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26-3 黒い渦

 レゥム行きの道中、パティアと別れたその日の真夜中のことです。

 彼ら人間はわたしと違って夜目がききませんから、たきぎを集めて小さな陣をしいて交代で仮眠を取り合うことになりました。


 といってもわたしは斥候役だからと、夜明けまで寝かしてもらえることになったのですが、ふいに目が覚めてしまいました。

 ネコヒトの五感に、具体的には説明しかねる前触れがあったからです。


「なんだい……?」

「タルト、あなたも起きていましたか」


 わたしは起きている男衆とタルトに向かって、唇の前で指を立てる。

 彼らもその動作だけで緊迫感を持ってくれました。


 実は昼間にですね、既に大規模な集団の足跡を6カ所で見つけていたのです。

 それらの足跡は南西から北東へとルートをたどるもので、どうやらカスケード・ヒルから出発したかものと思われました。


「敵なのかい」

「まさか……」

「ええ、恐らくはカスケード・ヒルの冒険者狩りかと」


 全ての痕跡が北東を目指していたのです。どうにも妙な針路でした。

 タルトの右腕、元冒険者の男も相手の危険性を理解して、緊迫した目つきを向けてくる。


「そうかい、こりゃついてないねぇ……」

「ええまったく。では皆さんを起こして、できるだけ静かに東へと移動して下さい」


「そういうアンタは別行動かい?」

「時間稼ぎをしてきます。その間に皆さんは東へ……」


 元々人知れず依頼人と荷物を運ぶ、隠密行動を得意とする連中です。

 ピッコロさんが小さくいななきを上げることはありましたが、すぐに撤退の準備を進めてくれます。


「悪いけど任せたよ……」

「お任せを。……1本いただいていきますよ」


 わたしは冒険者狩り、いえ魔族の人間狩り部隊への接触を試みることにしました。

 荷台より魔界の酒を1本拝借して、気配のする南西に魔族ネコヒトは歩き出しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 無事に冒険者狩りとの接触ができそうです。

 魔族ネコヒトは獣道の真ん中で立ち止まり、斥候とおぼしきイヌヒトに酒瓶を掲げてみせました。


 森の中で単独行動するネコヒトです。

 さすがに向こうは驚いていましたが、無事にリーダーとの接触ができました。


「どうも皆さん、妙なところでお会いしましたね」


 酒を手みやげにしたのが良かったようです。

 美味そうな上質の酒を見ると、彼らの態度は一気にやわらぎました。


 構成はイヌヒトが2、デーモン種1、その下級種レッサーデーモンが3の、オークが5、ミノス族2、オークに肩に乗った鳥目の鳥魔族が1といったなかなかの大御所でした。


「ネコヒトとは珍しいな」


 リーダー格はミノス族の大柄な方でした。


「エレクトラム・ベルと申します。こんなところでこんなところで出会ったのも何かの縁です、お近づきに一杯どうでしょう」

「イイノカヨッ、ヒャハーッ、ソレ、グスタフ商会ノ酒ダロ!」


 レッサーデーモン種は、ミゴーらデーモン種より小さく、細身で、知能もあまり高くない連中です。

 わたしが差し出した酒に飛び付き、リーダーの隣に飛び戻ってゆきました。


「ご名答。ま、わたしの方から自己紹介をしましょう。わたしは人間の領土への、潜入任務を命じられたネコヒトです。まさかこんなところで誰かと会うとは、思いもしませんでしたよ」


 しかしリーダーの役割は仲間をまとめて導くことです。

 わたしが安全な魔族かどうか、やや疑ってかかりました。ええ、正しい判断です。


「ネコヒトは大半が穏健派だったな。正統派のやつも知ってるが、お前はどっち側なんだ」

「いきなり派閥の話ですか」

「コマケェコタァイイダロ! コイツ酒クレタ、イイヤツ!」


 昔の誇り高き時代にはなかったことです。

 今の魔界では、所属派閥については慎重に答える必要がありました。


 特に相手が殺戮派に属していた場合、こういった守るべき秩序のない場所で、穏健派と答えるだけで死の危険がともないます。


「ふむ……なんだか妙ですね。冒険者狩りは、というよりカスケード・ヒルの者たちは、どの派閥にも所属しない自由人が多いじゃないですか」

「そうだな、今は色々あってな、色々とな……」


 そいつらがなぜそんなことを聞くのか。

 見たところ彼らは、魔軍に直接所属しているようには見えません。


 どの派閥を名乗るのが正解なのか。場合によっては今すぐ戦いになる危険もはらんでいる。……決めました。


「わかりました。直接殺戮派に所属しているわけではありませんが、わたしはラクリモサの住民でして」

「だと思ったよ。気配からしてお前は軟弱者どもとは違う、俺はリュークだ、よろしくな」


 リーダーのリュークと握手を結びました。

 どうやら殺戮派が返答の正解だったようです。


「でしたらそちらの素性は?」

「おう、俺は殺戮派の所属で、他の連中はカスケード・ヒルの冒険者狩りだ」

「ヨロシクナ、エレクトラム旦那ヨォ!」


 つまり彼は殺戮派の下級の将校。

 それが冒険者狩りを引き連れて、これまで見てきた痕跡と同様に、北東を目指している……。


「ああ、傭兵を雇いに行ったのですか。また北で大きなドンパチでも?」

「トコロガドッコイ! ドウモ、ソウジャナイラシイノヨッ、ケケケッ! イタッ!?」

「べらべら喋るな……このバカが」


 将校リュークはレッサー種を拳で黙らせました。

 どうもよくわかりません。普段の殺戮派は命知らずどもの群れ、あまり規律を重視する集団ではありません。


「悪いが極秘任務だ。こいつを一杯やったらすぐに出発したい、いいか?」

「何だか風情がありませんね。まあカッと飲んでカッと行きましょうか」

「賛成ッ賛成ッ、俺賛成ッ!」


 偽名のネコヒト、エレクトラムは彼らと酒を回し飲みしました。

 器もないものですから、ビンごと直接にです。


「よーしっ、気合いが入ってきたっ! おう、潜入任務ご苦労エレクトラム、これから一緒にな、人間どもに一泡吹かせてやろうではないか!」

「ええ、そうしましょう、魔王様の仇を討ちませんと」


「そうだな! それにあのミゴーのクソ野郎も来るって話だぞ!」

「何ですって……」


「そうだ、あの嫌われ者のミゴーだ、今回は最低の戦場になる! 俺たちの勝利の報を、楽しみにしててくれ!」

「そうですか。では背中から斬られないように気を付けて下さいね」

「ヒャハハハッ笑エル冗談ダゼーッ!!」


 何だかお爺ちゃんには向かないノリで疲れました。

 こうしてわたしは彼らと別れ、タルトと合流した後はそのまま夜通し東へと抜けることにしたのでした。


 殺戮派の将校がカスケード・ヒルで傭兵を集めている。

 ここがルートの1つになっているのならば、この場に止まることは、夜の闇の中の移動より、遙かに危険であることを意味していました。


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