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26-6 続・おっさんと湖

その頃里では――


 その日は初夏のように暖かい日でした。

 リード・アルマド少年、もとい令嬢マドリは午前を畑仕事の手伝いに回った後、昼食後はあてがわれた自分の家に戻っていました。


 そうです、3つ目の新居はマドリとラブレー少年にあてがわれました。

 元々住んでいたラブレーの小屋は、元から用途が多かったことから晴れて公共の休憩所となったのです。


「じゃあ僕は森の方に行ってきます。エレクトラムさんがいない間は、僕が採集がんばらないと……」

「うん、いってらっしゃい。気をつけてねラブレー」


 それからリードにはこう言いました。

 ラブレーに正体を明かし、陰ながら協力してもらうようにと。その決心はまだ付かないようでした。


「はぁ……これでやっと着替えられる……」


 ラブレーが外出するのを待ってから、マドリは畑仕事で汗ばんだ肌着を脱ぎました。

 着替え一つですら気が気じゃないそうです。新居をいただけて良かったですね、リード。


 さて服を脱いでリード少年に戻った彼は急いで新しい女物の下をはき、それから塗れた布で軽く肌を拭いてゆきました。

 ところがです、ついにくる日がきてしまいました。


「マドリせんせい、こんにちは!」

「よびにきたよ!」


 これからお勉強だそうで、年少組の女の子2人がわざわざ来てくれたそうです。


「ひっ、ひぁぁぁぁーーっっ?!! ちょ、ちょっと、ちょっと待って、今はこないでお願い!」

「どうしたの、おねーちゃん!」

「たいへんなのー!?」


 まあわかりますが必死だったそうで、かえって女の子たちを呼び込む結果になってしまったようです。

 女物のパンツ1枚、あとは布切れと手だけで、胸と股を隠すリード少年がそこにいたそうでした。


「ち、ちが……これは、ちがうんですっ、僕は、僕は変態じゃ……2人とも違うんですぅぅー!」

「せんせい、へんたいってなんですかー?」


 もしバーニィが見たら少し面白そうな光景でした。

 ところがそこにいるのは子供の、それも女の子です。


「私わかるよ。うん……おねーちゃん、だいじょうぶだよ。リセリが言ってたもん、おっぱいは大人になっても成長するんだって」

「あ、ほんとう。マドリせんせい、おっぱいないね……かわいそう」


 それはマドリのプライドを複雑に傷つけたそうでした。


「ッッ……ふ、2人とも、恥ずかしいから今はっ、今は外に行ってて……お願い、すごく恥ずかしいんです、心の底から……ッ」

「かわいいー!」

「うん、マドリせんせい、かわいい!」


 裸を見られたのに、女の子だと思われたこと。

 胸を見られて、男なのに貧乳だと思われたこと。


 ずっと年下の女の子たちに、かわいいかわいいとはやし立てられて、赤面する自分を抑えきれない情けない自分にも。

 マドリの誇りはそれは深く傷つけられてしまったそうでした。


「せ、先生はかわいくなんてありませんっ、お願い、少しだけでいいから、外に行ってて、うわあぁーんっ!」

「マドリ、かわいい!」

「せんせい、かわいい!」


 よっぽど綺麗な身体をしていたのでしょうか。

 女の子たちは大好きな先生を、誉めて誉めて誉め倒して、マドリを耳までピンク色に変えてから家を離れたそうでした。


 イスパ様、それにレアル、なんだかすみません。

 リードは女装が型にはまり過ぎて、上半身をちょっとのぞかれた程度では、誰にも男と認識されないようです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・おっさん


 今日やっとこさ船が完成したよ。

 そこで俺は約束通りキシリールを誘って釣りに出ることにした。


「しゅっぱつー! バニーたんがんばれーっ、あっ、パティアもこぐかー!?」

「やかましいなおいっ、静かにしろ魚が逃げちまうだろパティ公!」


 といってもよ、パティアのやつに見つかっちまった。

 しょうがねぇんでお子様を連れて、俺とキシリールは手製のオールで湖の上を漕いだ。


「すみません先輩、これ……難しいですね」

「だからおめーも先輩って言うなって言ってるだろ、バーニィって呼べ、嫌ならバニーたんだ!」

「バニーたん!」


 ただ上手く前に進まなかったんだよなこれが……。


「お前に言ったんじゃねーよっパティ公!」

「ははは……これじゃ魚、逃げちゃうんじゃないですか……?」


 俺はともかくキシリールはオールを使ったこともない素人だ、そこは仕方ない。

 不安定なジグザグ軌道を描きながら、船は湖の真ん中を目指していったよ。


 キシリールとゆっくり腹を割って話すつもりが、まあ……これはこれで愉快でいいのかもしれねーな。

 釣り針をそれぞれ湖に下ろして、俺たちは当たりが来るまで真夏日の陽気に抱かれてまったりしたよ。


「ねこたんなー、あたらしいがっき、かってきてくれるってー」

「おお……あの方の演奏は素晴らしいですね。奏でる者が違うだけで、これほど差が出るなんて思ってもみませんでした」


「そうだろそうだろー。パティアのねこたんは、すごいんだぞー。すごくはやくて、ちからもちでなー、あと、すぐねれる」

「最後のところはお前さんに見習わせたいね、たまにはお話無しですぐ寝てくれや」


 ネコヒトがいないときは俺たちみんなでパティ公の面倒を見る。

 やっぱあいつがいねぇと寂しいらしくてな、これがなかなか大変だよ。いくら俺たちがお話をしてやっても、寝やしねぇ……。


「なーなー、ねこたん、どんなおさかなつったら、よろこぶかなー?」

「人の話聞けよっ、いきなり話飛んだな?!」

「まあまあ先輩、まだ9歳ですから……」


「そうだぞー。パティアまだ9さいだぞー。まだおおめにー、みてくれないと、こまるからなー? キッシリ、いいこというなー……」

「バーニィ先輩、この子本当にかわいいです……」


 釣りがよっぽど楽しいのか、パティ公はずっとニコニコ笑っていたよ。夜中とは大違いだ。

 キシリールのやつは俺の耳に口を寄せて、最初からわかってるつまらんことを主張したよ。


「そりゃ知ってるっての」

「バニーたんっ、なにこそこそしてるのー!?」


「おう、キシリールがよ、お前さんがかわいいってよ」

「ちょ、ちょっと先輩っ、なんでバラすんですかーっ!!?」

「へへへ……じゃあキッシリ、パティアをー、およめさんにするー?」


 ネコヒトならこう言うだろうな。許しませんよ。とかよ。


「ええっと……それは、あの……バーニィ先輩っこういうの困りますよっ、なんて返せばいいんですかぁーっ!?」

「おう、女の子の扱い方くらい自分で覚えろ」


 まあそんな感じでよ、しばらくは小物の釣果が続いたよ。

 しかしな……この湖、いやこの場所そのものが前々から妙だと思っていた。


 湖の真ん中で船釣りをしていたら、俺が思いもしないものが釣れちまった。


「そいやーっ!! おわぁーっ、なんだこりゃぁぁーっ!?」


 1匹はイルだった。ドジョウに似た魚でよ、本来は海と行き来するやつだ。


「お、おわっ、なんだこの当たり、でけぇ……おいキシリールっ、俺を引っ張れ!」

「はい先輩! パティアさんもお願いします!」

「わかった、キッシリはパティアのことすきだから、くっつきたいんだなー。ぺたー♪」


 で、もう一匹がキュェって大物だ。

 パティ公の身長くらいもあるやつで、まあそれはおいといて、そいつは湖にいちゃいけない魚だった。


 そいつはよ、海魚だったんだよ……。

 西の果ての海でしか釣れないやつが、なんでかここで釣れちまった……。


「ねーねー、イルと、きゅー? おいしい? これ、ねこたんよろこぶかなー?!」

「ああ美味いよ、死ぬほど美味い。泣いてむせび泣くくらい喜ぶに決まってるぜ! しかし、これだけでけぇと足の踏み場がねぇな……もう帰るか」



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 イルは丸ごと、キュェは一部をネコヒトのために薫製に加工した。

 残りをリックちゃんに任せると、その晩はキュェの刺身と鍋が出てきたよ。


「教官は、刺身を食べたがっていた。嬉しい気持ち半分、少し残念だな……」

「みゃー、最高ですにゃ! よっ、うさぎさんの釣り名人! 今後ともあやかりたいものですにゃぁ~♪」


 わりぃな、ネコヒトよ。

 リックがさばいて、パティアが手伝ったイルとキュェの薫製でアンタは我慢してくれや。


 しかし……真水の湖の底が海と繋がってるなんて、実際ありえるのかね……?

 しかもこんな穴ぼこだらけの土地でよ……。ここはすげぇ良いところだけどよ、ときどきわけわからんぜ……。


 ま、楽しみが増えたんだしいいか。細けぇことはよ。


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