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26-8 亡き魔王と不死身の英雄の昔話 - 軍人として -

「ふむ、ならばこうしよう。ここが偽者だったというなら、他の家を訪ねればいい」

「それはまた直感任せな行動ですね。何かしら300年前の遺産を所持している可能性はありますが、目当ての物とは限りませんよ」


 情けないところを見せてしまいました。

 自分が思っていた以上に、わたしは娘に依存していたようです。いえ通常の親ならば、それは当然なのでしょう。


「何もしないよりマシだ。糸口くらいはつかめるかもしれないぞ」

「しかし、あなたにそこまで付き合っていただく義理がありません」


「ここまで一緒に来ておいて何を言う。取り返したいのだろう、亡き主人の遺品を。拙僧が力になろう、そなたと封印省の共存共栄のためにだ」


 共存共栄、その部分だけ演技じみていましたが、彼女の言葉からまっすぐな真心を感じます。

 これを断るのは非礼にあたりました。


「……ちなみにどこへ行けば?」

「ここからだと、北と東に1つずつある。北がアークランド、東が都市国家レヴィニアだったはずだ。さあまずはどっちにする?」


 レヴィニア……? どこかで聞き覚えのある地名でした。


 いえそうでした、ふいに思い出しました、これは都市国家の名ではなく地名なのだと。

 レヴィニア湿原、魔王様とわたしはそこに一度おもむいている。


「どうした? それはネコヒトなりの、神妙な顔というやつなのか?」

「ええまあ、演劇家ではないので自分ではわかりかねますが、そうなのかもしれません」


 わたしが彼ら人間の英雄たちを憎んだのは……逆恨みもありました……。

 当時のわたしは悲しかった。イスパ様も嘆いていた。わたしたちの魔王様が別人に豹変してしまい、皆が酷く混乱していた……。


「それで、何か思い当たる節でもあったかな?」

「ええ……。すっかり忘れていましたが、当時……ただの2度、いえ3度だけ、魔王様が聖王を取り逃がしたことがありました」


「待った。焼かれてもよみがえる不死身と聞いている。なのに、逃げたのか……?」

「ええ、たとえ不死身でも、生き返るたびに焼き殺されるのは嫌でしょう」


 自分で言っていてそれはおかしいと思いました。

 なぜあのとき、あの男は逃げたのだろう。


「確かにそう言われるとその通りか。拙僧にはとてもまねできそうもない、いや堪えられないな。何度立ち向かっても殺される相手に、勇気を失わず戦い続ける理由なんて、あるわけがない」


 焼かれても焼かれてもよみがえり、わたしたちの前に立ちはだかった人間の英雄が、なぜあのときに限って逃げたのか。


「あるいは魔王様を乗っ取った邪神が、戯れで生かしただけなのか、真実はわかりません。ですがまんまと逃げてゆくのを、わたしは目撃しました。そのうちの1つがレヴィニア湿地帯でのことです」

「なら決まりだ、その直感を信じて行くしかない。拙僧も手ぶらはお断りだ、それにそなたといれば、伝説の真実を聞けると言うもの、喜んで道草に付き合おう」


 わたしたちは一晩を偽りの聖王のいる国で過ごし、翌朝レヴィニアへと出立しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 道中、ちょっとばかしの予定外が起こりました。

 どうもエレベンからレヴィニアへの道は寂れており、そこに街道に自然発生する困った連中が住み着いていたのです。


「お、お許し、お許し下さい……もうしません、しませんから命だけは……ッ」

「痛い、身体中に穴が、ぅ、ぅぅ……」


 盗賊です。ああご心配なく、ちょうど先ほど返り討ちにしたところです。

 生物というのは因業なもので、生き残るためにときとして他者をあざむきます。


 多くの富が街道を行き来すれば、その養分を奪い取ろうとする者が現れるのは必然でした。


「そなたのおかげで命拾いした反面、拙僧の出番ももう少し残しておいて欲しかったな」

「すみません、取り逃がしたくありませんでしたので」


 刃を交えてわかりました。彼らは農民や狩人で、軍人くずれではありません。

 20数名の盗賊たちが2名のカモを襲おうとしたところ、返り討ちにあって、現在は地にはいつくばってうめいておりました。


「お、俺たち、生きるのに必死で……命だけは……」

「ああっ、首領が怖くて、仕方なく……もう盗賊なんて止めるから頼むよぉ……!」


 早くダメ元の目的を果たして帰りたいのに、余計な事件に巻き込まれたということです。

 同情よりもただただうんざりでした。


「このお荷物をどうする、エレクトラム殿」

人間(あなたたち)の尻拭いをわたしにさせるつもりですか……?」


「なら始末するか。見逃しても同じことを繰り返す、気乗りしないが拙僧が……」

「脅されてやっただけなんだ! 頼む、許してくれよぉ……!」


 捨て置いてこのまま目的地に向かう。それが最も気分の曇らない選択肢です。

 しかしどうも盗賊どもの口振りからすると、本隊が別にいるように聞こえます。


「気が変わりました、潰しましょう」

「おおっ手伝ってくれるか!」

「ひっ、ひぃぃぃーっっ?!」


「違います。えーと……あなた比較的動けそうですね、あなた方の根城に案内して下さい。生かしても殺しても逆恨みされるなら、お望み通り怖い首領を片付けてさしあげますよ」


 悪人か、悪人に騙された善人か、見定めるついでに自分たちの安全確保もできます。

 答えはすぐに出ました。盗賊たちは命の危険に怯える姿から、わたしへの平伏に態度を変えたのです。


「バタヴィアさん、あなたはここに残って彼らの手当をお願いします。ちょっとやり過ぎてしまった方もいますから」

「甘い気もするが、そなたがそうしたいなら付き合おう。命拾いしたな農民崩れども、神の名の下に拙僧が助けてやる、改心しろよ」


 葦毛の馬を借り、わたしは案内役を後ろに乗せて盗賊どもの根城に飛び込みました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 着きました。山に砦でも築いているのかと思えば、集落同然の小さな村でした。

 わたしが連れてきた若い男は、同じここの村人を説得して下さいまして、おかげで無用な血を流す手間は避けられました。


「あいつら、いきなりうちの村にやってきて……美味い話があるから、従えって……俺たち、逆らえなくて……ごめん……」

「それはもう4度同じことを聞きましたよ。敵の数は4、腕の良い軍人崩れですね」


 元々は村長のものだったそうです。

 大きな屋敷までやってくると、彼は体力を使い果たして座り込んでしまいました。


「あいつらが来てからおかしくなったんだ……」

「なら最初からそう言って、助けを求めてくれたら痛い思いなどしなかったでしょう。馬は任せましたよ」


 屋敷の中に入りました。いました。まずは一匹目、酒臭い細身の男でした。

 わたしに驚いて立ちすくんでいる。


「剣を抜きなさい」

「き、貴様ッ、舐めやがって! ギャッッ!!」


 わたしはかつて軍人を育てる立場にもありました。

 せめてもの情けに戦うチャンスを与えて、救いようもない害悪を一匹駆除しました。


 二匹目。でっぷり太った斧使い。ヒゲも伸ばしっぱなしのだらしない男。


「だ、誰だよてめー!」

「構えなさい」


「舐めやがって! ぶち壊し、ッ、ウ、ウギャァァーッッ!!」

「さっきの方とセリフが同じですよ」


 更正の可能性0としか見えません、始末しました。

 するとさすがに立て続けの叫び声に気づき、3匹目と4匹目が現れる。


 片方がスキンヘッドの巨漢の長剣使い。

 もう片方がリーダー格とおぼしき、目つきの暗い槍使いでした。


「コイツ、仲間をよくも!」

「気をつけろ、腕が立つ、あいつらが抵抗もできずに殺られている……!」


 盗賊に落ちぶれていましたが、これは確かに軍人です。

 状況を把握して、わたしへの対処法を探っていました。


「構えなさい」

「な、なんだこの野郎……おい、どうする!?」

「貴様、誰に頼まれた……?!」


「この村の農民崩れたちですよ。さあわかったら武器を持ちなさい、盗賊としてではなく、軍人として死にたいならば、戦いなさい」


 対処法の答えは、戦う他に生き残る方法無し。

 元軍人の盗賊たちは2人がかりの槍と長剣でわたしに飛びかかりました。


「あ、ぁぁぁぁ……か、かい……ぶつ……ゲハッッ……」


 3匹目と4匹目を片付けたところでフードがめくれてしまいました。


「もう終わりか……。感謝、する……最期に、俺は、軍人として……カハッ……」

「来世は魔族に生まれるといいでしょう。あなた方はずっと、そっちの方が向いていますよ」


 目的は果たしました。

 わたしは屋敷を出て、農民崩れの盗賊に始末が終わったことを伝えると、調査官殿との元の旅路へと戻るのでした。


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