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24-10 バーニィの年貢の納め時 - 騎士と騎士の再会 -

 大地の傷痕への帰還は三日目の夕方になりました。

 しろぴよさんに捕捉され、その後真っ先にパティアの出迎えを受けるのはもはやここの予定調和となっています。


 ニャニッシュ南東部の森を抜けて、バリケードをくぐるとその先の広場で娘がわたしを喜びの笑顔で待っていました。


「ねーーこたーんっっ、おかえりぃぃぃーっっ!!」

「ちょっと待っ、うっうぐっ……今回のは、なかなか、強烈ですね……ふぅ……」


 それは歓迎と言うよりぶちかまし。

 さながら弾丸となったブロンドの9歳児が体重に乏しいわたしを地に押し倒していました。


「あっ、タルトおねーたんだ! それにー、なんかあたらしいひとたち、いっぱいだなー?」

「アンタを見るとここに来た感じがするよ。久しぶりだね、パティア」

「どうも初めまして、パティアさん。私はパナギウムの騎士しているキシリールと申します。どうかキシキシと呼んで下さい」


 相手は子供なのですからもう少し砕けても良いと思いますよ。

 パティアはキシリールを真っ直ぐ見つめて、それからどうも首を傾げたようでした。


「き……きしる……きしるーる?」


 何であなた4文字以上の名前が覚えられないんですか……。

 無理しないでキシキシでいいと思いますよ。


「キシリール、キシキシでいいですよ」

「わかった。キッシリなー!」


「え、ええまあそれでも構いませんけど……。なかなかその、変わった子ですね……」

「すみません、わたしの娘です」


 そうわたしが説明すると、パティアは大好きなねこたんの胸のふかふかに甘えるように顔を埋めました。

 いつまでも地べたに転がってもいられませんし、こっちは立ちたいんですが……重い。


「娘さんでしたか。って、えっ、この子っ娘なんですかっ!?」

「まあ色々ありまして。パティア、あちらのお兄さんがパウル、お姉さんがアンです」


 アンはパティアに手を振って、元兵士のパウルは笑いかけました。


「パウと、アンかー。パティアはなー、パティアだぞー、よろしくなー」

「ぱ、パウか……。そういったあだ名をもらったのは初めてだ……」

「私だけそのままなのね……」


 名前の発音が短い人は、なかなかあだなを貰えない宿命にあります。

 でもいいじゃないですか、わたしなんてねこたんですよ。わたしなのにかわいいったらないです。


「だけどアン、綺麗な場所だな。タルトさんの話以上だ」

「そうね、パウル。それにしても大きなお城……」


 光栄にもパウルとアンは里の景観にいたく感動してくれていました。

 開拓が進んで拓けた広場に今は緑豊かな畑が広がっています。


 古城グラングラムは頼もしく、バリケードに囲まれた世界には一応の安心感がありました。


「パティア、あなたのねこたんはそろそろ立ちたいのですが」

「おお、こいつぁすまねぇ……。へへへ……よるは、いっしょにねよーね、ねこたん」


「どうぞお好きなように。それでは皆さん、こちらへどうぞ」


 お辞儀をして、まずは彼らを城に連れて行きましょう。

 バーニィとリック辺りに引き合わせて、後の面倒ごとを押しつけるのです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 ところが広場の南を通り過ぎようとすると、家が1軒建っているのが見えました。

 そこで針路を変えて立ち寄ってみたところ、その新築の家の前にバーニィの姿を見つけたわけです。


 何をしているかと思えば、軒先で大きなテーブルを作っているようでした。

 パティアがその後ろ姿に駆け寄ります。


「バニーたんっ、ねこたんかえってきたよー!」

「おおっ、思ったより早かったな。ちょっと待っててくれ、こいつを仕上げちまう」


 バーニィがわたしたちを無視してかなづちを叩く。

 しかしそうも行かない状況だと思いますよ。

 キシリールがその後ろ姿と、バニーという名前から感づき始めていましたので。


「えっ……まさか、まさか貴方っ、バーニィ先輩っっ?!! そんなっ、なんでこんなところにっ!!?」

「へ……? げぇっ、おまっ、キシリールぅっ?!! うぉわっ……」


 感動の再会にしては情緒がありませんね。

 バーニィは驚きのあまり背中から地に倒れ、それから足の足りないテーブルに潰されていました。


「大丈夫ですかバーニィ先輩!」

「お、おぅ……色々まあ、大丈夫じゃない雰囲気だが大丈夫、だぜ……?」


「とにかくご無事で良かった……心配しましたよ! 金を盗んで逃げたと聞いたときは、本当に……。やっぱりぬれぎぬ(・・・・)を着せられたのですね!」


 いいえ、騎士が嫌になって金盗んで逃げたって本人が言っていました。

 さあどうやって弁解するやら見物ですね。


「あ、いや、それなんだが、その、よ……? まあなんというかあれだ、ああ……そうだよ、実はな、俺は悪いやつにぬれぎぬを着せられて――」

「情けない嘘吐くんじゃないよ! 王家の宝物庫から金塊盗んだって、この前あたいに自白したじゃないかい!」


 ところがあっさり詰みました。

 ええそうですね、情けない。

 初めて会ったときはあんなに胸を張ってあなた言い切ったじゃないですか、悔いはないって。


「え……バーニィ先輩……? え……まさか、本当に……う、嘘ですよね……? あの騎士バーニィ・ゴライアスがそんな、国から金を盗んで、逃げるなんて、そんな……!」


 キシリールにとってはよっぽど尊敬する相手だったようです。

 心から驚愕して、心から信じられない首を左右に振っていました。


 どっちにしろバーニィの自業自得、助け船などいらないでしょう。


「ねえねえねこたん、きっしり、なにおこってるのー?」

「わたしたちには関係ないことです。あっちでざっくり説明してあげますから、もう行きましょうか」


 古城を指さしてパティアの手を引き、タルトやパウル夫妻に手招きしました。

 彼らもこんな修羅場を見せられても困るでしょう。


「ちょ、ちょっと待てネコヒト! おいタルトてめぇ、勝手にバラしといてテメェまで行く気かよッ?!」

「はっ、自業自得じゃないかい! それにね、今のキシリールなら、アンタの言い訳を聞いてくれるかもしれないよ。ダメなら頭下げて、騎士団には突き出さないでお願いします、とでもわびな!」


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