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18-7 真実の一端 パティアと魔王の腕輪 - 継承 -

「むつかしい、いいかただ……ねこたんが、パティアのこと、すき、ってことー?」

「はい、そう思って下さい」


 この子はわたしにとって未来の象徴です。

 この子がエレクトラム・ベルという、新しい人生と役割をわたしにくれたのです。


「よく見ると瞳に星がある、黒髪の美女、どこかで聞いたことがある特徴にゃぁ。ああ、そうにゃ、亡きババ様が言ってたにゃ……かつて存在したあの――」


 クレイの言葉が再びわたしに震えを植え付けました。

 ですがもう怖くなどありません。


「黙りなさい」

「にゃ……黙りますにゃ」


 その言葉をパティアに聞かせるわけにはいかない。

 わたしはレイピアを突き付けて、おしゃべりでたちの悪い焦げ猫を口止めしました。

 黒髪の美女、目に星、魔王の腕輪の隠し場所を知っている。この特徴をまとめると、ある人物に行き当たります……。


「ねこたん、どうしたー? いつもと、なんかちがうよー?」

「…………」


 魔王様。パティアの夢に現れたのは、消えた魔王、わたしの主人の特徴に酷似しています。

 かつての主人が、パティアに、わたしが隠した腕輪を掘り起こすように命じた……そういうことになってしまいます。


「ねぇねこたん、へんじして……? パティア、わるいこだった……かってに、はいっちゃいけないとこ、はいった……。おぉ~……ふかふか」


 不安がる娘をやさしく抱きしめて、落ち着くまで待ちました。

 それから部屋の端に向かい、陶器のかけらを手にして埋めたはずのものを掘り返す。


「そこに、何があるのですかにゃ、大先輩」

「パティアもきになる……。おねえちゃん、パティアにね、やさしそうにわらってた」


 そうですか、笑っていましたか。それは良かった……。


「情報屋のあなたに言うのもおかしな話ですが、他言無用でお願いします。でなければわたしは、魔王の僕だった者として、あの方の名誉を守るべく行動します」

「にゃぁ~、大先輩との秘密の共有ですかにゃ。もちろん守らせていただきますにゃ♪」


 それとクレイ、もう少しネコヒトとしてのプライドを持って下さい。

 それではネコヒトではなくただの大きい猫です。


「あっ、なにそれー! しろい!」

「いえ重要なのは箱ではありません、中身です。はて……」


 土がやわらかくなっていたのもあり、すぐに白い箱を掘り返せました。


「中が光ってますにゃ」

「すごいすごいっ、それっ、たからばこみたい! あのおねえちゃん、いいやつだ!」


 泥や砂を軽く払い、パティアに向けて箱を差し出しました。

 魔王様……らしき者はあなたにこれを開けろと主張している。


 わたしはそれに従い、親として見守りましょう。

 もし魔王様の残滓か何かがパティアに害を及ぼすならば……その時は、責任をもってわたしがこの子を守ります。


「んと……じゃ、あけるよー?」

「ドカーンッて爆発するかもにゃっ♪」


「そ、そうなのかーっ?!」

「クレイ、水を差すような冗談は止めて下さい。中はわたしがよく知るものですのでご安心を」


「そかー、じゃ、いくよっ、とーっ!」


 箱が押し開かれ、そこにオリハルコンの腕輪が現れました。

 白く美しい輝きを持つそれは、どうしたことか宙に浮かび上がってゆく。


「浮いてるにゃ……」

「あははーっ、なんだこれー! お、おぉー?」


 わたしの知る限り、わたしの主人しか認めなかった腕輪です。

 人間ごときに装備できるはずのない物が、自らの意思でパティアの腕へと収まる。

 形状を自ら変え、小さくなることで破損を修復し、腕輪は在りし日の姿を取り戻す。


「たいへん! ねこたんっ、わっかが、わっかが、ぴったりだ! みてみて、これカッコイイっ、パティアつよそう、がぉっ、がぉぉーっ!」

「それはまずいですね……」


 魔王様の遺品、その中でもこの腕輪は特別にまずい。

 壊れかけとはいえ、この腕輪は強力な精神異常耐性と、見えざる者との交渉能力をもたらす。

 たとえば、魔神などといったたちの悪い連中も含みます。


「なんでー?」

「にゃぁ……というより、この腕輪はなんですかにゃぁー?」


 だからまずいのです。後ろ半分の力はあまりに危険過ぎる。デメリットがメリットを余裕で飛び越えてしまっている。


「やっぱりこれ没収です」

「えーっ?!」


「えーじゃありません、ダメです、これだけはダメです、他にもっと良い物見つけてきてあげますから、これはあなたには早過ぎます!」


 わたしは己の機敏さを使って腕輪をつかみ、パティアの腕から奪い取りました。有無を言わせずもう片方も回収しました。


「はやいって、なんでわかるのー? それにね、ゆめのおねーちゃん、パティアにそれ、くれるっていってたよ。たぶん……あいきゃっちで?」

「それが善意とは限らないでしょう」

「まあそれもそうかにゃ」


 ところがです、腕輪を元の箱に戻そうとしたところ、再び埋められるのを嫌がりました。

 結果、逃げ場を探して腕輪は、わたしの腕を新しい宿主に選んでしまったのです。


「あ。うでわさん、ねこたんのて、きにいったみたい。なかなか、わかってるやつだ……ねこたんのて、かわいいからなー」

「おや困りました。フフ、取れませんね……」


 これは何の冗談ですか、魔王様。

 弱い種族ネコヒトの腕に、こんな不釣り合いな物を付けるなんて。

 腕輪はきつくありませんでしたが、てこでもわたしから離れようとしません。


「にゃぁ~、面白そうな呪いの腕輪だったにゃぁ」

「のろいか……こ、こわいやつ、だったか、これ……」

「はいそうですよ、もう少しであなたの腕は、ボトリ……と落ちていたでしょう」


「やだ、こわい!!」

「その言葉を、夜の闇や森のモンスターに向けて言ってもらいたいのですがね」


 まあいいでしょう。

 魔神を憎むわたしが持つ限りでは、これは恨み言を伝えるチャンスでもあります。


 それと同時に重大な憶測もこれで立ちました。

 それは消えた魔王様と、パティアには繋がりがあるかもしれない。という推測です。


「それは無理かと思いますにゃ。パティアお嬢様には、それだけの力がありますにゃ」

「でへへ……そんな、てれるぞーコゲニャン。ねこたーんっ、パティアほめられたー♪」


 ならば彼女の父、エドワード・パティントンという存在の意味も変わってきます。

 彼は研究者でした。パティアの話を聞く限り財力もありません。

 ならば研究にはパトロンが必要だったでしょう。


「あまり娘をおだてないで下さい。これ以上調子に乗られると、手が付けられなくなります」

「ねこたん、むぎゅぅぅー♪」


 なぜ人間の娘と魔王様が繋がるのかはわかりません。

 何の意図で今わたしがいきなり抱きつかれたのかも。


 近いうちにタルトをレゥムの町に護送する約束になっています。

 その際にわたしは、パティアの父親ではなく、研究者エドワード・パティントンの秘密を探ることに決めました。


「愛されてますにゃぁ~、羨ましい限りですにゃ」

「いいでしょ、ねこたんとー、パティアは、ラブラブなんだよー。このふかふかふわふわが、パティアをくるわせる……はふー……♪」


 もしかしたら、彼は自分の娘を使ってとんでもない研究をしていたかもしれないのです。

 わたしは魔王の僕として、この子の父親として、真実を知らなければなりませんでした。


 彼は最期に言ったのです、自分は罪人だと。


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