22-1 雪解けから始まる新しい日々 - けんけん! -
助っ人の正体がわかりました。パナギウム王国より連れてきた小柄な名馬ピッコロです。
バーニィが正門の前にピッコロさんを連れてきて、何やらそこに準備されていたものを馬体に装着させようとしていました。
「ああこらっ、何だよっ?! 俺はただ、手伝ってくれって言ってるだけだろ馬公よぉっ?!」
それはバーニィ手作りの農具です。彼はピッコロを農耕馬として使おうとしていました。
ピッコロさんはわたしの視線に気づくと、助けてくれと言わんばかりに悲しい鳴き声を上げる。
最後は農具をふりほどき、わたしの前に飛び込んで来てしまいました。
慰めて欲しいとネコヒトに身を擦り付けて、軽く愛情表現として肩を甘噛みしてくれます。
「あえて言うまでもありませんけど、ピッコロさんの変わりに代弁しましょう。嫌だそうですよ」
「おい馬公よ、食った飼い葉の分だけ働いてくれ、って言ってるだけだろ?」
「バーニィ、そういう言い方は良くありません。ピッコロさんは賢い方ですから、ちゃんと頼めばやってくれますよ」
バーニィからかばうように、わたしよりずっと大きな動物を見上げて首を撫でました。
この子は意外と甘えん坊でかわいいのです。
「そうか? じゃあ頼む、畑を耕すの手伝ってくれ、馬公。いやピッコロさんよ」
「だそうですが、どうされますか?」
バーニィには目を向けず、わたしに向かってピッコロさんが首を横に振りました。
それでも嫌だそうです。なるほど、これで何となく見えてきましたよ。
「おい、まさかそいつ……」
「あなたも気づきましたか。どうやら彼にも彼なりの職業意識があるようですね」
今度は縦にうなづいて高いいななきを上げました。
人を運ぶのが自分の役割、なのに畑仕事をさせるなんて、バーニィがひどいんだ。とでも言ってるんでしょうか。
「せっかく道具作ったのに……馬のプライドの方は想定してなかったぜ。おいピッコロ、俺が調教し直してやってもいいんだぜ? 鞭でも使ってな」
鞭は嫌だと、ピッコロさんがわたしの後ろに逃げ込んでしまいました。
普通の馬ならバーニィの対応が正しいのでしょうね。
「バーニィ、気持ちはわかりますがピッコロさんは普通の馬じゃありません。うぬぼれるだけの脚力と、言葉を理解する賢さがあります。あんまりいじめるとグレちゃいますよ」
「だけどよ、畑仕事手伝ってくれたらこっちも助かるんだけどな。なんせ俺らが何度もクワ振らなきゃ片付かない仕事も、ピッコロならあっという間だ」
このことはピッコロさんの世話をしているアルスに任せておけばいいことです。
アルスならばちゃんとこの子を説得してくれるでしょう。
「なるほど、あっという間、ですか」
「おうよ。子供たちはがんばってくれてるけどよ、身体の限界がある。今まで酷い生活してきたからな、筋肉もまだ十分じゃねぇ」
筋肉というのはそうそう簡単には増えません。
栄養失調で衰えた身体を回復させるには、長い時間がかかるのです。
「バーニィ、さっきの話覚えてますか?」
「さっきってぇと……ああ、種の調達の話か?」
「ええそうです。ピッコロさんはけして働きたくないわけではありません、単に彼は、畑仕事は気が乗らないだけです。そうですよね?」
わたしが問いかけると、がぶりとまた肩を二度も甘噛みされました。
わかってくれて感激、とでも言いたいんでしょうか。
「ほら」
「……わかった。今回はそっち方面で頼む、任せたからな馬公」
ピッコロは態度を変えて、ひづめを鳴らしてバーニィに駆け寄りました。
それからありがとうを示しました。
「あだっ?! こら馬公っ、今のネコヒトにやったのと全然違うだろっ!」
気のせいです。とにかく今から行きましょう。
ピッコロとわたしのペアでカスケード・ヒルに忍び込み、種芋もろもろを調達して帰るのです。
●◎(ΦωΦ)◎●
その後すぐに路銀や売り物をまとめると、わたしはピッコロさんを連れてパティアに一声かけました。
「ということでして、すみませんが行ってきます。帰りは早くとも深夜になるでしょう」
「むなしい……」
「むなしい?」
「ねこたんのふかふか……ないと、むなしい……。たいせつなもうふ、なくした、きぶんになる……」
あなたにとってわたしは毛布枠ですか……。
ですが惰眠を愛する者として、そのお気持ちはわからないでもありません。
「聞いて下さいパティア、ピッコロさんを活躍させないと大変なことになるのです。具体的に言うと、バーニィがこの子を鞭で調教したがっています」
「な……なんだとぉぉぉーっ?! そんな、そんなのみそこなったぞ、バニーたんめーっ!!」
いつもの特に意味のないがに股で、パティアは態度を一変させました。
この子は寂しがりでもありますが、男気あふれる正義漢でもありましたから。
「ですがカスケード・ヒルまでわたしを運び、沢山の芋や豆の種を持ち帰ればお手柄です。バーニィも鞭でペンペンして畑仕事をさせるのを、一時は諦めるでしょう」
「わかった! それまで、バニーたんはパティアにまかせとけー! ずっと、くっついて、かんししとく! ラブちゃんがぷりぷりしても、ずっとずっとだ!」
すみませんねバーニィ、一般常識の範疇ではあなた全然悪くありません。
しかしピッコロにはっきりと人語を理解するほどの知能がある以上、鞭で従わせるような関係は理想的とも思えません。
「それは助かります。バーニィから目を離さないようにして下さいね」
「よし、いまからみはる! ねこたん、ピッコロさん! けん……えーと、えと、なんだっけ……。ん~~……けんけんをいのっとく!」
「何の儀式ですか」
健闘を祈る。きっとそう言いたかったのだなと気づいた頃には、わたしとピッコロさんは雪の残る魔界の森を駆け抜けていました。




