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25-2 おっさんと湖

・ウサギさん


 キシリールとパウル夫妻が里に来て今日で2日目、昼食を終えた俺は城1階の作業部屋でちょいと息抜きをしていた。


「先輩、ここにいましたか」

「おうキシリールか、リックちゃんの昼食は美味かっただろ」


「え、ええ……あの死神ホーリックスの調理した物と思うと、喉通りがおかしな感じになりますが……とても美味しかったです」

「ははは、そりゃわからんでもねぇな。おかしな星の巡り合わせでこうならなきゃ、みんな敵同士だったわけだしな」


 そういやネコヒトからちと妙な話を聞いた。

 サラサールのクソが軍備を増強している。それはまあいいんだがよ、なぜかギガスラインの警備はザルのまま、行きも帰りも同じだったそうだ。


 嫌な感じがする。ただでさえあのクソ野郎は魔界穏健派と繋がってるんだそうだ、絶対にろくなことをしねぇ……。


「思っていたよりずっとやさしそうな人で、正直驚きましたよ。ところで何やってるんですか先輩?」

「なんだよ、見てわかんねぇか?」


 俺はここじゃ大工だ、それでいて釣りバカでもある。

 その2つの条件がそろったらよ、暇つぶしにこういうものを作ることもある。


「はい、私はこういった仕事にはうとく……ですがそうですね、もしかしたらこれは、船でしょうか?」

「正解だ。お前さんよ、船釣りはしたことあるか?」


 ずっと思ってたんだけどよ、あの湖の真ん中で釣ってみてぇ……。

 だから船造ってんだよ。だけど俺ぁ船大工じゃねーからな、どうすりゃいいのやら毎日悪戦苦闘してるとこだ。


「い、いえ、格式張った家で育ったので、そもそも釣りすら……」

「覚えろ」


「わかりました、先輩の命令なら喜んで」


 そいつがまたなんか懐かしいやり取りだった。

 俺より位が上の癖に、キシリールの野郎はいつだって俺を兄みてぇに慕ってくれた。


 ま、あっちじゃ色々立場もあってここまで自由にはいかなかったけどな……。


「ぁ~、あのよ……その先輩ってやつ、どうにかなんねぇか? バーニィでいい。あるいは、パティ公みてぇにバニーたんって呼んでくれてもいいんだぞ」

「いえ私はまだ騎士です。本国ではもう剥奪されてるかもしれませんが……これから騎士団が仲裁してくれるはずで……」


 そうそう、こういう真面目なやつだからときに面倒だった。

 正騎士様だってのに、好き好んで俺との辺境の警備に加わりたがる変なやつだ。


「はっ、真面目だねぇ……。しかしその理屈ならよ、お前さんは俺を捕らえなきゃならねぇんだぜ」

「嫌です」


「嫌も何も、それが騎士の理屈だろ」

「いえ、貴方は確かに道に外れることをしたかもしれませんが、今の王家に正義はありません。順番はおかしいですけど、今となればいい気味ですよ」


 やっぱ俺のせいかね……。

 なんて考え方事態女々しくて良くねぇか、バカ正直なコイツはどっちにしろこうなってたに違いねぇ。


「騎士が言っちゃダメだろそのセリフはよ……。いやま、ここに外の理屈を持ち込むのは無粋だったな」


 手が止まっていた。俺はカンナを滑らせて材木を整える。

 削られた木目から杉の木の匂いが立ち込めて、俺の力加減で望むままに形を変えていった。


「とにかくよ、これから釣りを教えてやるよ。船ができたら昔なじみだしな、一番最初に乗せてやる」

「いえ、実は頼まれ仕事がありまして……」


「じゃあそいつを手伝ってやる、何頼まれた?」

「護衛です。子供たちが山菜を摘みに森へと入るそうなので……ジョグさんという方と一緒に」


 まずは他の連中と交流させようって魂胆かね。

 ネコヒトの野郎が考えそうなこった。


 自分たちから仕事を探してゆくパウル夫妻と違って、キシリールの方はちょいと気づかいがいるな。


「そりゃいい、俺も付き合うぜ」

「でも船は……?」


「こりゃ趣味だ、手探りでやってるしな、ゆっくりでいい。ああ、ネコヒトの野郎には言うなよ、早く作れと急かされちまう」


 ありゃ魚のことになると別人になるからな。

 やっぱネコヒトの祖先って、猫なのかね……?

 面と向かって言うわけにはいかねぇけど、どう考えたって、猫そのものだろアイツら……。


「ネコヒトですか? それはええと、白と茶色、どっちの方でしょうか……?」

「ああ、言い方が悪かったな。だがたぶんそりゃ、両方になるかねぇ……。キシリールよぉ、クレイには気を付けろよ、アイツはたちが悪い、何考えてんのかもわかんねぇ……」


 釣りに出かけるときはいつも後ろを確認する。

 アイツが隣にいると、ろくなことにならねぇ……人から魚を騙し取るのがそんなに楽しいのかねあの野郎……。


「親切そうな方でしたが」

「はっ?! バカ言えっ、そりゃお前さんに取り入ろうとしてんだよっ!」


「ですが、そうは見えませんでした」

「猫かぶってんだよ……とにかく気を付けろよ、悪党ってほどじゃねぇが、自然体でこっちの弱みを握ろうとしてくるからな……っ」


 後で一言言ってやらねぇとな。

 俺の後輩に妙なことしたら、リックちゃんにチクって飯抜きにしてやるってよ。


「そうですか? ですがやはりとても良い人そうで、私は疑う気には……。悩みがあったらいつでも言ってくれって」

「そりゃお前さんの弱みを教えて下さいって、言ってんだよ……」


 クレイみたいな詐欺師タイプには天国じゃねぇのかこの里。

 ガキどもにも猫かぶって撫でて貰ったり、好き放題してるしよ……。


「脱線してんな。とにかくよ、船ができたら船釣りに行くぞ、いいなキシリール」

「わ、わかりました、お付き合いします!」


「おう。お前はいずれアッチに戻るんだろ、なら楽しい思い出を残しておこうぜ」

「戻れる保証はないですけど……そうですね、悔いがないようにします」


 船ができたら船釣りに行こう。俺はキシリールとそう約束を交わした。

 コイツは堅物だからな、この里での楽しみ方を、先輩の俺が教えてやらねぇと……。


 キシリール、お前の正義は俺とは形が違う。

 それはわかってるんだが……ソイツは相手が悪すぎる、命を粗末にすんじゃねぇぞ。


- the ossan and the lake - 終わり


ヘミングウェェェェィ!!

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