20-3 アルスとマドリ、あとおっさん - 10年後の約束 -
実はこの話、まだ続くのです。
墓穴としか言いようがありませんが、騎士アルストロメリアの弁明はそこで終わりませんでした。
「そうだろう、ショックだろう、気を付けたまえ丸見えだったよ! ああ夕空がキミの髪とパンツのように桃色の世界があったら、それはどんなにファンシーなことだろう!」
「ぇ……? それって、あ、アルスさんも、み、見たってこと、じゃないですか……?」
そうですね、見ていなければ髪と同じ色のパンツをはいているとは知り得ません。
お見事です名探偵リード、そいつも犯人です。
「フッ……見事な推理だね。しかし誤解しないでくれたまえ、これは確認のためだ」
「か、確認、ですか……?」
「ああっ、告発する上ではどんなパンツを見ていたか、こと細かに目に焼き付ける必要があった! バーニィだけ見て、ボクが見れないなんてそもそも不公平だろうっ?!」
何を言ってるのかわかりません。わたしもリードも犯人の自供を読み解くのに苦労しました。
つまり、どうしてもパンツが見たかったということですか?
「あの……ちょっと、よく、わかりません……ごめんなさい」
「だってあれでは見てくれと言ってるようなものだろう! 無防備だ……あんなにたくし上げるなんて、己の魅力を知らな過ぎるッ、だが、だがその危うさがボクたちを魅了する……ッ!」
「ぅ、ぅぅ……。これからは、気を付けます……」
パンツを見られたのに男だとバレていない。
リードがその事実をどう思ったかは定かではありません。
ですが、どちらも非常識な変態だと思ったことでしょう。
「あ、いたいたー! さがしたぞー、まーどり~んっ♪」
ところがです、そこに白猫のコートを着込んだパティアが現れました。
「おおっ、その声は麗しのパティアくん! キミは誰にでもなつくのだね、その無垢さがボクをときに不安にさせるよっ、いつまでもそのままのっ、ボクたちのパティアくんでいてくれっ!」
「えっと、パティアちゃん、なに……?」
娘はマドリの腹部にしがみついて、低い位置からアルスとマドリを見上げたそうで。
「うんっ、パティアは、ずっとみんなの、パティアだぞー。は~、それにしてもー、あるたんはー、ブラないなー」
さりげないその一言がアルスの顔色を凍り付かせたのは聞くまでもありません。
パティア、それを言うなら『ブレない』ですよ。
「ぶ、ブラ……?」
「うん、ブラないなーっ、あるたん」
「は、ははは、私は男だよ、男がブラなんてするわけがないじゃないかっ」
「ッッ……!?」
ささいな言い間違いが連鎖的にリード少年までも動揺させました。
男がブラなんてするわけがない、アルスのその一言が彼にはまずかったのです。
「ああやっとわかったよ、何だ、キミはただ、ブレないって言いたかっただけなんだね……」
「……ぉぉっ、それだ。おしかったな、ちょっとちがったなー、でもパティアまだ8さいだし、しょうがないかもなー」
ちなみにブラは付けさせています。
だってそうでしょう、設定だとお嬢様なんですから必要なアイテムです。
アルスの言葉がマドリを真っ赤に赤面させて、その耳を少し下にたれさせました。
何せ男がブラなんてするわけが、あったのですから。
「おっ、何だこんなところにいたのかマドリちゃん。あとお前もいたのな、アルス」
そこにバーニィまでやって来たから大変です。
なぜ現れたかといえば、大方最近のお気に入りことマドリを探し回っていたんでしょう。
「バニーたん、パティアもいるよー!」
「おおパティ公、すまねぇな、しろぴよみてぇにちっこいからおっさんには見えなかったわ」
「そんなの、うそだー!」
「あの……バーニィさん、城の階段から、み、見てたって、ほんとう、ですか……?」
パティアはバーニィに飛び付き乗っかって抗議しました。
そこに恥ずかしそうに目を落としながら、マドリが彼に事実関係を聞きました。
「階段? 見てったってどういう……あ、あ~、あーはいはい、見てないよ、おじさん何も見てないって」
「嘘吐くな! ガン見してただろバーニィ・ゴライアス!」
「くっ……そういうお前さんだってバッチリ見てたじゃねぇか! だらしねぇつらで、鼻の下伸ばしやがってよぉ……」
「ぇ……?!」
まどりん、おしっこがまんしてたのかも。
急に内股になって一歩後ずさったそうで、それがパティアを勘違いさせてしまったようです。
「フッ、見ないわけがないだろう! マドリくんのような花のようにかわいらしくひかえめな少女が、目の前でパンツが見えるギリギリだったんだぞ!」
「ああ、ああそうだな、あれをのぞかないヤツは男じゃねぇ。むしろマドリちゃんの魅力に、俺たちが当てられただけなのかもしれねぇ……」
何自分たちの都合の良いように話を落とし込もうとしてるんですか……。
パティアの目の前で、あなたたちはいったい何を言ってるのですか……。
「わかる。その気持ちわかるよ」
「へへへ、お前さんならわかってくれると信じてたぜ。マドリちゃんがかわいいのがいけねぇ、ってことだなっ」
「そうだ、ボクたちは別に悪くない」
2人は唐突に堅く手を結び、互いに肩を叩き合ってうなづき合いました。
この現象をスケベ同士のとうとつな共感とでも言っておきましょう。
「ど、どど、どっちも……見てたって、ことじゃないですか……ッ」
「それはキミが可憐過ぎるからさ……」
「うんうん、パティもわかるー。まどりんはね、パティアからみてもー、いいおんな」
忘れておりました、3人目の女ったらしがいたことを。
天然たらしのパティアはうんうんと輪に加わります。
「だよなー! 女の子らしさの塊っていうかよ、パンツ見たのバレても許してもらえそうな雰囲気がいいよなっ、パティ公!」
「う、うん……。パティアはちょっと、そういうの、よくわかんない……。ぱんつ、だいじ?」
わたしもわかりかねます。パンツそんなに大事ですか……?
「大事さ!」
「大事に決まってるだろパティ公!」
もしかして本当はこの二人、とても仲が良いのでは……?
不必要に声を共鳴させて、彼らはリード少年の敏感な羞恥心を無自覚に刺激するのでした。
「そか、じゃあパティアの、みていいよー?」
「いや、そりゃ遠慮しとくわ」
「えー、なんでー?」
「ガキのは色気がない」
「パティアだって、おいろけプンプンだぞー」
「おう、あと10年経ったらそうだろうな。そん時に取っといてくれや」
その時はわたしが許しませんよ、バーニィ。
パティアが白猫コートの中のスカートに手をかけていたので、バーニィがそっと自分の手とつなぎ合わせて止めました。
「フフフ……ボクとしては今のパティアくんのパンツも、なかなか捨てがたいのだがね」
「え、えぇぇぇ……っ」
どこまで本気なのかわかりかねます。
少なくともリードはアルスの言葉を本気にしかけていました。
「あるたん……あるたんいいやつだ、おとなになったら、ゆうせんてきに、みせたげるね!」
パティア、変な約束しないで下さい。
「本当かいっ? 楽しみで夜も眠れないよ。今から10年後が待ち遠しい」
「こりゃネコヒトに聞かれたら大目玉だな……」
全くですよ。バーニィもアルスもいいやつですけど、子供の教育によろしくありませんでした。
「それはそうとパティ公、やっぱ起きねぇネコヒトと2人で寝るのは寂しいだろ、バニーたんが面白い話してやるから今夜はこっちで寝な」
「ぁ……。でも、ねこたん、ひとりだ……。だからね、パティアがついててあげるの」
「そうかい、じゃあ言い方を変えるぜ。バニーたんもネコヒトと別の部屋で寝るのが寂しいから頼む、俺と一緒に寝てくれ」
「なんだ、そか、バニーたんもさびしかったかー。もー、しょうがないなー、パティアおとなだから、ぜんぜんへーきだけどなー……でもきょうは、バニーたんといっしょに、ねてあげるかなー……」
助かります、バーニィ。あなたはスケベさと荒っぽい口調が玉にきずですけど、やっぱりいいやつです。
すみません、もう少しだけこの子の面倒をお願いします。
●◎(ΦωΦ)◎●
「みんな良い人なのはわかったんですけど……。ニャニッシュは変わった人ばかりですね……。はぁぁ……っ、たった一晩で僕、階段が苦手になりましたよ……」
わたしの寝床にリードが来て、グチっていたような覚えがあります。
わかっています、わたしから強く言っておきます。パンツをのぞくのはさすがに子供たちの教育に悪いとでも。
ですがくれぐれもリード、下り階段にはお気をつけ下さい。
特にバーニィは正面側からでも、堂々とのぞき込んできかねないところがありますので、重々ご注意を。




