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3-2 レゥムの街、齢300年のわたしのコネ

「しかしこちら側も久々ですね……」


 要塞の先には草原とレンガ作りの赤い道がある。

 しかしそれも少しばかりの道のりを歩めば、すぐに灯火がぼんやりと輝く立派な夜の街を見下ろすことが出来た。

 ギガスライン要塞は、この街から見て高台に位置しているのです。


「レゥムの街……また大きくなりましたね。焼き払いたくなる側の気持ちも、わからないでもありません」


 ここはギガスライン要塞の兵士たちと、迷宮の産出物をあてにした街です。

 魔族と人間の戦争が続く北部と違って、南部にあたるこちら側は要塞付近に大きな街が生まれるくらいには平和が続いている。


 魔軍好戦派としては、ギガスラインのどれかしら1点を突破さえ出来ればいい。

 よって南部を支配するパナギウム王国とことを構えて敵を増やしたがるやつは、今のところ魔軍ではごく少数派です。


「さて、()の家はどの辺りでしたかね……。あの時計塔には見覚えが……そうなると、引っ越しされていないといいのですがね」


 とにかくこの辺りは兵士と冒険者(ゴロツキ)が多いので全体的に荒っぽくて、何と申しますかアウトロー上等な街でした。


 だからわたしのような小柄な生き物が、コソコソと闇夜を歩き回るのに都合が良い。

 四つ足で歩いていれば遠目では大型の犬か何か、冒険者にテイムされたモンスターだと思い込んでくれる方々も多い。と思いたい。


 闇夜とランプの灯火に彩られた荒くれの街を、わたしは忍び足で進みました。

 まずは獲物の毛皮と希少薬草を換金します。

 そこでそのために古い知り合いの家を訪ねることにしました。名はウォード、元冒険者の男です。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 華やかで酒臭い街を抜けて、とある郊外の一軒家にわたしはたどり着きました。

 その玄関先に立ち、ハイドの術を解除しました。中には人の気配があります、どうやら予定通りにいってくれそうでした。


 ノックをして、わたしはすぐ近くにあった樫の木の影に隠れた。

 静かに息を潜めて、魔界側よりもずっと明るい星空を見上げて家主が現れるのを待つ。


「はい、どちらさまでしょうか……?」


 するとわたしは意表を突かれていました。

 思いもしない、若い女性が姿を現したのですから。

 彼の娘だろうか、暗がりからうかがうも、あまり彼に似ていないような気がする……。


「…………」

「あら……わたくしとしたことが遠耳でしょうか。でも、確かに聞こえた気が……おかしいわ、お迎えのお化けでも来たのかしらね……」


 当然彼女は不審がりました。

 それは首狩りウサギのように淡い緑の髪をした、聖堂に属するシスターです。

 首から木彫りの逆十字のアンクをたらし、濃紺の修道服を着込んでいました。

 聖堂、本来あまり接触したくない勢力です。まあこうなっては仕方ない。


「すみません、思っていた方と違ったので驚いてしまっていたのです。ところですみませんが、ウォード氏はこちらにいらっしゃいますでしょうか」

「ぁぁ……何ということ……。お気の毒に、それは間が悪ぅございました。ウォード老ならば、つい先ほど、亡くなられたところです……」


 どことなくやさしそうな声です。それがわたしを気づかってくれた。

 わたしが魔族だと知ったら同じ言葉を吐けるとは思いませんけど、きっとかなり真面目なタイプなんでしょうね。


「そうですか、それは残念。確かに間が悪いですねわたしは」


 当てが外れてしまった。

 その昔に、わたしが魔界の監獄からの脱走を手伝ってやった男がいました。

 それがウォードという青年冒険者です。ところがもう老人になっていて、死んでいたときます。


「お姿を見せて下さいお客様。あっ、自己紹介がまだでしたね。わたくしはこの街の聖堂でシスターをしている、クークルス・ドゥーアンと申します」


 今に始まったことではありませんが、人の老いはあまりに早過ぎる……。

 それにこのクークルスというシスターは、もう少し人を疑ったり、警戒するべきだとわたしは思います。

 今姿を見せてやったらどうなるだろう、だなんていたずら心が働くほどに。


「よろしければウォードさんに、お別れの言葉を捧げられてはどうでしょうか」

「いえそれは結構です。彼も哀れな姿をわたしに見られたくはないでしょう」


 しかしその誘いはなおさら都合が悪い、聖堂は魔族を敵視、絶対悪としている。

 魔界で言うところの、あのミゴーの属する派閥、殺戮派に近い勢力です。


「ならば貴方は、何のためにここに来られたのでしょう。ご用事ならばわたくしが承りますが……」


 なぜここに来たのか、そんな当然の質問をされてしまった。

 すぐに答えないと疑われてしまう。


「わたしと彼は古い知り合いでして、わたしは人里離れた土地に住まう狩人なのです」

「まあ、狩人。大変なお仕事をされているのですね……」


「ええ狩りはいいのですけど、まあ色々と。ではなくてですね、首狩りウサギ等の毛皮がたまったので、ウォードに買っていただければと思って訪ねたのですが、時の流れとは早いものです」


 バーニィ・ゴライアスはうさんくさいおじさんです。

 だけど確実にわたしの負荷は彼のおかげで軽減されていました。

 わたしの代わりにパティアのやんちゃっぷりに手を焼いてくれているのです。……あ、今は関係ない上に脱線ですね。


「まあっ、首狩りウサギの毛皮をですか! それは珍しい物を手に入れましたね」

「ええまあ、こちら側(・・・・)では珍しいようですね」


「わたくしね、とある子爵家のお嬢様にこの間、その毛皮を触らせていただいたんです。それが、淡い翠の色彩にやわらかな手触りが加わってそれはもう、素晴らしいもので……あんなものがこの世に存在するのですね……。あ。あら、わたくしったらつい語ってしまって、すみません……」


 よっぽど毛皮が好きなのでしょうか、シスター・クークルスは饒舌でした。

 わたしはそれに続いて気づく。もしかしたらこれは、チャンスなのではないのか、と。


 どうもこの女性、シスターというだけあってチョロそうです。この街相応に平和ボケしている。

 見た目の年齢もまだそんなにいっていない、20代後半には入っていないでしょう。


「ならあなたがわたしから買いますか?」

「えっ……い、いえっ、わたくしは神のしもべ、そんな大金は――あっ?!」


 暗がりからわたしは首狩りウサギの毛皮を出して見せた。

 それに気づき、彼女はこちらに駆け寄ってくる。


「未加工ですが、仕立屋に持って行けばマフラーや敷物くらいにはなるでしょう」

「いえですからっ、わたくしにはとても手の届かないものなのですっ」


「他にもわたしはとても珍しい薬草や、首狩りウサギの亜種の毛皮も持ってきています」


 さらに布袋を開き、乾燥させた薬草を見せた。ちなみに袋はバーニィから借りたものです。


「ああそうですね……。ならばわたしの代わりにこれらを売りさばいてくれるというなら、手間賃としてこの毛皮をあなたに差し上げましょう」


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