19-4 導きの白き翼
その頃、里では――
雪が降り始める前に冬ごもりの準備をすることにしたそうです。
連日冷え込むようになり、先日は水たまりに氷が張りました。
こうなるといつ積雪が始まってもおかしくありません。
今のうちに出来ることを、慌ただしく進めることに決まったそうでした。
●◎(ΦωΦ)◎●
「よーっし、ちびっ子ども! 俺たちは柵を整備するぞ、雪が積もっちまうとここたどり着くだけで大仕事だっ、やるなら今のうちだぜ!」
年少組とバーニィは柵の整備と点検を担当しました。
バーニィが言うとおり、冬まで手を入れることができなくなりますから、今のうちに安全保障を万全にしたいところでした。
●◎(ΦωΦ)◎●
「はい、今から畑にお布団をかぶせますよー。リックさんのお手本をしっかり、見ていて下さいね♪」
「クークルス、そう言われると、とてもやりにくい……」
真ん中の子供たちはクークルスとリックと共に、作物へと麦わらをかぶせに行きました。
冬の間に作物が凍り付いてしまうと、低温障害が引き起こされ、実がダメになったり、食材としての味が最悪になります。
「ところでだがクークルス」
「はいはーい、なんでしょう?」
「コートをありがとう。だがいい加減自分の分を作ってくれ……」
「はい、バーニィさんの後で必ず♪ 漂白剤が余ってることですし、わたしも白いのにしようかしら」
自分は最後でいいと、バーニィが就寝前にカッコ付けていたのを覚えています。
ところがシスター・クークルスはとにかく聞かない人でした。
白く染めなくていいですから、早いところ自分のコート作りを急いで下さい……。
バーニィはバカなので風邪なんてひきませんから、あんなの一番最後でいいのです。
●◎(ΦωΦ)◎●
それから残る年長組の子供たちは、パティアと一緒に北の森に向かいました。
「さむくなるからー、きのみ、みんなでとりにいこー! そしたらなー、ふゆのおやつ、ふえる。だいじだと、おもわないか、みんなー!」
それにリセリとジアも同行しました。
脂肪質の多いナッツ類や、冬の前に実る種類の銀杏、あの肉厚で美味しいノームブラウンマッシュルームのようなキノコも目当てでした。
「このきのみ、くちゃいな……。おとなはー、こんなのたべるのか……へんだ、ぜったい、へんだ……」
「うん、独特だよね……私もちょっと苦手かな。でもジョグさんが好きでね、喜んでくれるから、がんばる」
イチョウの実、別名で呼ぶところの銀杏のことでしょう。
熟した際の臭いが強烈で、果肉には弱い毒があり全く食用に適しません。
ですが殻の内側の仁の部分は、独特の中毒的な味わいがあります。
「あ、そーだった。キノコとか、葉っぱはねー、ぜんぶとっちゃ、ダメだって、ねこたんいってたぞー」
「残しておくとまた増えるんだよね」
「そう! さすがリセリあたまいいなー。パティアとは、おお、ちが、い? んー、とにかくなー、あたまいい」
「大違いであってるよパティア。それに実際さ、リセリいなきゃ、私らとっくの昔に全滅してたから感謝してるかな!」
「2人とも、止めてよ、そういうの私苦手だよ、もぅ……」
リセリとジア、パティアは仲の良い女の子同士のグループを作って、わいわいと森での採集を進めていったそうです。
銀杏臭い臭いと、飽きもせずぼやきながら、当たり前の幸せに笑って。
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「ふぅ……豊作豊作、籠いっぱいになっちゃったね。さすがに疲れたでしょ、もういいからリセリたちみんなは先に帰っててよ」
持ち込んだ籠がいっぱいになると、作業の手が止まりました。
すると仕切りたがりのジアが率先して、なにやら自分の籠の中身を他の子の籠へと移していきました。
「うん、疲れたけど、ジアは残るの……?」
「パティアもまだげんきだぞー!」
「うん、最初からパティアには付き合ってもらうつもり。私たち奥の方見てくるよ。雪が降っちゃうと春まで森に行くのも大変だって、リックさん言ってたから」
「そう、わかった。でも奥は危ないから、パティアちゃんから離れないでねジア」
積雪が始まっても、湖までの道は確保しようとバーニィと決めてありました。
なにせ雪は不純物が混じっていますから、溶かして飲料水にするには不安があったのです。
「パティアにまかせろー! カールのために、パティアがジアをまもるー!」
「えっ、何で急にアイツの名前が出てくるの?!」
「なんでってー……んーー……なんでだろ? なんとなーく?」
「それはそれで何か不満なんですけど……。まいっか、じゃ、ちょっと行ってくるね。またねみんな!」
それからパティアとジアは森の奥へと向かいました。
湖が見える場所から離れて、まだ手を付けていない奥の森に他の食べ物を探しに行ったのです。
●◎(ΦωΦ)◎●
ですがそれこそが間違いでした。
「あれ……ここ、どこ……?」
「ここはな、もりだぞー」
ジアが言うには、採集に夢中になっていたら帰り道がわからなくなってしまったそうです。
どちらを見回してもあるのは樹海、ジアは青ざめました。
「いや森なのはわかってるよ! どうしよう……やっぱりおとなしく帰れば良かったかな……。パティアは道わかる?」
その言葉を受けて、小さな最強魔法使いがぐるりと辺りを見回しました。
「んーー……わかんない。でもだいじょぶだぞー、あるいてればー、どっかにでるよー」
「そうだといいけど……。とにかくもう帰ろっ、どっちが帰り道か、全然わかんないんだけどさ……」
焦るジアに対して、パティアは剛胆にものんきでした。
まずはどっちに行こう。それがなかなか決まりません。
「こまったなー。ここ、き、おおいなー。パティアもいつもは、へーきなんだけどなー、ここぜんぶ、きだ……。こういうとこもあるのか……」
迷ったら空を見ればいいのです。
魔界の暗雲がある方が西、空や星がある方が東です。しかしジアは落ち着きを失っていました。
「どうしよ、行っても行っても森だよ……?」
「んー、こまったなー」
方角もわからず2人は歩きだし、その結果樹海をさまよう。
そうしてるうちに日差しが陰りゆき、森に気の早い夕闇がやってきてしました。
それでもパティアは恐れません。たくましくも先頭を歩き、疲れ知らずに森を進む。
「あ、しろぴよだ!」
「えっ、ホント?! あっホントだ!」
しかし何という奇跡でしょう。
2人が道に迷って困り果てていたところ、そこにしろぴよさんが空から降下して来たのです。
「しろぴよーっ、パティアたち、まいごになっちゃったー! たすけてー、たすけてしろぴよー! このきのみ、あげるから、おねがい、うしおねーたんのごはん、たべれないの、こまるー、たいへんなんだー!」
「ぴゅぃ♪」
丸くてふわふわした小鳥は、翼ある白き導き手となって、パティアとリセリを広場まで誘導して下さったのでした。
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「はぁぁ……怖かった、怖かったよ私……」
「そうかー? パティアは、ぜんぜん、へーきだったよー?」
それはそれでわたしとしては不満なのですよ。
もう少し怖がって下さいませんと、次はどんな蛮勇を働くやら、心配で心配でたまったもんじゃありません。
「パティアはイケメンだね、リセリの言うとおりだよ、小さいのに勇気があってカッコイイよ!」
「へへへへー、パティア、イケメンです! あ、しろぴよありがとー、しろぴよはー、すくいの、かみだ! いけぴよだ!」
「ピュィピュィッ♪」
おだてられてまとわり付く鳥も、このしろぴよくらいなものでしょう。
しかしそれにしても、ずいぶん良いタイミングで現れたものです。
それはまるでこの白い小鳥が、いつも遠くからパティアを見守ってくれているかのようでした。




