21-2 暇を持て余した牛と猫は迷宮を下る - バカ言うんじゃないわよああた! -
パティアのメギドフレイムと比べればぬるいものです。ちゃんと消える炎なのですから。
そのまま十字槍を持ったリックがドラゴンに向かって突撃してゆく。
しょうがないのでわたしも左翼担当としてそれに付き合いました。
羽ばたきによる空気圧をものともせずかいくぐり、リックは敵の竜爪と打ち合いを始める。
「これがドラゴン、夢にも見た相手だ! それに、何という力だ!」
それと平気で張り合うあなたもおかしいです。
竜はリックとの戦いに熱中を始めました。
そこでネコヒトはお得意のハイドを使い、敵の背面に忍び込んで竜鱗の薄いところに飛び付き貫きました。
「やはりダメですか、わたしこういう相手は苦手です」
あまりに巨体過ぎました。
ちっぽけなレイピアで急所を刺したところで、動きを止めるにはダメージがまるで足りていません。
「クイック! マイトマジック! 今から行きます!」
「ゆけーっ、まどりーんっ!」
ドラゴンはわたしを振り落とそうとしたので、すぐに下りて距離を稼ぎました。
そうすると後方よりマドリが現れました。
先ほどのクイックで己の身体を加速させて、マイトマジックで足りない筋力を一時強化し、パティアを背中におぶり駆けてきます。
「なるほどその手がありましたか。最強の固定砲台を持ち歩くとはお見事。さあパティア、やっておしまいなさい!」
危険な相手であることを動物的に読んだのか、竜はパティアにブレスを放とうとしました。
ですけどリックがそうはさせません。十字槍で竜の顔面を殴り付けて足止めします。
その結果、危険なブレスの矛先がリックに向かいました。
「教官!」
ネコヒトはリックの腰に飛び付きました。
彼女と接触するなりハイドを発動させて、標的であるリックを一時的にドラゴンの目から消して見せる。
成功です、敵は目的を見失いブレスを一度止める。
「がおがぉーっ、パティアはつよい! どらごんなんて、ぜ、ぜんぜん、こわくないもん! いくぞぉぉぉー、めぎどーー、ふれいむぅぅぅー!!」
竜は綺麗なかがり火となりました。
全てを焼き払う絶対の炎がドラゴンを灰へと変え、やがて迷宮の存在の末路、財宝となりました。
それはプリズンベリルではなく、竜眼石と呼ばれる高い魔力を持った宝石です。
爬虫類目玉の形をしたその形状は、見るものが見ればただ不気味な琥珀塊とも見えたでしょう。
「みてみてっねこたんっ、これっ、めだまっ!」
「パティ公よ、お前さんよく平気でそういうのつかめるな……」
「すごい……これ、本物のドラゴンアイですよ!」
まあ要するに金目の物です。
とてもレアですがわたしたちには加工しようがありませんし、金に替えて開拓予算にあてるのがわたしたちのあるべき姿でした。
●◎(ΦωΦ)◎●
パティアの背を追いかける形で、その後は奥の財宝部屋に向かいました。
祭壇の前の宝箱のところまでやってくると、パティアが急にお祈りを始めます。
「あの、何してるの、パティア……?」
「うんっあのねまどりん、いっぱいおねがいするとー、ほしいの、もらえる。かも……?」
それはその時々、迷宮の気まぐれも含みます。
ですがパティアの願った白猫の尻尾の例からして、オーダーにある程度応じてくれる仕様のようでした。
「というよりですねパティア、何勝手に自分のお願いしてるんですか……」
「だって、パティアがんばったし……。ドラゴン、やっつけたよ?」
「確かにな、お前さんがいないとじり貧だったわ。それで、何をお願いしたんだ?」
「うんっ、あけてみてー! あければわかるー」
「わかった、開けてみよう。ん……これは、杖か」
リックが大きな宝箱を開けてくれました。
するとそこには両手杖が入っていました。曇った灰色のオーブの付いた大きな金属スタッフです。
「やったーっ、まどりんのつえでてきたー!」
「わ、私の?!」
「そういえばあなた手ぶらでしたね。パティア、ナイスチョイスです」
「えへへ……パティアね、まどりんすきだからなー。まどりんが、わらうとこ、みたかったんだー」
リックが宝箱から杖を取り出して、一度パティアに預けてくれました。
それからパティアが自分より大きなマドリに、背伸びをして大きな杖を手渡します。
「あ、ありがとう……パティア、何だか私、嬉しい……仲間として数えて貰えてるからかな……」
「ったく、この人たらしが……全部美味しいところ持って行きやがって」
そういえばドラゴン戦であなた、出遅れたのもあってほとんど出番ありませんでしたね。
パティアとマドリを最初にかばったのはお手柄ですが。おや……?
「どうした、教官?」
「何か他に入っているようです。おやおや、金目の物でしょうか」
それを中から拾い上げると、皆の注目が黄金の指輪に集まりました。
重いです。もしこれが純金なら春に物資をたくさん買い込めます。
「あ、でかふくちゃんだー!」
「ひぇっ、な、なんですかあれ……っ?!」
マドリが怯えるのも仕方ありません。
そこに巨大なフクロウこと、デカフクさんが現れました。いえ、ノーブルオウル、でしたっけ……?
「おちびちゃん、その呼び方は止めて下さいませと、何度も言ってるじゃありませんこと?! それはそうとごきげんよう、冒険者の皆様方」
「笑えない冗談はよして下さい、わたしたちをあんなクズどもと同じにしないで欲しいですね」
「喋る、巨大フクロウだと……」
「ここって、おかしなものばかりありますね……。でも、でもすごい……これも初めて見ます!」
マドリがリードの素にまた戻っています。
そこには里での生活が、少しずつ彼の心の健康を取り戻してくれているのもあるのでしょう。
「その黄金の指輪は大切にすることですわ。売ったりするのはオススメしません、それは、ここグラングラムにあるべきものですの」
「偉大なる竜殺しの城グラングラムの名を、あなたはご存じなのですね」
「もちろんですわ。そしておそらくはこの指輪は、そのオリハルコンの腕輪に引きつけられて現れたのでしょう。とにかく、またのご来訪をお待ちしておりますわ」
一方的に言いたいことを言うと、デカフクさんが迷宮の奥へと姿を消してしまいました。
最後の最後に変な物を貰ってしまったものです。
ですがドロップの数々を見れば大豊作です。
リックのストレスもついでに解消できましたし、春の換金が楽しみになってきます。
「近いうちにまた下りましょう。冬の間は確かに暇ですし、ここを積極的に利用してゆくのも悪くありません」
「賛成だ、楽しみにしている。教官、必ず誘ってくれ、必ず」
完璧な前衛リックと、攪乱役のわたし、バーニィという後衛の守護者がいれば、パティアという圧倒的火力が保証されます。
そこに支援を得意とするマドリまでいるのですから、勝利は約束されているようなものでした。
「リックちゃんが行くならもちろん俺も付き合うぜ」
「パティアもなー! もっと、たよってくれて、いいんだからねー、ねこたん」
「わ、私も、ここについてもっと調べてみたいです……」
地上のモニュメントに戻ると、わたしたちはまた一緒に来ようと約束して、邪魔ったい積雪を踏み越えて城に戻りっていきました。
●◎(ΦωΦ)◎●
ところがそこで話は終わっていませんでした。
あの後、迷宮に思わぬ顔が現れたのです。
「ちょ、ちょっとああたっ、まさか独りで来たんですの?!」
「確かデカフク殿だったか。ああそうだ、独りだ」
その後すぐにリックが迷宮内部に現れて、デカフクさんにこう言いました。
「それよりさっきの竜、また出せるか?」
「はい……? ああた、いったい何を言ってますの!?」
「ソロでやりたい」
「バカ言うんじゃないわよああた!! 親切心でこっちがバランスを取って差し上げてるっていうのに、独りであんなの倒すとか正気じゃないわよっ!!」
「そうだ。最近本気で戦う機会が、全くなくてな……。だがあれならちょうど良さそうだ……。出してくれ」
「ああた、ああた正気じゃありませんことよ……」
こうして死闘の果てに、リックは見事ドラゴンをもう一度倒して2つ目のドラゴンアイと共に地上に戻ってきました。
後日デカフクさんはわたしに猛烈に抗議してきましたよ。
あのホーリックスとかいう小娘を、二度と独りで迷宮によこすなと、それはもう舅のように口酸っぱく。
「ここで鍛え続けたら、オレは、ミゴーを越えられるかもしれない……」
「止めて下さい、その前に死にます。それに巨大な猛禽類にガミガミとヒステリーぶつけられる側にもなって下さい」
リックのグラングラムに隠された迷宮の相性は、あまりに理想的で行き過ぎていました。




