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24-1 ネコは真実と蜂蜜を求めて東に征く - Fairy -

 出発した時刻が時刻です。

 みるみるうちに太陽は南天して、やがて魔界の暗雲に飲み込まれました。


 闇夜の魔界の森を、夜目を持つわたしは東へ駆け抜ける。

 人の領土に近づくにつれて積雪は減り、それに比例して別のものと遭遇するリスクが上がりました。


 迷宮を仕事場とする冒険者(ごろつき)どもです。

 時刻が深夜遅くを迎えた頃、わたしの針路は野宿の明かりと冒険者どもにぶつかっていました。


 そこでネコヒトは荷物を樹木の上に隠し、静かに忍び寄る。

 ウェポンスティールでやつらの武器を盗んでやろうかとも思いました。

 が、今は荷物になるだけですし止めておきましょう。


 その代わりにパナギウム側の情報をいただくことにします。

 彼らのすぐ真上の樹木でネコヒトは音もなくはい上がり、ボソボソとした世間話に聞き耳をたてました。


 最初は女や酒の話でしたけれど、しばらく我慢して様子をうかがっていると、どこか気になる別の話題が始まっていました。


「しかしこんなヤバい商売もう辞めて、あの話受けた方が良かったかな……」

「はぁっ? 何だよそりゃ、そんだけじゃわかんねぇっての、あの話って、どの話だよっ!」


 冒険者どもには悪と中立、それからまれに善玉に分類される者も一応います。

 わたしが一方的に善と決めた若い男を、悪としか思えない薄汚いやつが必要もないのにあおりました。


「アレだろ、俺たちを正規兵にしてくれるって、新王サラサール様のお達しのことだろ」


 そうです。わたしたちが冬ごもりをしている間に、既に戴冠式が行われてヤツがパナギウムの国王になっていたはずです。

 それは要約してしまうと、即位したあのクズ王子が正規兵の増員のために、冒険者(ごろつき)に声をかけているという話でした。


「はっ、何言ってんだ夢見てろ。正規兵なんて給料安いだけだぜ、止めとけ止めとけ、俺たちにゃ合わねぇよ」

「だけどいつまでも冒険者なんてやってたら、命がいくらあっても足りないよ。いつか引退するなら、今が潮時かもなって……」

「まあそうだけどよー……今さらつつましい生活が、俺らにできるかって言えば……。ま、どうだろなぁ~、ハハハ、わかんね」


 中立のやつが乾いた枝をへし折り、赤い炎にくべる。

 どうでもいいですけど、すっかりわたし自身が、パティアのもたらす白い炎になじんでいることにも気づかされました。


「安酒すら満足に飲めねぇ生活なんてよ、俺は考えられねぇ。ああ、魔族に狙われて惨たらしく殺されるのは、俺だって勘弁だけどよ」


 パナギウムは平和ボケの国。国力に対して兵力はだいぶ少ない方です。

 穏健派寄りのわたしからすれば、むしろこれでバランスが取れて良いような気もします。


 正規兵の増員を、あのクズ王子が望んだという時点で、何かいやな予感がしてなりませんがね……。


「実はさ、みんなを紹介したら、結果抜きで紹介料払ってくれるって言うんだよ、仲介人って言ってるやつが。そいつで一杯どうだろ?」

「……それはまた怪しい話ですね。ほら思い出して下さいよ、パナギウムの軍部と言えばケチで有名でしょう?」


 王者としての誇りすら持たないどころか、文字通りに食い物にする。わたしはあの男が嫌いです。

 そこでいつものように冒険者たちの会話にまぎれ込んで、新兵増員を妨害してやることにしました。


「確かにケチなパナギウム軍が、急に金払いが良くなるなんて、変かな……」

「ああ、それに俺なら仲介料はちょろまかすぜ」


 彼らの人数は10名と少し、暗さもあって簡単になりすませます。


「そうなるとまさかとは思うのですが、サラサールは戦争でも起こすつもりでは」

「お、おいっ、戦争だって!?」


「はい。そうなったらわたしたちは、真っ先に使い捨てにされるでしょうね。若者を新兵から育てるのではなく、わたしたちのような冒険者(ごろつき)どもを正規軍に組み入れるなんて、今すぐ何かを起こすつもりにしか見えませんので」


 嘘です、実際はわかりません。

 性癖と人格はともかくサラサールに情勢を読む能力があり、急ぎ兵員増強をしなければならないことに気づいただけ、なのかもしれません。


「ぉぉ……おめぇ意外と頭いいじゃねぇか!」

「え……。え、いや、今の俺じゃないよ」


「はぁっ?! じゃあ誰だってんだよっ、ここにはお前以外バカしかいねーだろ!」

「でも俺じゃないんだって!」

「それじゃ……ま、まさかっ?! 最近魔界の森に現れるっていう、噂の、妖精さんってやつか……っ?!」


 いきなり素っ頓狂な名詞が飛び出して、わたしは状況の把握に困らされました。

 そういえばわたし、森やギガスライン要塞でこうやって頻繁にちょっかいをかけたりしています。


「ギガスラインで一時期怪談になったアレか!? ひ、ひぇっ、俺ぁそういう話苦手なんだよぉぉっ!!」

「いや妖精はいきなり会話に加わってくるだけで、危険ではないらしいよ?」


「さ、さんを付けろクソ野郎ッッ!!」

「そうだぞっ、今ので妖精さんが機嫌を損ねたかもしれないぞ!」


 わたしの自意識過剰でなければ、これ……わたしのことですね……?

 はぁ……わたしを邪精霊トロールどもと同じにしないで下さいよ……。


 そもそも何で、あなたたちみたいなクソ野郎どもに、さん付けされなきゃいけないんですか。


「別に好きに呼んで下さってかまいませんが。それよりお聞きを。サラサールはクズの中のクズ、彼には仁義など通じません。この話、絶対に止めておいた方が無難ですよ」


 これで用件も済みました。

 妖精さんは暗闇のキャンプ地から離れます。まずはリュックを回収しませんと。


「おお、妖精さんは頭がいいな……」

「わかったぜ、あざまっすっ妖精さん! よっしゃぁ、俺たちのホームグランドは兵舎なんかじゃねぇ、迷宮だぞおめーらッ!」

「安い給料で戦争なんてしたくないしなぁ……」


 背中の方からマヌケどもの感謝の声が聞こえてきました。

 冒険者に感謝されるなんていつ以来でしょう。


 ああそうでした。人間の国での工作のために、その昔に善良な冒険者ウォードを、カスケード・ヒルの牢獄より連れ出しました。

 レゥムに潜入するたびに、彼から感謝の言葉をもらったものです。あれっきりになりますか……。


 妖精さんはキャンプ地を抜けて、再び東への快速の旅を再開しました。


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