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18-16 終幕 漂白剤と時系列の矛盾した錬金術師 - 密室のしろぴよ -

「ひょうはく剤のお代、ここに置いていきますね」


 銀貨をカウンターに積み上げて、粉末状の漂白剤が詰まったガラス瓶を袋に入れます。

 汚い字で、漂白剤と書かれていたのでこれで合っています。


「エレクトラム殿、本当にエドワードがここに来たかどうかすら俺は疑わしくなってきました……。はぁぁ……だから連れて来たくなかったんですよ、こんな店……」

「ちょっと待ちたまえ、話の興が乗ってきたところでどこへゆく生徒たちよッ!?」


 このゾエの性質からして、間をおいた方がいいかもしれません。

 もちろんキシリールの説も否定できません。頭おかしいですこの人……。


「お前のいない場所だ! お前の話は信じかねる!」

「な、なぜぇ?! こんなに面白い話なのになぜ君は理解できないのだね! そこのフードくんはどうだね! 興味深いと言ってくれるだろうっ!?」


「もう少し情報が集まってからでないとわたしも信じかねますね。では失礼、高い高いお城を越えて娘の元に帰らねばなりませんので。おや、そこの石鹸はおいくらですか?」

「石鹸なんぞどうでもいいっ! こんなもの我が輩とちょっとお喋りしてくれたらくれてやるっ! 待ちたまえエレキくん!」


 ゼラニウムの匂いのする石鹸を見つけました。

 値札を探して見れば、お値段は1つ100ガルド。贅沢品です、しかし女の子はきっとこれを喜ぶでしょう。


「なんだねこれはっ?!」

「1000ガルドで石鹸を10個購入します。それでは失礼」


「わぁぃ毎度あり、これで酒場のツケが払えるぅ! ではなく待ちたまえ面白げな品性を持ったフード男よっ?!!」


 やはりどうにも信じかねます。わたしたちはゾエを捨てて店を出ました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 その後は気の良いキシリールが、自分が酔っているというのに馬で市場までわたしを連れて行って下さりました。

 そこで調味料などの雑貨調達に付き合ってもらうと、今度は西の草原まで送ってくれました。


「なあ、本当にアレを登って帰るのか……? いや、姫を救い出した時点で、それができることはわかってるのだが……凄いな」

「はい、エドワード氏がくれたこの書の力で、あれを越えて帰ります。ありがとうございますキシリール、とても助かりました」


 ナコトの書を開きアンチグラビティを発動させる。

 その力があれば、大きなリュックいっぱいの荷物も軽々です。


「それはいいさ、俺たちが本来守らなきゃならない子供たちを、エレクトラム殿に任せてしまっている。うぷっ……、あんなに飲まされるとは、思わなかったけどな……」

「おかげで上手くいきました。良ければまた付き合って下さい」


「酒はもう勘弁してくれ……。あのゾエとも二度とも顔を合わせたくない」

「なら脱ぎますか? いえ冗談です、それではまたお会いましょう。いつか再会できるといいですね、バーニィに」


「え……」


 バーニィという単語に親愛がにじみ出てしまったかもしれません。

 しくじりました、ごまかしましょう、逃げるってことです。


 わたしはギガスラインの果て無き城壁を駆け上がり、彼の前から姿をくらませました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それからチンピラに眠気を押し付けておいたわたしは、真夜中の魔界の森を駆け抜ける。早くあの土地に帰りたい一心で。

 韋駄天のネコヒトを阻める者などどこにもなく、わたしは翌日の昼前に大地の傷痕へと帰還していたのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「なぁネコヒトよ、帰ってきた早々で悪いが頼みがある」

「教官、一生のお願いだ……。どうか俺の代わりに、あの子を助けてやってくれ……」


 ところが帰還するなり、わたしには次の任地が待っていました。

 魔界公爵レアル・アルマドの息子、リード・アルマドを救い出して欲しいと、リックらに拝み込まれたのです。


 賛成しきれません。ですがあの男爵の頼みとあっては、応じておけば今後気持ちのいい態度が取れるでしょう。

 ま、不承不承ではありますが、わたしはただちにあの茨の森(ローゼンライン)の向こう側に旅立ちます。


 まあ何のことはありません。

 ただ忍び入って、さらって、隠れ里に運ぶだけの簡単なお仕事です。


 魔将アガレスと魔軍正統派を侮っているわけではありませんがね、これもすぐに終わることが決まっていました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



その先日のパティアは――


 これはだいぶ後で知ったことです。

 その日もパティアの元にしろぴよさんが会いに来ました。


「ピュィピュィッ、クルル」

「あ、しろぴよ、おはよー! あ、そだった、ごめんなー、きょうはねー、パティアはみずくみとーばん、じゃなかったんだったー」


 しろぴよは野鳥です。気まぐれに姿を消したり現れたりします。

 ただ水くみ当番の日は必ず毎朝、湖で顔を合わせているそうです。


「ごめん……きのう、いってなかった……。え、おこってないのー? なにー、おみやげー……?」

「ピュィッ♪」


 ここからが不思議なのです。

 しろぴよさんはパティアの背中の方に抜けていきました。


 あの子はしろぴよさんの姿を見ているだけで幸せですから、すぐに振り返ったそうなのですが――いなかったそうなのです。それがどこにも。


「あれ……? しろぴよー、どこいったー? おーい、あっ、もしかしてこれー、かくれんぼか!」


 書斎の影、壷の中、毛皮の敷物の下、天井のどこを探していなかったそうなのです。


「あれれ……おかしいな。しろぴよ、きえた……あれー、なんでなんでー?」


 パティアは首をかしげました。

 それがまたおかしいのです。

 あのいつもの書斎けん寝室は、どの扉も閉まっていました。密室だったのです。


 しろぴよさんに太い手が生えて、自分で扉を開いたりしない限り、そもそも中に入ることすらできませんでした。


「ピュィッ、ピュィィーッ♪」

「あっ、しろぴよ! もー、どこいってたのー! お、おぉぉ……」


 しろぴよは森で摘んだ小さな花を、その細い足で抱えてパティアに見せました。

 それを彼女の手のひらに落とすと、それはも得意げにまたさえずります。


「おはなだ……。えへへ~、ありがとー、しろぴよ。しろぴよはー、おんなごころがわかるなー。リセリがいってたよー、しろぴよも、イケメンだ……」


 花を持ってくるのは珍しいことではないそうです。

 逆に食べ物はほぼないそうですがね。


「キュィキュィッ、キュルルッ♪」


 パティアに毛並みを擦り付ける不思議な小鳥は、わたしから見てもとても紳士でした。


「ねーねー、でもどっからはいってきたのー?」

「ピュィー?」


「まーいっか。しろぴよ、おれいにー、パティアのあさごはん、わけたげるね!」

「キュッキュルルッ、ピュィーッ♪」


 まーいっかじゃないですよ。

 明らかにおかしいでしょ、もっと追求して下さい、何がどうなってるやら気になりますから、お願いしますよパティアさん……。


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