おかしいですよ……っ、魔法を教わって半年も経ってないチビに、僕が負けるなんて……っ」


 マドリはそいつに口をはさまなかった。

 マドリちゃんも生まれつきの素質を持って生まれる種族らしいからな、刺激するのを避けたんだろう。


 しっかし魔族ってのは大変だな。生まれた種族の限界に縛られてよ、さぞや苦労が多いんだろうなぁ。

 ならネコヒトのやつはよ、相当なんて言葉じゃ済まねぇくらい苦労したに違いねぇ……。


「あっ、引いてますよ2人ともっ」

「え……う、うわっ、なにっなにこれっ引っ張られ、うわぁっ?!」


 マドリちゃんに張り付いてぼんやりしてたら、俺は彼女ごと湖の中に引っ張り込まれそうになった。

 強く竿と少女の手を握り直して、俺は逃げる魚をたぐり寄せる。


 今さらどうしょもねぇが、リール付きのもっと本格的な竿が欲しくなったよ。


「おいラブ公っお前も引っ張れ!」

「わうっ! じゃなくて、はいっ!」


 こりゃでけぇ、俺たちは期待を込めて釣り竿を引く。

 竿と糸の強度頼りの持久戦になるとこっちが不利だ。糸が切れねぇよう気を使いながら俺たちは大物をたぐり寄せた。


「こうなったら……マイトマジック!」

「へ……。うっうぉぉぉぉーっ?!」


 俺にかけるならそう言ってくれマドリちゃん……急に引きが軽くなったと思ったらよ、魚影が宙を舞った。

 チャンスだ。竿を2人に任せて、俺はすかさず木の(もり)を拾い上げる。


「やったっ、バニーさんさすが! さすがの機転です!」

「お、大きい……私、初めてなのに、すごいの釣れてしまいました……やったっ、やったぁぁっっ!」


 そんで船の反対側の水面に叩きつけられたその大物、サモーヌ・トラトの急所にそいつをぶち込んだ。

 でけぇ……あのエルド・サモーヌ並みにでけぇ。パティ公の身長ほどのそいつを、俺たちは力を合わせて船に引き上げた。


「やったやった、やったねマドリ!」

「はいっ、これだけ大きいと、みんなで一緒に食べられますね! これ、私たちが釣ったんですね……凄い!」


 マドリちゃんはまるで男の子みてぇにはしゃいでいた。

 ラブ公と両肩を抱き合って、船の上だってのに子供みてぇに暴れてくれたよ。


「初めてでこんな超大物たぁ恐れ入ったよ、今日はサモーヌ祭りだな!」


 何かよ、ときどき見せるこの男の子っぽさがよ、余計にかわいがりたくなるんだよな……。

 女の子にするやつじゃねぇんが……ついつい俺はラブ公の頭を撫で散らかしたそのすぐ後、マドリにも同じことをしちまった。


「誘ってくれてありがとうバーニィさんっ、釣り、たのしいです! こんなことならもっと早くやってみるべきでした!」


 こりゃぁ、困ったな……。

 マドリちゃんをいじってを楽しむつもりがよ、何か半分父親の気分になってきちまった……。


「っておいっラブ公っ、お前さんの竿引いてるぞ!」

「あっ!」


 ラブ公の竿にも当たりが来て、船の外に持ってかれそうになったそれをラブ公とマドリちゃんが捕まえた。

 そんで2人して仲良くそいつを引っ張ってよ、すぐに釣り上げたよ。


 海魚アジール・フィッシュ、コイツはネコヒトが喜ぶやつだから干物にするかね。


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