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26-2 不在の里にて、玉虫色の小事件 - 幼女を背負った猫 -

 魔石の群生地はまだ手付かずのまま残っていました。

 万緑の森の中に、虹色の輝きを持つ魔石が地中より無数に咲き誇る姿は、これを見たことがない者からすれば圧巻だったでしょう。


 地中より(あんず)の木を真っ二つに引き裂いた魔石もあります。

 しかしその杏は枯れていません。

 むしろ逆に魔石から栄養を吸い取っているのか、あちこちの枝に花が咲いて、同時に木の実を生らせていました。


「こりゃすげぇ。もしかして砕いてまけば肥料になるんじゃねぇのか?」

「肥料か……。そういった用途は、あいにく聞かないな」

「本来は売った方が金になるものですからね。しかし少量を砕いて、試験的にまくのもまあ悪くないかと」

「あたいらも少しいただいていくよ。こういうのは好き者が欲しがるからね」


 バーニィとアルスは驚いていました。

 ところがパティアの反応がありません。


 先ほどリュックから下ろしました。今はどこにいるのか周囲を見回してみると、わたしの斜め後ろで黙り込んでいました。


「はぁ……」


 夢中で魔石の虹の輝きと、狂い咲いた花と杏の実を見上げるも、わたしの前でため息を吐いたのです。

 今回の遠征は、いつもよりずっと長くなると伝えてあります。


「どうされましたかパティア」

「ねこたんか……」


 ここはパティアにとって、大好きなねこたんとのお別れの場所でした。

 パティアの目の前に立ち、わたしは膝を突いて娘より低い位置から見上げました。


「ねこたん、やっぱりパティア、さびしい……」

「そのようで。おっと……」


 するとパティアはのしかかるようにわたしにしがみ付いて、そのまま離れなくなってしまいました。

 わたしが行かなければならない理由を、娘が理解できるわけも、説明するわけにもいきません。


「どうしても、いくの……? このまま、かえろ、ねこたん……。パティアはね、ねこたんがいないと、こじだべだ……」

「こじだべ、ですか」


 こじだべ……。こじ、だべ……? 孤児だべ?


「おとーたんも、ママンも、いないこの、ことだ……」

「それを言うなら孤児、です。あなたジョグの話でも盗み聞きしましたか?」


 ママン、というのはどうとらえても男爵の影響でしょうね……。


「……ねこたん、だいじなところで、バニーたんみたいなこと、いわないの……」

「すみません。ですがあなたは孤児ではありませんよ、わたしがいなくともリックやバーニィがいるでしょう」


 言葉だけで納得できるなら、だだっ子なんて現象この世に発生しません。

 パティアはそうじゃないとわたしというフカフカから離れ、唇をとがらせて、顔を上げずにうつむいてしまいました。


 ちなみに他の連中ですけど、状況を察してかわたしたちをおいて作業に入ったようです。


「いくの……?」

「はい、それでもわたしは行かなくてはなりません。それがあなたの、いえみんなのためになると信じています」


「ねこたんのむすめも……なかなか、たいへんだな……」

「すみません。そうでした、おみやげは何を買ってきましょうか?」


 子供を刺激する魅惑の言葉、おみやげ。パティアの顔が上がりました。

 といってもわたしの期待通りの明るいあの笑顔ではありませんでした。


「がっき。あたらしいやつ……よるね、みんなでうたったり、ぽろろんするとね、パティアはしあわせ……」

「わかりました、必ず新しい楽器を買ってきます」


 わたしもイスパ様と音楽に希望を貰った身です。

 パティアの気持ちがよくわかりました。


「それはちょっと、たのしみだ……」


 いえ、同時に申し訳なくなりました。わたしという楽士は、わたしというネコヒトが帰還するまで食事の席から消えてなくなるのです。


「ですからパティア、あなたはアルスと一緒に空中庭園を広げて、バーニィと一緒にみんなの家を建てて下さい。森を開拓して、畑を増やして、帰ってきたわたしに見違えるほどに育った里の姿を見せて下さい」


 魔石の回収が完了したようです。

 わたしはパティアを胸のふかふかに包み込むと、静かに立ち上がりました。


 幼い者にとって、大好きな者と長時間別れるのは苦痛がともなうことなのでしょうか。

 パティアはまだ笑ってくれません。


「ねこたん……はやくかえってきてね……」

「はい、必ず、可能な限りそうします」


 わたしはまだ別れを惜しむパティアと別れ、夜逃げ屋一行と共にレゥムの街へと旅立つのでした。

 ああ、こんなことばかりしていたら、親離れが早まってしまうのでしょうね……。


分割の都合で今回短くなっています。

明日投稿分はやや多めです。


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