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18-8 Sweet on you 甘き樹に集え - 兎 -

・ウサギさん


 パンが作れるようになって朝食の準備が楽になったみてぇだ。

 黒パンと一緒にカブと薫製肉のスープをすすると、俺たちは満腹でネコヒトとタルトを見送った。


「あばよ、タルト。次来る時はネコヒトの護衛を付けろよ」

「いい加減聞き飽きたよ! ああリセリ、男どもには気を付けるんだよ、あたいに秘密で良からぬこと考えてるみたいだからね!」


 しょうがねぇっちゃぁしょうがねぇが、いつまでもリセリを子供扱いするところがタルトの難点だ。

 むしろ俺たちとリセリが共謀して、ジョグを1つ屋根の下に囲い込む作戦だってのにな。


「う、うん……気をつけるから、お姉ちゃんも気を付けてね……」

「あたいは平気さ! アンタの花嫁姿を見るまで死ねないからね!」


「なら、がんばるよ……お姉ちゃん」


 ま、こっちはなるようになるんじゃねぇかな。

 無理矢理引きはがしたところで、誰も幸せにならねぇしな。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 見送りが済むと、俺はパティ公とホーリックスちゃん、それにジア公とカールを連れて結界の外に向かった。

 俺はあまり甘い物には興味はねぇが、女子供がそういうのに目がないのはよくわかってる。

 好きな食べ物1つで幸せな笑顔が見れるなら安いもんだ。


「途中までタルトと、一緒に行かなくて、良かったのか……?」

「そうそう、それ俺も思った!」

「バーニィさんとタルトさんって、昔色々あったんだよね!」


 ホーリックスちゃんまで何言ってんだろうな。

 アイツと俺は腐れ縁、今はもう何でもねぇ。


「何勘違いしてやがる、ありゃただの昔なじみだ、そういうのじゃねーよ。ああそれよか危なくなったら俺を助けてくれよ、ホーリックスちゃん」

「よく言う……バニーは強い、そう言えば満足か?」


 ネコヒトにも警告されたがこれから向かうのは結界の外側だ。

 駆除が進んでる内側と違って、外に出るだけで途端にリスクが跳ね上がる。


「へへへ、まぁそれはそれで悪い気はしねぇな」

「あとスケベなー!」

「ちょっと、失礼でしょカール! まあでも、またリックさんの胸見てたのはホントだけど……」

「えっ……?!!」


 ませガキどものせいで、ホーリックスちゃんが胸を抱いて俺を警戒した。

 おう、見てたよ、見て何が悪い、見てるだけで幸せになれるなら見りゃいいじゃねぇか。

 さすがにそう口には出せねぇけどな!


「ばにーたん……そうか、わかった……。じゃあかわりにー、パティアのおっぱい、みるかー?」

「おう、大人になってボインボインになったら頼むわ、って、こら脱ぐなっ、おいこらませガキっ、それはあと10年寝かせとけっての!」


 でも面白いもんが見れたぜ。

 どうもカールのやつは、パティアも守備範囲の中だったらしい。

 上をたくし上げようとするパティアを、期待わくわくの目つきで見つめていやがった!

 いいねぇ、それでこそ男の子じゃねぇの。このムッツリ野郎が、わははは!


 後でたくさん、からかってやろう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 ネコヒトに伝え聞いた場所を探すことになった。

 アレが言うには古城から西北西、結界のすぐ外なので真西から回って行けば出会えるそうだ。

 ご親切にも付近の木に目印も付けてくれたとなりゃ、まあどうにかたどり着けるだろ。


「たのしみだなー、はーー、たのしみだなーー。しろっぷっしろっぷっ、めーぷーる、しろっぷー♪」

「あははっ、何だよその歌~!」


「めぷーるしろっぷのうただぞー。はーー、たのしみすぎる……あまーいのがいっぱい、いっぱい、とれるといいなー」

「気持ちはわかる。だけど転ぶから、気を付けて、パティア」


「お前らよ、もう少し静かにしろよ。ここはもう結界の外側だ、邪魔が入ったら予定が台無しだぜ」


 パティ公の歌声のせいで俺もわくわくしてきた。

 メープルシロップっていうのは、蜂蜜酒のように美味い酒になったりするのかね。


「バニー、教官が言っていたのは、もしかしてあれじゃないか?」

「おおー、ついに、みつけたか?! どこどこー?!」

「私も早くもう一度舐めたい!」


 北周りに進んで行くと、目当ての木が見つかった。

 メープルの木だ。ネコヒトが見つけたやつとは別なのか、樹皮に傷が入っていない。


「おうこれだこれだ、ちょっと待ってろ。よっと……」


 家宝をこんなことに使うのもなんだが、まあいいだろ。

 メープルの樹皮に螺旋状の溝を彫り込む。

 それから螺旋の最後に小さな壷をくくり付けた。


 壷へと樹液が漏れることなく流れるように、枝をかけてそこを伝わせる設計だ。

 上手くいくかどうかは、これから試行錯誤していけばいい。


「パティアお前! ずりーぞ!!」

「そうだよずるいよパティアッ!!」


 ところがその木にへばりつくガキがいた。

 俺が掘った溝に顔を寄せて、木から直接ペロペロと蜜を舐めている……。


「ペロペロ……はぁ、あまい……みんなは、あっちのきで、やったらいいとおもう、はー、あまい……」

「何やってんだお前……お前さんはよ、カブトムシかってのっ!!」


 パティアが言うとおり付近にはメープルの木が群生していた。

 そこは俺の想定通りだ。


「バニー、あっち側にもあるようだ」

「こりゃ思ったよりあるな。とはいえ採りすぎるとこの木が冬を越せねぇ、採集が終わったらこれを塗っておこう」


「なにこれ? なんか変な臭いするね……バーニィさんの脂?」

「んなわけねぇだろっ、ガマの油かっての! これ松ヤニだよ。接着剤にもなるからな、大工仕事で使うつもりで集めといたんだ」


 どうよこれが頼れる大人ってやつよ。

 ホーリックスちゃんの好感度もこれでちょっとは……ありゃぁ?


「ペロペロ……うま、あまーい、これ、あまーい……」

「おいパティ公、壷に指突っ込むんじゃねぇ!」


「本当に甘いな……砂糖なんかより、甘いんじゃないか……?」

「おうそうだろそうだろ、ホーリックスちゃんのためならいくらだって用意するぜ」


 ホーリックスちゃんもパティ公と同じことをしていたが、そこはまあ我慢できなかったんだろうな。


「えーっ、今のひいきじゃない?!」

「そうだぞー。バニーたん、いくらうしおねーたんがすきだからって、そういうのよくない。ペロペロ……ふはー、あま~~ぃ……ペロペロ……ふぁぁぁ♪」


 ブロンドのカブトムシなんて俺ぁ初めて見たね。

 まだ木に張り付いてやがる。


「リックちゃんは調理師だ、料理のために味見してるんだからいいんだよ」

「え、いや……それは……。すまないバニー、我を忘れて口に運んでいた……甘いんだ、すごく」


 そんなこたぁわかってるよ。

 ホーリックスちゃんは困った様子で、自分に似合わない姿なんじゃないかと恥じらっていた。

 もう魔軍を追い出されたんだからよ、そんなこと気にしなくていいのにな。普通の女になる権利だってあると思うぜ俺は。


「バニーたんもなめるー?」

「いやいらねぇ。嫌いでもねぇけどよ、俺ぁどっちかというと辛党だからな。つーかお前ら、採集しに来たの忘れるなよ?」

「そ、そういえばそうだったな……すまん、忘れていた……」


 ホーリックスちゃんはメチャクチャいい女だ。

 パティ公や子供らが懐くのも当然だ、こんなイイ女、どこを探してもそうそうお目にかかれない。

 だからこそ、もっとお近づきになりたいもんだな。


「んじゃぁお前らそこに張り付いてろ、カールお前は俺を手伝ってくれるよな?」

「え、ああ、別にいいけど」


 カールと一緒に他のメープルの木に手を入れた。

 8つしか壷を用意してこなかったのが失敗だ。まさかこんなに群生してるとは思わなかったよ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 終わったんで戻ってきた。

 まだパティ公どもは木に張り付いてたよ。季節外れのセミもいたもんだな……。


「樹液の採集はもうちょっと時間がかかりそうだ。俺がここに残るからよ、お前らは先に帰ってていいぜ」


 それと奧で使えそうな木材を見つけた。

 竹っていうやつでな、水筒にも何にでもなる便利な植物だ。


「でも、バーニィさん1人でも平気……?」

「パティアがまもるかー? パティアはここで、セミさんごっこしてみまもる。ぺろぺろ……あまぁぁぃ……」


 パティアやジアは心配してくれた。

 だがホーリックスちゃんは気にせず俺に背を向ける。


「心配しなくともバーニィは強い。教官が言うには、たった1人でギガスラインから無傷で歩いて来た男だ。それが弱いはずがないだろう……」

「そうだったのか!? それって言われてみたら確かにすげぇ、そんな人に剣を教わってるなんて、俺たちついてるなーっ!」


 俺としたことがおだてられちまったわ。

 これがホーリックスちゃんの口から出たやつなんだからよ、悪い気がしねぇ……。

 俺を認めてくれてんのかね、正統派の死に神様がよ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 樹液の採集が終わった。

 伐採した竹と一緒に樹液を城に持ち帰ると、ホーリックスちゃんが早速昼食のデザートに変えてくれた。


 植物性油で煎った小麦に、メープルシロップをかけて味付けするだけで、それが最高の菓子に変わる。

 俺は酒飲みだがこれはこれで悪くなかった。なんていうか、素朴ながらも文化的な味がしたね。


「これで乳があれば、バターも作れるし、菓子料理のバリエーションも、増えるんだけどな……」

「あ、それならー、いいかんがえ、あるぞー」


「本当……?」

「うんっ! あのねー、うしおねーちゃんがねー、おっぱいだせば、ぎゅうにゅうになる!」


 待て待てソレはダメだ、ソレは、セクハラだパティ公!

 ああくそうずるいな。俺が言ったら口聞いてもらえなくなるようなセクハラを、そんな、堂々と、そういうのずるいぞパティ公……。


「い、いや、オレから牛乳は、出ないんだ……。ごめん、オレ、ぅっ、ッ、ッッ~~!」


 胸を隠すように抱きながら背を向けて、ホーリックスちゃんはパティアの無邪気なセクハラに顔を真っ赤にしていたよ。

 ああいいね、かわいいねホーリックスちゃん。やっぱ最高だ。


「じゃ、パティアのおっぱいから、ぎゅうにゅう、でる?」

「いや出ねぇよ……いいからそこまでにしろ、カールが遠くで顔赤くしてるぜ」


 無邪気ってホントたち悪いな……。

 しかし牛か。来年は放牧場を確保して、牛を飼うのもいいかもしれんな。


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