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21-1 まっしろで、あったかいひ - VS バーニィ -

 この場を去る以上、娘の活躍を見届けておきたかったのです。

 いいタイミングでそれがやってきました。


「よしいまだー! ゆけー、みんなー、バニーたんをぉぉーっ、しゅうちゅうこうげきだーっっ!!」


 パティアは自分を執拗に狙うバーニィを逆手に取って、己自身を囮にしました。

 走り回って雪玉を避けているうちに、仲間にバーニィを狙わせたのです。


「ウゲハッッ?!」


 一斉攻撃がバーニィをボコボコの雪まみれに変えました。

 壁を盾に身を隠しましたが雪玉の段幕は途絶えません。


「大人を集中攻撃とかイジメだろっ! ってこらカールッ、てめぇら味方だろが!」

「いっけね、バレたか!」


 パティアの人望ということにしておきましょうか。

 カール含むバーニィ軍の子供たちまで、これ幸いとバーニィに雪玉を投げつけていました。


「バニーたんこうさんしろー! かくれてないで、でてこい、パティアがあいてだー!」


 ま、味方から見ても目に余る大人げなさだったのかもしれませんね。


「くっそっ、こうなったら……!」


 本気になった姿が見えました。

 41のおっさんが雪玉を作り、集中攻撃の中パティアの居場所を確認する。


 それから大きく振りかぶって、渾身の一撃をパティアに投げつけました。


「調子に乗んなよっ、くらえパティ公! って、ありゃっ?! ワブッッ?!」


 ところが彼の本気は失敗に終わりました。

 遠方より鋭く雪玉が飛んできて、バーニィの雪玉を狙撃したのです。

 反撃に失敗した大人には、集中攻撃だけが残りました。


「おや、これはすごい」


 リセリです。一番遠くに陣取っていた彼女はこれまで攻撃も消極的でした。

 ところがここぞというこのタイミングで、パティアを守ってすぐに身を隠したのです。


 まるで狙撃手のように、目的を達すると姿をくらましていました。

 その後もリセリに注目してみると、必要最小限の動作で、的確にターゲットの居場所を見抜いて射抜いています。


「どうかしましたねこさん?」

「はい、なんだか物凄いものを見てしまいました。こちらに来て、あそこのリセリに注目して見て下さい」


 クークルスにも見せました。

 壁に潜んで気配を探り、ここぞというタイミングにだけ顔を出してピンポイント攻撃をしかけるリセリをです。


「あらビックリ、リセリちゃんすごいのね~」

「ええまったく対したもので」


 クークルスは拍手をもって、リセリの活躍を誉めて下さいました。

 上手く仕込めば良い狙撃手になれるでしょう。

 そんなことわたしがさせませんし、そもそもタルトとジョグが許しませんが。


「あ、それならあっちも見て下さい」

「おやあれは……」


 言われるまで雪合戦の方に気を取られて気づきませんでした。

 ここより左手の城壁付近で、年少組の子供とジアを含む女の子たち、リックと石工のダンが雪で何かを作っています。


 それは完成度3割ほどのかまくららしき物と、子供が作った拙い雪像の数々でした。


「完成が、楽しみだな……」

「リックさんって力持ちだよね、これならすぐ出来ちゃいそう! あ、でもダンさんはアッチ行かなくていいの?」

「お、おら、あ、ああいうのは、苦手だべ……怖い」


 耳を澄ませると、そんなやり取りが聞こえてきたかもしれません。

 ちなみにワイルドオークのジョグは、遠くからリセリの活躍を熱心に見つめているようでした。


 よもやわたしに見られているとはジョグも思わなかったでしょう。



「ああ……ここがこんなに賑わうのは、本当に久しぶり……」



 ……ところがです。要領を得ない言葉がわたしのすぐ隣で発音されていました。

 その声質はシスター・クークルスのものです。


 しかしそれにしては抑揚がなく、それでいて深い感慨が秘められているように聞こえました。


「夏が恋しくなりましたか?」

「あら……夏、夏ですか?」


 やはりどこか妙でした。夏と言われても何の話かわからないと、彼女はわたしの返事に首をかしげる。

 まるで先ほどの言葉を言った自覚がないかのようです。


「ここがこんなに賑わうのは本当に久しぶり。今さっきそうあなたは言いました」

「あら、あらら……? 言ったかしら……いえ、言ってない気がしますよ」


「そうですか、ではただちに休んでいただきましょう」

「あっ、そんな肉球を押し付けられたら……もう強引です、ねこさん」


 彼女の手を引きバルコニーを出ることにしました。

 ところが城内に入る寸前で、騎士アルストロメリアと行き合いました。


「あれ、どうしたんだい?」


 それがどういうわけか、アルスはバーニィの大工道具を持っています。


「そちらこそハンマーとノコギリを持つなんて珍しいですね。ああ、バーニィとの友情がようやく芽生えましたか」

「あら素敵♪」


 心底嫌そうな顔をされてしまいました。

 近親憎悪という壁さえ乗り越えれば、かなり深く親密になれると思うのですがね。


「違うよ、外で雪合戦やってるだろ。あれ、最初に誘われたのはボクなんだ」

「なるほどそれで?」


「それをバーニィが代わってくれた。だってボク、雪合戦なんてしたことないからね、子供にカッコ悪いところを見せたくない」

「あなたもあなたで面倒な性格ですね」


 見栄っ張りなアルスらしい話でした。

 要するに交代したバーニィの代わりを勤めることになったということでしょう。


 今までは南にある城壁の崩落部を出入り口にしてきました。

 ですが城の保温性や、雪かきの手間を考えると、ここ東バルコニーから下に降りれるようにした方が良いとの結論が出たのです。


「それでお二人はこれからどこに行くんだい?」

「はい、働きすぎの彼女を寝かし付けに行きます」

「ちょっとクラクラしただけですのに、大げさなんですよ~、ねこさんったら」


「あそこから下に落ちそうになっておいてよく言いますよ」


 ところでわたし、そこで急に大工道具を押し渡されていました。

 アルストロメリアの眼差しは迫真に迫っています。


「頼むネコヒトくんっ、その仕事ボクに代わってくれッッ!」

「ええまあ、別にわたしは構いませんが」

「そんな、ねこさんのふかふかを楽しむチャンスでしたのに……ちょっと残念です」


 そう言いながらもクークルスは聞き分けが良い。

 わたしから離れて、騎士アルスが差し伸べる手を取りました。

 わたしよりずっとアルスの方が彼女の扱いが上手いですし、適材適所かもしれません。


「ふふふ……では行きましょうか、アルスさん。あら、横のところがほつれていますね、ちょっとだけ仕立て部屋によりましょうか」


 そんなの後回しでいいでしょうに、シスターは気になってたまらないとほつれをいじる。


「彼女の口車に乗せられてはいけませんよ、代わるんですから責任もって休ませて下さい、とにかく横にさせて、眠くなるまでお喋りでもしていて下さい」

「というよりクーさん、顔が少し赤くないか? ……少し熱いな、もしかして熱があるんじゃないか?」


 アルスが心配そうに額に手を当てると、どうも微熱があるような反応です。

 先ほどふらついたのはこれが原因ですか……。


「あら言われてみれば、ちょっとだけあるような気がしてきました」

「アルス、すぐにこの人を休ませて下さい」

「承知した。行くよクーさん、今すぐ横になってもらうからね」


「もー、2人とも大げさですよ~。ねこさん、それではまた後ほど」

「いいから行って下さい、休まないと今回限りはわたしも許しませんよ」


 クークルスとアルスの姿が消えるまで見送りました。

 わたしの方は押し付けられた大工道具を持って、もう一度バルコニーの奥に戻ります。


 滑り止めと板で下と上を繋ぎ、壊れぬよう強度を高める工事です。

 ところが作業に入ろうとすると、急にバーニィの大声が響きました。それもこちらに向かってです。


「頼むネコヒトッ、その仕事今すぐ代わってくれ!!」

「……おや、ひどいざまですね。ええまあ別にわたしは構いませんが」


 雪まみれで冷えたのか肩を抱いたバーニィがそこにいました。

 どうやらパティアを挑発し過ぎて、子供たちの敵対心を無用に稼いでしまったようですね。


「あっ、ねこたーんっ!! ほらみて、みんなでー、バニーたんやっつけた!! パティアたち、つよいぞぉー、がおー!!」

「だらしないバーニィに代わって、今度はわたしがお相手しましょう」


「うんっ、ついにパティアが、ねこたんをこえる、ときがきたー!」

「そうはさせませんよ」


 敵としてですが、この後わたしは娘と意外にも楽しくてたまらない雪合戦の時間を過ごしました。

 それが年がいもなく雪の投げ合いごときに、ウキウキと夢中になってしまいましたよ。


 こんな暖かくて楽しい日がまた来てくれることを、気まぐれな空に願わずにはいられませんでした。


ありがたいレビューいただきました!

この場を狩りてお礼させて下さい。Bibliomaniaさんありがとう!

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