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21-4 白いネコヒトと黒いネコヒトの北方遠征 - 稀代の勇士と余計なおまけ -

「ふぅ……やっとですか」


 通常の方法ではまずここにたどり着けない。

 ようやく再深部に到達すると、そこに家1つ分ほどの空洞とすり鉢状に下ってゆく祭壇がありました。


「これは……」


 それと死骸です。祭壇の奥に向かう途中に、道を阻むかのようにカサカサに乾いた死体が転がっていたのです。

 何てことでしょう、その死骸が立ち上がりました。


 フードをまとった得体の知れない者です。

 リッチと呼ばれる暗黒魔導師のなれの果てに似ている気がします。


 まず間違いなく味方ではないことですし、わたしはレイピアを抜きました。

 リッチの眼球無き虚ろな穴がわたしを見つめている。

 それから声の出るはずのないその喉が叫び声を上げました。


「ザガ、貴様……、何故、生きている……。呪われろ、反逆者どもめ……ッ!」

「人違いです。わたしは人に頼まれて、そこの彫像を貰い受けに……」


 死体生活が長くて耳が遠いのでしょうか。

 ネコヒトは怒れる死骸からの攻撃を受けるはめになりました。


「邪魔をしないで下さい」


 闇魔法の弾幕をかいくぐり、浮遊する死体の腹をレイピアで両断する。

 ところが干物のような肉体は二つに離れず、ヤツの霊体とでも呼べる物が肉と肉を繋ぎ止めてしまいました。


「これはこれは。ヤバい系ですね、あなた」


 数ある魔族でもこういった術は好みません。

 遠い昔に使ってはならないと、歴史上から消されたやつだからです。


「ザガ、死ね……」

「付き合いきれませんよ」


 戦っても決着が付かない嫌な相手でした。

 そこでネコヒトは祭壇から彫像を奪い、とんずらしてやることにしました。


 ヤツの肉体をもう一度傷つけると、その隙を突いて祭壇より彫像を回収したのです。

 片手で握れるほど小さいもので助かりました。美しい瑠璃の女神様です。


「……よくやった、うぬの力、少し借りるぞ」


 すると何かの条件を満たしたのでしょうか、あの黒いネコヒトが現れました。

 像の揺らがぬそれが、まるでネコヒトには似つかわしくない両手剣を構えて、リッチを左右真っ二つに両断したのです。


 その時フードの中からのぞいた人骨は、人間の物にも見えました。


「さあトドメを刺せ、グラングラムの後継者よ!」

「フフ、お断りですね。なぜならわたしは、ただの隠れ里ニャニッシュのしがない住民だからです。ホーリーアロー」


 わたしが苦手とする神聖属性の術を放つと、弱ったリッチはいとも簡単に消滅してくれました。

 悔しいですけど先ほどの、黒いヤツの一撃が効いたようです。琥珀の洞窟に再び静寂が帰ってきたのです。


「それをグラングラムに持ち帰れ、さすれば……」

「クークルスは病状からたちまち回復。そうならなければ、あなたをわたしが消します。少なくともこの女神様は無事ではいられないでしょうね」


 彼の像が揺らぎました。

 精神体である彼は実体を維持するだけでも大変なのでしょうか。


「見事だ、末裔よ」

「はるばるこんな北の果てまで連れてきておいて、美味しいところを持って行ったあなたが言いますか、ザガ」


「ネコヒト稀代の勇士に賞賛を」


 両手剣を持った黒いネコヒト、ザガは溶けるように消えてゆきました。

 こんな傲慢不遜なやつと一緒にするだなんて、あのリッチは見る目がありませんよ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 帰りもまた強行軍となりました。

 北部の雪解けが始まっている以上、やはり殺戮派の行軍や、人間の軍勢に遭遇する可能性がありました。

 南部が戦いのほぼ存在しない辺境ならば、北は人と魔の主戦場です。

 

 その地より南下するにつれて雪が増えてゆきます。

 行きは4日、帰りは3日半の旅路となりました。


 疲れ果てた身体で、ようやく大地の傷痕の結界をくぐり抜けると、そこには……。


「ピヨヨヨヨ!!」


 しろぴよさんのお出迎えが待っていました。ネコヒトを心配して頭に乗かってくるほどにです。

 お気持ちは嬉しいのですが、かえって邪魔ったい上に糞をされないか不安です……。


「しろぴよさん、それより帰って来たと、あの子に連絡を」

「ピヨッ!」


 それもそうだ、とでも言ったのでしょうか。しろぴよさんが城の方角に飛び去ってゆきます。

 つくづく疑問です。あの鳥、なんなのでしょうか……。


 ともかくわたしもその後ろ姿を追って、最後の気力を振り絞り古城へと帰還しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 城の東バルコニーと、城壁の下を繋ぐタラップが完成していました。

 少し強度の怪しいそれを一気に駆け上って、ネコヒトはバルコニーに飛び込む。


 するとあの瑠璃の彫像が急に光を放ち始めました。


「しまっ……」


 いえそれが急にわたしの彼の手を離れて、城内の奥へと飛んでゆくではありませんか。

 ここまで来て出し抜かれるわけにはいきません。


 ところが全力でそれを追いかけると、1階への階段を下り抜いたところで宙に静止していました。

 実はそこには前々から不自然なスペースがありました。


 元々は地下への道があったのではないかと、ちょっと疑いたくなるような場所だったのです。

 はい、そこに在るはずのない下り階段が生まれていました。


 再び動き出した彫像を追って地下に入り込むと、あるのは光る封印術が施された部屋の数々と、1カ所だけ解き放たれた奥の部屋があります。

 その中に入ってみれば、そこは祭壇となっており、瑠璃の女神像はそこへと自らを安置していたのでした。


「よくやってくれた」

「あなたは全くもって、心臓に悪い方ですね……」


 祭壇の前に立つとすぐ真後ろにあの黒いネコヒトが現れました。

 バックレたりはしなかったようです。


「これでようやく、長きくびきより解き放たれる……」

「よく言いますよ。それよりクークルスを助けて下さい」


「もう助けた、良き家臣を持ったな、末裔よ」


 あまりにあっさり言われてしまったせいで、信憑性がまるで欠如していました。

 それと家臣などというザガの発想も浮き世離れしています。


「違いますね、あれはわたしの恩人にして大切な友人です。わたしはあなたと違って世俗的なのですよ」

「知っている、ここから全て見ていた。我が輩の城に迷い込み、人間の娘を養子に迎えたところから、ずっとな」


 ならば教えて差し上げましょうか、ザガ。

 そういうことを言うからうさんくさいのです。


「クークルスの無事を確認してきます。もし嘘だったら、ここを焼き払います」

「あのメギドフレイムか……」


「はい、最低最悪の術だと、わたしも長らく思っていたやつです。だが違いました、あれは救いの炎だったのです」

「邪神の力を我が力に変えるか……時代は変わったな。偽魔王エレクトラムよ、また頼る」


「フフ……丁重にお断りします。ザガ、あなたに付き合っていたら過労死してしまいますので」

「ああ……経緯はどうあれ、悪かったと思っている……あの娘が無事で良かった」


 我が耳を疑い後ろを振り返るともういません。

 黒いネコヒトはそれっきり姿を現さなくなりました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それから真っ直ぐに2階の個室に戻ると、ちょうどクークルスがベッドより立ち上がる場面に行き当たりました。

 しろぴよから連絡が来ていたのでしょうか、そこにパティアの姿もありました。


「た、たいへんだーっ、ねこたーん! クーが、クーが、なおったけど、へんだー!」

「はて、変とは?」


 ところがせっかくわたしが帰ってきたというのに様子がおかしい。

 パティアは顔の血色を良くして興奮しておりました。


「みみ!!」

「耳?」


 パティアがシスター・クークルスを指さしたので、わたしも目を向ける。


「あら、ねこさん、うふふ、わたし急に具合が良くなったみたいで」


 クークルスがこちらに振り返ると、頭のてっぺんに何か妙なものが付いていました。

 そうそれはまるでアレのようです。


「ご無事で良かった。ですがわたし、どうやら疲れてるみたいです、お先に寝ますね」

「ねこたんっ、それっ、それみまちがえじゃない! クーに、クーに、ねこみみ! はえたー!」


 黒いネコヒトという幻を何度も何度も見せられたせいです。

 よく見ればパティアが言うとおり、それは現実であり、シスター・クークルスより生えた猫耳そのものでした。


 グラングラムの城主ザガ、これはどういうことですか……?

 確かにわたしはクークルスを治せと言いましたが、ネコ耳を生やせとは一言も言っていません……。


 というより、バーニィとアルスが異常興奮するので早くこれを治して下さい。


「あらほんと、ふかふかしてるわ~♪ うふふ、死にかけたとおもったら、ふかふかが生えるなんて、私とってもラッキーねー♪」

「いえ、もう少し動揺されてはどうでしょうか……」


 猫耳の付いたシスター・クークルスは、だんだんわたしの中の違和感が薄れてゆくほどに似合っていました。

 しかしこれでは、もう人間の世界に帰れないではないですか……。


「それはそーと、ねこたんおかえりー! ねこたんのおかげで、クーなおった! ありがとねこたんっ、パティア、クーがだいすき! そのことに、きづいた! クー、あのね、おねがいだー、ふわふわのねこみみ! さわらせてー!」

「はーい、どうぞどうぞ~。あ……結構くすぐったいですねこれ、ねこさんの感覚ってこんななのかしら♪」


 どうしましょう……。これで良いんでしょうか……?

 ええまあ、余計なオマケが付きましたがクークルスが健康を取り戻しましたし、パティアも喜んでいます。


 今回の件で、クークルスへの自分の好意に気づいたみたいですし。結果だけ見ればまあ……。


「あ、聞いて下さいねこさん、今、神様からのお告げが来ました!」

「はぁ、お告げですか……?」


「はい、そうなんですねー、わかりましたー。……えーと、あのですね、耳はー、サービスだそうです♪ 神様って、意外とおちゃめさんだったんですね~♪」

「いいなぁー! パティアもほしいっ、ねこたんとおなじ、みみ! みみいいなぁーっ、ずるいずるいずるいぞクーっ!!」


 ザガ、余計なことしないで下さい……。

 ああもうこんなことに付き合い切れません、もう寝ましょう。

 耳が生えようとこの天然マイペースはシスター・クークルスそのもの、元気になった、これでどうにかハッピーエンドです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「クーさん、その耳は反則だ! どうか、どうかボクと結婚してくれ……でないと過ちを犯してしまいそうだ!」

「なんつーかよ、シスターさんよ。おっとり猫耳シスターとかよ、属性盛りすぎでかえって希少だろそれ……」


 ちなみにバーニィの反応は意外にも素の対応でした。

 パティアとクークルスがこれまで以上に仲良くなり、ついでに彼女が少しだけ地獄耳になったこと以外は、変わらない日常がわたしたちの前に帰ってきたのでした。


いつも誤字報告下さりありがとうございます。

対応が遅れておりましたが、先日修正いたしました。何かミスにお気づきになりましたら、引き続きご指摘を下さいませ。

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