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19-1 茨の長城、ローゼンラインを越える方法 - ぶち -


前章のあらすじ


 パティアはネコヒトより竪琴を教わり、しろぴよと合奏した。

 パティアは偶然にも冷凍乾燥の魔法を覚えた。それを使ってベリーを粉末に変え、水を加えてシャーベットを作った。


 王家の宝物庫より盗んだ首飾り、それこそがバーニィの驚愕の魔法耐性の正体だった。

 彼はそれを夜逃げ屋タルトへと譲ろうとするも、出どころが危険過ぎると断わられる。

 その現場をネコヒトのクレイに見られたため、彼は焼き魚という口止め料を支払うことになった。


 石工のダンの努力により石臼が完成した。

 黒パンが食卓に並ぶ。酵母がなかったためパンは石のように硬かったが、久々の香ばしい味わいに皆が喜んだ。


 しかしある晩、食堂よりパティアの姿が消えた。

 娘を心配して城内を探すと、封鎖した井戸のある部屋に彼女の姿を見つける。


 パティアが言うには夢の中に、目に星のある黒髪の美女が現れて、この部屋の地面を指さしていたという。


 その特徴はネコヒトの主人である、消えた魔王のものに酷似していた。

 部屋の地中より彼が以前隠したオリハルコンの腕輪を掘り返すと、それがひとりでにパティアの腕に収まる。


 魔神らとの交渉能力を持つそれはあまりに危険すぎるため、ネコヒトが奪い取ると、腕輪は浮気性にも彼の腕を選んでしまった。

 ネコヒトは疑念を抱く。パティアの父は己の娘で、消えた魔王にかかわる研究をしていたのではないかと。


 翌日、森でネコヒトはメープルシロップを見つけた。甘い。

 後日パティアはメープルの木に止まるセミになった。


 日付をまたぐと、タルトを連れてネコヒトがレゥムの町に旅立つ。

 道中、彼は己の出生を語った。

 父も母も知らぬまま、魔王に仕える執事の家に養子に出されたと。


 旅は順調に進みレゥムの町に到着する。

 タルトの尽力により聖堂のホルルト司祭との接触に成功すると、ネコヒトは警告と依頼をした。


 魔王の遺品をかき集めて欲しい。

 魔王を復活させようとしている者がいる。

 証拠はネコヒトの腕に収まった魔王の腕輪。敵に遺品を奪われる前に確保したい。

 

 ホルルトと別れると、レゥム町の案内役を騎士のキシリールが受け持ってくれた。

 彼の知り合いのパン屋からパン酵母を貰い、それから錬金術師ゾエの店にて漂白剤を注文する。


 しかしネコヒトの目当てである、パティアの父エドワードについての情報収集は空振り。

 そこで彼はキシリールと共に、レゥム最大勢力のマフィアと接触した。


 そのボスである初老のマダムに謝礼の宝珠を支払うと、悪魔崇拝者たちの話となる。

 その一派が悪魔を人間に憑依させる方法に成功したと、マダムが言う。


 彼女は宝珠の代金には足りないと、さらなる情報を集めてくれると約束してくれた。


 錬金術師ゾエは10年前にエドワード氏と会っていた。

 彼は死者蘇生の方法をゾエに聞いたが、新鮮な魂が必要との返答に落胆していた。

 彼はいったい誰を生き返らせようとしていたのか。


 こうしてレゥムへの遠征は終わり、ネコヒトは別れを告げて隠れ里へと帰還した。

 そこで彼は、賛同しかねる危険な頼みごとをされることになるのだった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



―――――――――――――――――――――――――――――

 ネコヒト魔界帰省

  ネコは茨の森を越えて若きリード公爵を奪い去るそうです

―――――――――――――――――――――――――――――


19-1 茨の長城、ローゼンラインを越える方法 - ぶち -


 時刻は夕暮れ、南天した太陽が魔界の暗雲に飲まれようとしているいつもの時分。

 場所は古城グラングラムのバルコニー。こうして昼前に里へと戻ることには成功したのですが、とんでもない厄介事までもが、わたしの帰りを待っておりました。


「ねこたん……やっと、やっとかえってきたのに……。なんで、いく……」

「すみません、それには返す言葉もありません。ですがどうしても、わたしが行かなくてはならないのです」


 わたしはこの件を聞かされるなり最初は反対しました。

 ここにリード公子ーーいえ、公爵をかくまっていることが知れたら、魔軍正統派は引き渡しを要求してくるでしょう。


「わかんない……」


 ここは隠れ里、わたしたちはこの里の外では生きられません。この地に争乱や大義は必要ないのです。


「すまない。オレたちが教官に、わがままを言ったからだ……。だが今回ばかりは許してくれ、助けたい人がいるんだ、パティア」

「パティ公よ、お前さんネコヒトがいない間もリセリと毎晩歌ったり、ラブ公追っかけ回したり、あと勝手にモンスター狩りまくったりよろしくやってたじゃねぇか」

「そうなんですエレクトラムさん、僕毎日毎日、犬みたいに追っかけ回されました……」


 バーニィとリックも見送ってくれました。

 2人は左右からパティアの背中を抱き、わたしに安心を下さいます。


 このパパさんとママさんがいれば、わたしがいなくとも大丈夫でしょう。

 ああ、ラブレーですか? 今回は彼の力を頼るのですよ。


「バニーたん、わかってない……ねこたんのふかふかないせいかつ、むなしい……。はぁ……はやく、かえってきてね? ラブちゃんも、いってらっしゃい……」

「うわ、暗い……パティアお前、やっぱファザコンなんじゃ……」


 パティアはわたしを見上げるのを止めてうつむいてしまいました。

 やっぱりリード新公爵は見捨てて、このまま春まで引きこもるべきなのではないかと、わたしは思いかけてしまいます。


「よく、わかんないけどちがう……。ふかふかが、2つもいっちゃう……かなしい……」

「クレイの野郎とか、あの丸っこいピヨピヨがいるだろ、大げさなんだよお前は。おうラブ公、悪いがネコヒトを任せたぜ」

「オレからも頼む……。手伝えなくて、すまない」


 切りがありません。わたしはパティアの頭をやさしく撫でて、彼女の抱擁と積極的なモフりを受け止めると、まずは南西へと旅立ちました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「でもエレクトラムさん、帰ったばかりなのに、本当に休まなくて大丈夫なんですか?」

「ええ、今のわたしに眠りは必要ありません。レゥムでたっぷり底なしの眠気とやらを悪党に押し着せてきましたので」


 それに計画通りに事が進むようならば、この後にゆっくり休むチャンスがあります。


「凄いです。貴方ならきっと救い出せますよ、リード公爵を」

「ええ、救い出せば男爵はきっと大喜びです。彼に恩を売るチャンスと割り切りますよ」


 リード・アルマド、実はその昔に何度も会ったことがあります。

 奥方譲りのかわいらしい容姿をした美少年で、誰にでも公平なやさしい子でした。


 少なくとも勝てない戦争なんて起こすような子ではありません。

 これが理不尽なもので、わたしは暴走したアルマド公爵家の家臣どもの、尻拭いに行かねばなりませんでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 では、少しばかし込み入っているので、先に解説いたしましょう。


 これからわたしは西の果て、魔界深部を目指し、包囲を受けるアルマド公爵家の城より新公爵のリード少年を救い出します。

 しかし人間があのギガスラインを苦難の果てに築いたように、魔界側にも同一のものがあります。


 それが茨の長城、異界種エメラルドローズが生み出した万緑の城です。

 凄まじい生命力を持つこの薔薇は、北の果てから南まで、巨大な生け垣となって道をふさいでいます。


 さらにはその各所に兵舎と監視塔が築かれおり、茨の下に掘られた地下通路が唯一の移動手段となっています。

 魔軍もここを突破されるわけにはいきません、当然ながら警備が厳重です。


 つまりですね、アルマド公爵領に入るには、まずはこの天然の要塞を突破しなくてはなりませんでした。


 あのギガスラインのように、茨の長城を登って抜けてしまえば良いと思うかも知れません。

 が、そうはいきません。確かに場所を選べば手薄なポイントもあるのですが、鷹の目を持った魔族が監視を受け持っている可能性がありました。


 おまけに魔界の空はけして真っ暗闇ではなく、ぼんやりとした紫の燐光を放っています。

 ギガスラインのように夜を突こうにも、ローゼンラインより西側は夜の無い国なのです。


「ではラブレー、わたしは西の街道で待っておりますので、手はず通りにお願いいたします」

「は、はい、緊張してきました……」


 そこで選んだ結論は、死者ベレトートルートとして抜けるのではなく、ヘンリー・グスタフ商会の荷物として抜けるという方法でした。


「フフ……さすがに気が早いのでは。まあもし駐屯兵に策略を見破られたら……いえ、そこは考えずにおいた方がいいですかね」

「考えさせないで下さいよ……。では行ってきます、ここまで守って下さりありがとうございます」


「ええ、あなたは大事な娘のボーイフレンドです、父親として喜んで守りますとも」

「違います! あいつは……ただのライバルです! いつか目にもの見せてやるんです!」


 無事こうしてカスケード・ヒル郊外に到着しました。軽く冗談を言ってから、ラブレー少年に手を振ってその場を離れました。


 さて、カスケード・ヒルの西にはローゼン・ラインの向こう側へと続く街道があります。

 人間から奪った品々を、西の本国へと運んで売るために自然発生した道です。


 ラブレーには商会の荷馬車でそこに来るよう頼みました。男爵への報告ついでにです。

 わたしはカスケード・ヒル郊外ぞいに西へと進みます。

 街道にたどり着くと、人目に付かないブナの大樹に登ってラブレーの到着を待ちました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 さすがは男爵、短気相応に素早い動きです。

 樹木の上で疲れを癒していると、街道にヘンリー・グスタフ商会の荷馬車がやってきたので、目の前に降下しておきました。


「うわっ、え、エレクトラムさん、脅かさないで下さいよ!」

「おう、現れやがったな、ネコ野郎……」


 御者はラブレーが受け持っていました。荷馬車の中にはあのブルドッグづらの男爵、それと彼の部下のイヌヒトが1名いました。

 ネコヒトは人目に付く前に、すぐさま荷馬車の中に忍び込みます。


「あなたのおかげで、また行くのかとパティアが嘆いていましたよ」

「うるせぇ……パティアさんが悲しまれるのも、覚悟の上だ……。そういうてめぇこそ珍しく殊勝じゃねぇか、まさかこっちの頼みに応じるとはな、ケッ……」


 やるからには時間が惜しい、男爵とはさっさと話を付けましょう。


「フフフ……男爵、いつものようにもっと毒を吐いてくれてもいいのですよ?」

「そこまで俺は恩知らずじゃねぇ! 頼む、ネコ野郎、どうかあのリードを……守ってやってくれ、無理な願いなのはわかってる、だが今のてめぇならッ!」


「男爵、そういう辛気くさいのは止めにして下さい。わたしはただあなたに貸しを作ったら、この先都合が良いとか、気分が良いと思っただけですので」


 あの少年が家臣の暴走に巻き込まれ、最後は無惨に処刑されるというのも良い気がしませんしね……。


「それより頼んだ物は?」

「ぁぁ……一式持ってきた。だがてめぇ、本当にいいのか? 自慢なんだろ……」


 あの男爵がわたしを気づかうなんて、何だか気持ち悪い。ま、それだけわたしとの付き合いが長いのだと思いましょう。


「お気になさらず、帰ったら漂白剤とやらで色を抜いてみるつもりですので」

「わかった……始めるぞ、ちゃんと見張っとけよラブレー! ちょっとでも邪魔者を入れてみろ、てめぇは首だ!」

「えっ、えぇぇ……っ?!」


「おや、でしたらうちに再就職しませんか?」

「ネコ野郎ッ、てめぇはじっとしてろ!」


 何のことはありません。ラブレーを伝言役にして、男爵に黒の毛染めを用意させました。

 それを彼がわたしの毛皮に塗ってゆく。顔と腕、足にです。


 しばらく待つと、そこにブチネコが生まれていたというわけです。

 後は毛染めの定着を待った後に洗い流すだけです。


「パティアさんに顔向けできねぇ……パティアさんの愛する、白い毛並みにこんな、ああ、ごめんよママン……」

「確かに、この姿を見てパティアがどんな反応をするか、好奇心を覚えるところではありますね」


 これで別人というほどではありませんが、知り合いか、あるいは同じネコヒト以外からは正体がわからなくなったでしょう。


 さあ行きましょう、茨の長城(ローゼンライン)へ。


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