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18-15 ネコは真面目な正騎士様とキャバクラに行くそうです - ドンの正体 -

 物事には手順というものがあります。

 正面からヤクザの事務所に押しかけて扉をノックしたところで、彼らはこちらの頼みなど聞いてはくれないでしょう。


 そもそも領主や国に睨まれる犯罪組織が、堂々と看板を出しているはずもありません。まずは窓口の場所を探さなければなりませんでした。


 そこでまずは彼らの直営店におもむきました。ちょうど繁華街におりましたし、一番大きくて高そうな店を選びました。


「こ、ここに入るのか……!?」

「ええ、あなたが教えて下さったんじゃないですか。ここが例の組織の直営であると」


「声が大きいっ、ドアボーイに聞かれるぞ!」

「フフフ……怖じ気づいたのですか?」


 繁華街にも上流と下流があります。ここは上流、道も大きくとられた一等地です。

 高い柵で囲まれた敷地はまるで大貴族の庭園、それが夕暮れの日射しを受けながら、尖塔のある大きな豪邸風の店舗を取り囲んでいました。


 ふんだんに色付きガラス窓がはられたその景観は、レゥム大聖堂に豪華さでは及ばずながらも、何とも今風でオシャレでした。


「怖くはない。ただ、何となく胃が痛くなってきたよ……」

「それは大変、早く中に入りませんとね。もし、そこのドアボーイさん」


 まだ夕暮れ時です、きっとわたしたちが一番乗りでしょう。

 店の入り口に、まるでオーク種のように体格の良い男が直立不動でわたしたちを睨み怪しんでいたので、こちらから接触しました。


「店はもうやっていますか?」

「もうじき開店だが……。騎士に、怪しいフード男か。おたくら、本当に客なのか?」


「はい、こちらは正騎士のキシリールという方でして、わたしは彼をこの店で接待したいのです」


 打ち合わせはしていません、そんな設定聞いていないと、彼がわたしに驚きの目を向けました。

 おや困りましたね、これでは疑われてしまいますね。


「本当ですか、お客さん?」

「あ、ああ、本当だ。俺は客だ、そちらのエレクトラム殿とは、商売の付き合いがあってな……彼がフードをしているのは、昔の火傷の痕を隠しているからだそうだ」


 いかついドアボーイがわたしたちを怪しんでいます。

 ええそうやって怪しんでくれて結構です。かえって都合が良いというもので。


「はい、こんななりで申し訳ありません。実はレゥムのドンが経営するお店に、一度くらい入ってみたいと思いましてね。できることなら、ご本人にお目にかかりたいものです」

「ああ……何となく理解した。うちの親分なら今夜視察に来るぜ。その時に少しくらいなら、挨拶もできるんじゃねぇか」


「おお、それは嬉しい。早くお会いしたいものです」


 どうやら彼は彼なりの世界観で、わたしたちのことを理解して下さったようです。

 マフィアというのは闇社会の利権を束ねる者でもあります。なので挨拶(・・)に来たのだと、勝手に解釈して下さいました。


「少し待ってろ、もうすぐ開店だ。……お客様方、タバコは吸うか?」

「いえお構いなく」

「俺もいい、身体が鈍る」


 ドアボーイからのサービスを断り、わたしとキシキシは開店準備が済むのを待ちました。

 ほどなくしてその準備が終わったようです。


 キャバクラ、いえ高級クラブの内部にわたしたちは通されました。

 L字型のソファー席に案内されると、騎士とフード男は、美人のお姉ちゃんたちに囲まれます。


 酒の好みを聞かれて答えると、わたしには甘口のぶどう酒、キシリールには蜂蜜酒が出され、しばらくを女性と他愛も色気もない会話を交わしながら過ごしました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 ここでは先払いのようです。酒だのつまみだの軽食だのと、あれよあれよとガルトに羽が生えて飛んでいきました。

 まあそこは仕方ありません、これも情報料の一部だと思うしかないでしょう。

 このお金で、里の皆のためにアレができたコレができたなどと、考えたところで意味がありません。


「騎士さんたちってぇ~、うちみたいな店にわぁ~、来ないって思ってたから、なーんかぁ新鮮~♪ さ、どうぞどうぞ~」

「いや、俺お酒強くないってさっき言ったでしょ、うわっ、飲めないよっこんなに……っ」


「キシキシさんったらご謙遜、アナタいい男だがらいけるわ。ねぇ私たちの売り上げに貢献して♪」


 ちなみにキシリールはお姉さん方にモテモテでした。

 この店は何もかも単価が高いですから、彼のような若い客はわりと珍しいようです。


「君らの都合じゃないか!」

「まあいいじゃないですか。あ、このサラミ追加でお願いします、彼も酒以外なら腹に入るそうですから」


 繰り返しますが必要投資です。エドワード氏探しの経費、そう割り切ります。


「ならチーズ盛り合わせも一緒にどう?」

「酒精の弱いエールなら、まだまだキシキシさんも飲めるんじゃないかしらぁ~」

「いいですね、お願いします。あ、わたしにはミルクをお願いします」


 ガルドを前払いで支払うと、酒場女の一人が厨房に向かって立ち去りました。

 とにかくもっともっと目立つ必要がありました。羽振り良くして彼らのボスの気を引きたいところです。


 油脂分をたっぷり含んだサラミは辛美味く、旅がちなわたしの身体はいくらでも受け入れてくれるようです。ついつい、にゃぁ……、とでもつぶやきかけてしまいそうになりました。


「貴方だけミルクなんてずるいですよ!」

「わたしこれが好きなんですよ」

「キシキシさん、エールを注いできたわ、さあ飲みましょみんなで! 乾杯!」


 キシリールがいい男で助かります。

 おかげでわたしは店内をジロジロと露骨に眺めて見せることで、ドンの到着を待っているとアピールできましたので。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 店に入って約一時間が経ちました。するとようやくです、ようやく店内が慌ただしくざわめきだしました。

 席はまだ空きが目立っていましたが、大半の客がそわそわと玄関口の方角に目を向けています。


 現れたのでしょう、レゥムの闇社会のドンが。

 怪しいフード男と正騎士がドンを待っている、それも開店前に店に並ぶほど熱心に。そう上に報告が入っているはずでした。


「来たか」

「そのようです。いえ、しかしあれは……」


 ところがです、わたしの予想は裏切られました。

 レゥムの闇社会のドンとなれば、どんな豪傑なのだろうかと期待してみれば、それは思いもしない姿をしていたのです。


 確かに来ることは来ました、大柄な黒服を6人も連れて、この店の主人らしき者が、わたしたちの席へと一直線に。


「あなたかしら、私を待って下さっている、お客様というのは」


 それは初老の女性でした。

 棒きれのように細い身体をした方で、髪は真っ白に老け込んでいます。


 それを黒服たちが左右と後方をガッチリ取り囲み、警戒の必要な怪しい連中である、わたしたちを見下ろしています。

 ネコヒトはソファーから立ち上がり、丁寧に初老の女性へとお辞儀をしました。


「エレクトラム・ベルと申します、マダム。こちらはキシリール、わたしの面倒を見るように頼まれた、貧乏くじの騎士様です」

「貧乏くじの騎士はないだろう……いや、マダム、素晴らしいお店です、この通り楽しませていただいていますよ。いえ、女性ではなく主に料理の方を……」


 やさしそうな人でした。

 キシリールが女性慣れしていないことを見破ってか、穏やかに微笑みを浮かべいます。

 それからわたしを見て、元からキッチリしていたその背筋を直す。


「つまりわたしにご用があるのね。なら奥の個室にいらっしゃい、坊や。それと、そちらはお爺さんかしら……?」

「おや、なぜそう思われるのです?」


「ふふふ、だって今どきそんなお辞儀をする人、見たことがないわ。典雅で素敵よ、お爺さん」

「こちらへどうぞ、お客人方」


 黒服の1人はそう言いながらも、わたしたちを不機嫌に睨みました。

 護衛を束ねている方なのでしょうか。わたしたちは奥のプライベートルームへと場所を移しました。


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