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26-8 亡き魔王と不死身の英雄の昔話 - あの男の面影 -

 余計なことに巻き込まれたせいで、レヴィニアの聖王家にたどり着いたのは暗くなった後でした。

 仕方ないのでどこかでいったん宿でもと思いました。


 しかし宿がない。宿の場所をレヴィニア辺境の住民たちに聞くと、それなら里長の屋敷に行くといいと勧められました。


 そこは貴族ではなく、古くより続く豪農の家です。

 代々たくましい身体を持って生まれる変わった血筋で、奇しくもそこがわたしたちの目的地でした。


「お客人方、ようこそはるばる来なさった。先祖と魔王にまつわる家宝が見たいそうですな……?」

「拙僧の名はバタヴィア、法国から来た調査官だ。盗賊に狙われる恐れがあるゆえ、念のためすり替えれていないか調べさせてもらいたい」


 魔王の遺品だけ、というのも疑われるでしょう。

 糸口をさがすためですから、範囲を広めました。


「そちらの方は……?」

「関係者です。それにしても大きな体をされていますね、代々みんなそうだとお聞きしましたが」


「ああ、何でかうちの血筋はそうなんだ。爺さんも、そのまた爺さんもでかかった」

「聖王もそうでしたよ」


「え……あははぁっ、お客さん冗談がうまいなぁ……世間の伝説とは違いますけど、そうだったらしいんですよ、うちではね」


 偽者が語る家が栄えて、本物にしか見えない血筋が辺境で畑を耕している。

 もはや誰も、この家が聖王の直系だとは思っていないでしょう。


「待ってて下さい、今かき集めてきますんで」

「夜分にすまない。晩ご飯も美味かった、拙僧はここに来て良かったと思ったよ」


 家内が喜ぶと温厚に喜んで、末裔は客室から姿を消しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 しばらくして彼が家に残された古い家宝たちを抱えて現れました。

 わたしはこのとき既に、バタヴィアの提案と、この古い血筋に生まれた当主に感謝せずにはいられませんでした。


 あったのです。あの方の大切な遺物、本物のリ・クルスとブローチ、それと瑪瑙めのうで作られたどこかでみた女神像が。


「それが欲しいのかぁ?」

「フフフ……それはまあ、綺麗なものですからね……とても」


「大切そうに見てた」

「ええ……それは気のせいかと」


 これから盗むというのに失態をおかしました。

 いえ、この家ならあるいは別の方法もあるのかもしれません。


「そしたら思い出した、昔なぁ、爺さんがしてくれた昔話に、魔王に仕えたネコがいたって、聞いたことがあるんだ……」

「それがわたしだとでも……?」


 横目でバタヴィアを見ました。

 助け船を出しようがない、様子を見るとでも言いたそうな顔です。


「その骨格、身のこなし、人間じゃねぇ。ネコヒトなんだろ、お客人」

「……確かにあなたこそ、あの男の末裔のようです。性格は、あなたほど紳士的ではありませんでしたがね、姿がとてもそっくりです」

「すまないな主人、実は拙僧らは、その魔王の遺物を目当てに来た。取り戻したいそうだ、亡き主人との思い出をな」


 勝手に脚色しないでいただきたい。

 ところが当主は善良な方です、そんな安っぽい演出で心動かされていました。


「ご先祖を知ってるのか? まさか本当に、爺さまの言ってたネコヒトなのか? なら、それくれてやってもいい……。代わりに、ご先祖の話と、このへんを荒らし回ってる厄介者、盗賊団を潰してくれよ」

「はっはっはっ、それはどこかで聞いた話だな、そう思わないかエレクトラム・ベル。いや、魔王の僕ベレトートと言った方がご当主も喜ぶか」


 勝手に明かさないで下さい。

 しかし盗賊団ですか。巡り合わせというのは妙な模様を描くもので。


「そう、ベレトート! 爺さまが言ってた名前だ! 俺に昔話をしてくれ、それと俺も手伝うから盗賊の排除を……」

「あーそれなんだが、おほんっ、教えてやったらどうかね?」

「なぜわたしの口から言わせようとするのです……」


「そなたが今夜の主役にして、語り部だからだよ。この場に同席できたことが拙僧も喜ばしい」

「あのお客人たち、なにがどういうことなんだぁ……? 説明してくれ」


 いいでしょう、あの方の遺品を取り戻すためです。

 今夜の道化にだってなりましょう。


「その盗賊団ですが……西の街道に出没するやつですか? 農民たちを、軍人崩れが脅しているような感じの」

「ああそいつらだ! あいつらのせいで、俺たちの仲間が何人も……どうにかしてくれよ、頼むお客人!」


 聖王の面影を残した男に、わたしをコケにしまくった男の顔をした男に、救いを懇願される日がくるなんて……。


 ああ、ですがこれはこれで気持ちがいいものです。

 少しだけ酔ったような気分になってきました。ボランティアもたまにはやってみるものですね。


「実は来るときに襲われました」

「えっ!?」


「しかし帰り道もありますし、念のための安全確保もかねて根城に乗り込みまして。……恐怖で村人を支配していた首領格を片付けておきましたので、さらに食い詰めることがなければ、もう彼らは盗賊などやらないかと」


「えぇぇーっっ?!」

「拙僧から見れば甘い気もするがね、後はそなたたちでどうにかするべき事態だ」


 聖王のクソ野郎によく似た長は、口をぱくぱくさせてたいそう驚き、それから大喜びでわたしを抱き寄せていました。

 おかげでフードがまくれてしまいましたよ……。


「ありがとうっベレトート様! この際種族なんて関係ねぇっ、貴方は里の恩人だ、どうか好きな物を持ってってくれ!」

「いえ……ですがいいのですか? どれもよそに譲っていいものではないでしょう……」


「このまま蔵に眠かしておいても、いつかは価値のわからないやつに売り飛ばされる。なら盗賊団潰してくれたベレトート様に託したい! それとどうか口伝から消えた、ご先祖の本当の姿、教えてくれ!」


 そう言われると別の物にも目が向きます。

 瑪瑙で出来たら女神像、これはあの黒いネコヒトがわたしに探させた物と酷似している。彼との交渉に使えるかもしれません。


「でしたら、魔王様のご遺品と、その瑪瑙の女神像を、このプリズンベリルの指輪3つと交換してくれませんか?」

「おおっそりゃいい! 喜んでそうさせていただきてぇ!」


 皮肉なことに換金効率の上では、わたしが持参したこの指輪の方がずっと優れていました。

 由来が古すぎる上に曰く付き、こうなるとこんな辺境では最適な売り手がなかなか付かないのです。


「では語ってくれるな? 魔王に付き従ったそなたから見た、伝説の英雄の素顔を」


 ここまでせがまれては仕方ありません。


 昔話を始めましょう……。

 わたしがまだ弱く、心も未熟で、魔王様が魔王様ではなくなっていた時代の、遠い遠い物語を。


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