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25-6 古城グラングラムの花園 元姫君ハルシオンの花舞台 - 大好きなのはヒマワリの種 -

「おいバーニィ、明日は男手をこっちに貸せ」

「はぁっ?! 悪いがこのにーちゃんたちは、パウル夫妻の楽しい新居作りに忙しいんだ。人手がほしいなら他の連中を頼りなっ、男のロマンに水を差すんじゃねぇっての!」


 その日の夕飯前、アルスがバーニィに人手を要求しました。

 しかし元主君の娘に対して、まあひどい言い方ですねあなた。


「そうか、ならタルトに頼む。男衆を全員こっちに呼んでくれってね」

「てめ、汚ねぇぞ……庭園なんて別に後回しでもいいじゃねぇか!」


 庭園などあくまで余興、食料確保と建築を優先するのが正論というものです。

 まあしかし、効率を重視したゆとりのない生活がどんなに空虚なものか、バーニィだって知っていました。


「イヤなら半分こっちに男をよこせ、ただそれだけのことだ」

「そうかよ。ま……別にいいぜ、半分そっちに回しとく」


「え……っ。なんだ、意外と聞き分けがいいじゃないか、バーニィ」

「はははっそうだろ~? いや実はよぉ、生き生きして要求してくるお前さん見てたらよ、張り合うのがバカらしくなったのよ。よし、明日はキシリールもそっちに回すか」


 アルスはアルスなりに自分の役割を持とうとがんばっていました。

 先日はカスケード・ヒルへと向かい、男爵へと連絡を付けてくれたり、本当に努力してくれています。


 ちなみにさすがの男爵もこの時期にタルトらが現れるとは予想しておらず、商品の工面が付かないからと、帰り道には同行せずに後日こちらに現れることに決まりました。


「お、男が花に夢中になって悪いかよっ!」

「急になんだぁ? 悪いなんて言っちゃいねぇよ、別にいいだろしたいことすりゃよ」


「そ、そうか……」

「悪かねぇよ。それによ、城の回りは平和なもんだがな……バリケードの向こうはこんな過酷な環境だ。せめて城のバルコニーだけでも、俺たちが自然を完全に支配している世界があってもいいかもな」


 悔しいけどボクは心から賛同していた。戦う力があるボクたちはいいけど、まだ弱い子供たちにはここは恐ろしい世界だ。

 そうアルスはわたしに言っていました。


「それはそうと、なんで彼をこっちに……?」

「ああ、キシリールか? アイツはたぶん、そのうち国に戻ることになる。騎士団はなんだかんだ、独立した権限を持ってるしな。サラサールのクズとも話を付けるはずだ。ならその前によ、外の世界を色々と経験させてやりてぇじゃねぇか」


 ま、戻らねぇ方が幸せかもしれねぇけどな……。

 後でそうバーニィは付け加えていました。サラサールが王位を継いでおかしくなった国で、軍人をやっていても不幸になるだけだろうと。


「えっ……アイツ、アイツのせいで、彼はここに来たのか……?」

「おっと口が滑ったな。まあそうだ、あいつはなかなか立派な騎士様でな、最低の新王陛下に逆らってまで、自分の騎士道を貫いたんだよ」


「そうか……そうだったのか……」

「同情なんてすんなよ。まあそういうわけだ、キシリールと一緒に綺麗な花園を作ってくれや」


 バーニィ、あなた余計なことを言ってくれましたね。

 もしも先の未来でキシリールの身に何か起きれば、ハルシオン姫が戦う覚悟を付けてしまうじゃないですか。


「任せてくれ、人をよこした価値があったと、バーニィ、お前にそう言わせてやる!」

「はははっ、そりゃ楽しみだねぇ!」


 こうしてバルコニーは日に日に土が盛られてゆき、レンガの道が()かれ、少しずつ空中庭園へとその姿を変えてゆくのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 後日談。


「パティア、今何を食べてたんですか? 拾い食いは止めると、わたしたちに言いましたよねあなた?」

「う……ねこたん、みてたか……。これはそのー、えと、ち、ちがう、よ……?」


「それにしては、どこか後ろめたい顔をしているように見えるのですが?」

「へ、へへへ……そ、そうかなぁ、ねこたんの、きのせいかもなー……なにも、たべてない、よ……?」


 場所はまだ工事中のバルコニーです。

 嘘を吐いていること明白のパティアの足下に、何かが転がっていました。


 膝を落として拾い上げてみれば、それはヒマワリの種、その外側の殻です。


「ヒマワリの種ですね」

「ぎっくぅー……!」


「まさかあなた」

「こ、これはなー、ちが、ちがうのだ……。あのな、しろぴよ、しろぴよにな、ちょっと、あげようとしてたらな……パティアも、おなかすいてきて、な……?」


 少量をしろぴよさんにあげるのはかまいませんが、あなたが食べることないでしょう……。

 本当にうちの娘の食い意地は、本物でした。


「食べたと」

「うん……おいしかった……とても。せいしゅんの、あじ?」


 ひもじい青春もあったものですね。

 と、口にはできませんが言ってやりたい気にもなりました。

 まったく……もっともっとわたしが美味しい物を取ってきてあげますから、そんな青春捨てて下さいよ。


「夏を待てばそれが100倍に増えますよ。残りは植えてきてはどうでしょう」

「わかった! ねこたんっ、このことはなー、あるたんには、ないしょな……? たべたの、しられたら、きらわれるかも……」


「はい、2人だけの秘密です。それとアルスは、あなたのことが大好きですから心配ありませんよ」

「にへへへ……ねこたんだけではなく、あるたんまで、メロメロかー。パティアは、つみな、おんなだ……うっふん?」


 パティアの食い意地は今に始まったことではありません。

 見なかったことにしておきました。


「あなたウィンク下手ですね。こうするんですよ」

「おぉぉ……ねこたん、かわいい……。もっかいやってー!」


 何が面白いのやら、娘はわたしのウインクをたいそうお気に召したようでした。

 娘なりにまねしようとしていましたけど、わたしには顔をしかめているようにしか見えません。


 その姿がまた、愛らしいものでしたがね。


とっとこパティ公

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