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21-4 白いネコヒトと黒いネコヒトの北方遠征 - 白く冷たい旅 -

 他に方法はありません、それでクークルスが助かるというなら行くしかありませんでした。

 冬の間はパティアと一緒にいると約束したというのに、まったくわたしという者は、悪運が強い反動なのか、妙なことにばかり巻き込まれます。


「パティア、この腕輪をあなたに預けます」


 そこでネコヒトは腕輪の片方をパティアに渡しました。

 預けると決めたら、途端にあんなにもに外れなかった腕輪がわたしの手首からずれ落ちてしまったのです。


 場所はいつもの東バルコニー、粉雪の降り積もる朝のことでした。


「クークルスの様態が危うくなったら、その腕輪を使って黒いやつと再交渉をして下さい」

「わかった……クー、しんだらやだ……。うん、パティアにまかせろ! ぜったい、クーはしなせない! クーもパティアがまもる!」


「立派ですよパティア。バーニィ、あなたたちは平常運行で、引き続き春の準備を。雪解け前に戻りますので」

「平常運行だぁ? 一番厄介な無理言いやがって……。わかった、クークルスちゃんがいねぇとこの里は回らねぇ、こっちのことは全部俺に任せとけ」


 クークルスに憑り付く存在が見つかった以上、薬草をかき集めたところでどうにもなりません。

 それにもうじき雪解けの季節です、今から準備に入らなければなりませんでした。


「リック、ソロでドラゴン討伐は自粛して下さい。デカフクさんが奇声を上げます」

「ああ、だがバーニィと、パティアを連れて、一度だけ潜ってみようと思う。宝箱には、薬を願うよ」


「それでもし治れば、あの黒いネコヒトとの取引は破談ですね。ま、こちらはこちらでやれることをやってみます。それでは……」


 アレがクークルスに憑り付いている以上、根本的な解決にはならないのでしょうけど。

 わたしは見送る彼らに背を向けて、日々の雪かきで生まれた東の森への雪道を見下ろす。


「ねこたん!」

「はい、何でしょう?」


 さあ行こう、飛び降りかけたところで大きな声がわたしを呼び止めました。


「クーをたすけて! パティアは……クーがだいすきだ! ずっといっしょにいたい! あとな、これからはねこたん、ちょっとくらいクーにさわらせて、あげるんだ……! ねこたんっ、いってらっしゃいっ!」

「どうかわたしにお任せを。必ず助けてみせましょう」


 仰々しいいつものお辞儀をパティアに向けて、バルコニーを飛び降り大地の傷痕を出立しました。

 まずは東の森まで走り、そこから森の中を北へと進む。


 まだ雪の溶けていない悪路の上を、久々のアンチグラビティを使っての軽業で、木から木へと飛び移って抜けて行きました。


 あの黒いネコヒトの影は、断片とやらをわたしに憑依させたそうです。

 それが行き先を導いてくれるそうでしたが、それらしきものはどこにも見えません。


 とにかく今は北へ、冬の間に温存した魔力を全て使い切る覚悟で先を急ぎました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それは冷たく果てのない旅でした。

 病床のクークルスを救うために一刻を争う強行軍です。


 それが三日間続き、その日も夜がやってきました。

 夜間の冷え込みと疲労をどうにかするために、ネコヒトはたき火を作ってその前にしゃがみ込んでいます。


「思えば無茶苦茶な要求をされたものです、今さら手ぶらで帰れませんがね……」


 幸いは北部の雪解けが今年は南部よりも早く、先日から積雪のない大地を見つけることができたことです。

 移動もグッと楽になりましたし、比較的乾いた木とも出会いやすくなりました。


 白くはない赤い炎をぼんやりと眺め、わたしは夜の間ずっとうとうとと身体を休める。

 熟睡すればモンスターの餌食です。炎を絶やすわけにもいきませんでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 何かが目の前にいる。奇妙な気配を感じてわたしは目を開きました。

 時刻はもう朝方前、森の中からは東のギガスラインはよく見えませんでしたが、漆黒だった空が濃紺になりかけています。


「…………」


 そこにあの黒いネコヒトがいました。

 わずかに揺らいでいるものの、その像はあの時と比べものにならないほどしっかりしています。


 そこに豪華なサークレットを身に付け、背中に大きな剣を背負った黒いネコヒトがありました。


「末裔よ、明日からは影を追って進め」

「すっかりご先祖様気取りですね。それより約束、絶対に守って下さいよ」


「あの娘は願いと代償が釣り合わなかった。我が輩のせいではない」

「よく言いますよ……。もし死なせたら、わたしの復讐リストにあなたを入れます。必ずあなたをこの地上より抹消します」


 わたしが戻るまでクークルスを死なせない。そういう契約を彼と結びました。

 ちゃんと履行してくれるとは限りません。


「約束は守る。彫像さえあれば……グラングラムは再び蘇る……」


 このネコヒト。いえネコヒトだった者はずいぶんあの城にこだわりますね。

 今付けている冠の様式は、気が遠くなるほど昔の物に見えてきます。


「それを、我が末裔が城を継いでくれるというならば、なおのこと、不満などない」

「そこがうさんくさいのですよ」


「なに……?」

「あの城には人間の生活の名残があります。魔族の物ではありません、なのであなたは嘘をついている」


 今は彼という影の像もしっかりしていますので、探りを入れました。

 わたしの指摘に動揺しません。図星という反応にも見えません。


「いえ、あるいは――元々人間のものではなかった可能性も、ないこともありませんね」


 そこでひっくり返してみました。

 わたしとパティアのように、あの古城に後から人間が来て勝手に拠点にした可能性もあります。


「そうだ、元々あれは我らの城だ」

「ではグラングラム、偉大なる竜殺しという名の意味は?」


「フンッ……竜の姿をした宿敵を倒す、そのための城だった」

「黒ネコが竜を殺す? ご冗談を」


 ネコヒトは強くなれません。体格という欠点がどうしても限界として立ちはだかる。

 それが竜を殺すだなんて、それこそ冗談が過ぎました。


「まだ我が輩を悪魔だと思っているのか……?」

「はい。あなたは白いネコヒトであるわたしの反対の姿、黒いネコヒトであらせられる。同族のふりをするために化けているのでは」


 彼の返事を待たず、わたしは再び浅き眠りに入りました。

 どちらにしろクークルスを死においやりかけた者と、親しく話す気などありませんでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 目覚めると北北西の空にぼんやりとした影が浮かんでいました。

 目玉に付いた汚れのように邪魔ったいそれを追いかけて、わたしは魔界辺境北を駆け抜ける。


 ここは危険地帯です、雪が完全に溶ければ人間の国と殺戮派が争う戦場となります。

 周囲を慎重に警戒しながらわたしは影の麓を目指しました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 麓にたどり着くと確かにアレが言うとおりの洞窟が見つかりました。

 ここが影の真下ですから他になさそうです。


 光の照明魔法を発動させて、怪しいその洞穴を下ってゆくと、内部はギザギザとした鍾乳洞になっておりました。

 しかしそれも途中までです。だんだん組成が変わってゆき、琥珀のような輝きに移り変わりました。


 小さい物を一本もぎ取ったのはパティアへのお土産のためです。

 地中に巨大な琥珀の層、妙な場所に派遣されてしまったものでした。


 やがて分かれ道にたどり着くと、霧のような人影が現れてわたしを導きます。

 分かれ道に行き当たるたびにそれが現れ、消える。

 それはまるで、地獄の底へと通じる道を歩いているかのようです。


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