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26-4 ネコは新しい連絡員を望む - ネコが1階から尋ねるとは限らない -

 健康な男衆とタルトの足腰もあって、レゥムへの旅路は2日目の昼過ぎという快速で終わりを迎えました。


 今は明るい時刻もあって魔族ネコヒトは荷馬車の内部に身を隠しています。

 往復の長旅で歪みだした車輪にガタンゴトンと揺られながら、わたしたちはレゥム市街を西から東へと進んでゆきました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「では、わたしはこの辺りで失礼いたします」

「あいよ、お疲れ……って、はぁぁっ!? ちょっと待ちなよっ、司祭に用があるならあたいらに任せなよ!」


 タルトはその激しい気性から人から誤解されがちですが、とてもお節介で面倒見の良い人です。

 でなければ、男衆たちは彼女とわたしにここまで付き合ってはくれなかったでしょう。


「いえさすがのあなたもお疲れでしょう。ですので今回は彼女(・・)、ヘザーに頼もうかと思いまして」

「ヘザーって、あの子を使う気なのかい?!」


 リセリの花売り時代の友人、あの元気な花屋のヘザーです。


「はい、わたしたちはあなたに頼り過ぎています。分散できる仕事は、分散しておきませんと」

「いや、その気持ちは嬉しいけどねぇ……確かにあの子、聖堂とも取引があるみたいだから、司祭への連絡員には良いかもしれないけどさ……。あの性格だよ、ヘマしないか心配だよあたいは……」


 そこはまあ、そう言われるとわたしも少々……。

 余計なことに首を突っ込んで、かえって状況をこじらせたりするタイプかもわかりません。


「ご安心を、わたしこれでも昔は先生もしてまして、そこは上手くやらせますよ。それにあなたが身体を壊したら、わたしたちはとても困ります。もちろん男衆の皆さんも」

「はんっ、何言ってんだいっ!」


 わたしはフードをかぶり直して、自分の荷物を整えました。

 たっぷりの路銀に遠征用の干し肉、無骨な新しいレイピアの点検を済ませましょう。


「ええまったくですぜ。姉御、今日はもう一杯やって休みましょうや」

「ああエレクトラムさんの言うとおりだっ、姉御が身体壊したら俺たちゃお先真っ暗ですぜ!」

「ビール飲みましょうぜっ、いつもの酒場の、ぬるくてまずいビールが俺たちを呼んでますって姉御!」


 慕われてますね。まあただ単に酒が飲みたいだけかもしれませんが、ここぞと男衆は敬愛する姉御をいたわりました。


「ああもう、客人の前だっていうのにホントしょうがない連中だねぇ……。わかったよっ、これから飲みに行こうじゃないか!」

「やっぱ姉御のおごりですかーっ!?」


 ちなみにあの大きなリュックはタルトに預けました。

 積載量が多すぎます。代わりに冒険者が使うような身軽な皮のポーチを借りました。


「聞くまでもないこといちいち言うんじゃないよ! あっ、アンタもう行くのかい!?」

「はい。タルト、それに男衆の皆さん、里の皆を代表してあらためて申します。ありがとう、あなたたちこそ、男です」


「ちょっとアンタッ、あたいをむさ苦しい枠に入れるんじゃないよっ!!」

「おや、これは失礼。ですがわたし、あなた以上に男らしい方を知りませんよ、では」


 言い捨ててわたしは荷馬車の後ろから飛び降りました。

 タルトから抗議の言葉が飛んできた気もします。


 しかしわたしは曲げる気などありません。

 あなたほど、男をつらぬく任侠なんて他に見たことありませんよ。


 わたしはその足でレゥム市街に溶け込み、中央の聖堂区、ヘザーの花屋を目指すのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 花屋の2階の窓が開いてました。

 わたしはそこから建物の中に忍び込み、彼女の生活を見つけました。


 そこは店舗ではなく住居で、思っていたよりずっと片付いています。

 植物の姿はなく、オシャレに飾られたテーブルや棚、綺麗に整えられたベッドがありました。


 生活からのぞける、その人の別の顔もあるものです。

 どうやらヘザーはわたしやタルトが思っているより、しっかりしているようでした。


 さて、それからわたしは窓が風に鳴っているように装いました。

 彼女が窓を閉めに来るように、ガタンガタンと騒がしい音で呼び込んだのです。


「来ましたか」


 ほどなくして、元気な足音が階段を駆け足で上ってきました。

 そのまま会うのではばつが悪いですから、天井の四隅に張り付いて後ろを取ることにします。


「あれ、おっかしいな……」


 ヘザーが部屋の扉を開き、奥の窓を確認しました。

 全開になっていた窓を閉じたものの、2階の空は全くの無風だったのでしょうね。


「ありゃ~……?」


 彼女が開け閉めして窓の状態を確認している隙に、わたしは天井より飛び降りて無音の足で背中に立ちます。

 わたし、こうやって人を脅かすのが好きなのかもしれません。


「ヘザーさん、ごぶさたしております」

「へっへァァァーッッ?! うわっ、ちょっ、な、なんでここにいるのネコちゃん!?」


 声をかけますと、ヘザーは振り返るなりすぐに後ろへと飛び退いていました。

 期待通りです。ネコヒトは丁寧なお辞儀で、悪趣味な遊びをおわびしておきました。


「忍び込みましたので、勝手に」

「へ~そうなんだー。ひゃ~~……ビックリしたぁ~!」


「すみません、わたしこういう姿ですので、なかなか正面から接触するのが難しい身でして」

「ふーん……それよりいらっしゃいネコちゃん! それでそれでーっ!? 何すればまたお金貰えるのっ!?」


 こういうことするとタルトは根に持ちます。

 けれどヘザーはさっぱりしていました。

 楽しそうにこのサプライズに笑って、現金にも現金にお金の話を始めました。


「いえ、それはまた、話が少し早すぎませんか?」

「だってうち花屋だもん。うちに来たってことは買い物かなー、って思うじゃん?」


「なるほど……まあ話が早くて助かります。が、その前にあなたへの伝言がありまして、先に良いでしょうか」

「え、伝言? あ~タルトさんからー?」


「いえリセリからです」


 気がかりだったのでしょう。リセリという名前一つで、騒がしい乙女が沈黙しました。

 おもむろにわたしに背中を向けて、目を擦ってまたこちらに振り返ります。


「言って」

「はい。……ヘザーお姉ちゃん、心配かけてごめんなさい。元気です、私はこっちで幸せにしています。だから心配しないで。それとお花ありがとう、嬉しい。……だそうです」


「そ……」


 リセリの伝言はヘザーに安堵と少しの涙を与えました。


 わたしの隣をすり抜けて、綺麗に整えられたテーブルにどっかりと腰掛ける。

 そこで静かに鼻をすすって、目を擦っておられました。


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