表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/443

18-5 ばにーたんとタルト、ふたりもなかよし

・旧市街を捨てた大工のせがれ


 どっこい、静寂はまた破られた。森の中じゃよく目立つ赤毛の女が、俺の隣に立って湖水を眺めだしたからだ。


「4日後に帰るよ。あたいとしたことが、ここののんびりした空気にあてられて、すっかり長居しちまったよ……」

「別に帰らなくてもいいだろ」


 しがらみ全部捨てて、無責任なことを言いたくなるときもある。


「バカ言うんじゃないよ、なら誰が移民をここに運ぶんだよ!」

「そうだな、だがお前が帰っちまうのが少し寂しくてな、心にもないことを言ってみた」


「寂しい……。ね、寝言言ってんじゃないよっ! あたいはもうアンタの嘘には騙されないよ!」


 ほんの少しだけ若い頃のタルトが見えた。

 タルトとはだいぶ歳は離れていたが、そんなのとは関係無しに、旧市街で再会した当時はイイ女に育っていた。


「そうだな、この里ニャニッシュの発展にはお前さんの存在が不可欠だ。だからよ、もう2度とネコヒト抜きでここに来るだなんて、考え無しの無茶はしないでくれ」


 あん時、俺はあきれたよ。肝が冷えて、それから怒りも覚えた。

 無事にたどり着いてくれたことに神に感謝した。


「なんだいっ、そんなのあたいらの勝手だろっ!」

「お前っていう人材の換えは利かねぇって言ってるだけだ。覚えとけ、ギガスラインからこっち側には、桁違いにヤバい化け物も発生する。もし倒せない相手が目の前に現れたら、どうするつもりだったんだよ」


 ネコヒトというガイドがいるからこそ魔界の森を渡れる。

 危険な怪物や魔族の冒険者狩りと遭遇する前に察知して、迂回ルートを示してくれる。ニャニッシュの外側は安全な世界じゃない。


「ああもうっ、そんなことわかってるよ、うるさいオヤジだね! けどね、エレクトラムはそれだけのことをしてくれた! 親父さんの名誉を踏み台にして金を盗んだ、どこかの恩知らずとは違うんだよ! それにアンタだって、だった1人でここに来た口じゃないか!」


 ああ、そこか。そこ突かれるとつらいわ。

 だが他に逃げる世界もなかったしな。北方や東方の国々に逃げたところで、国々は外交問題を恐れて俺を保護しちゃくれなかっただろう。


「まあそうなんだが。ああ、あとよ、夜逃げ屋なんて始めたこともそうだ、俺はお前が心配で言ってるんだよ。恨みを買う商売してんだぜお前」

「はっ、口で心配して見せるだけなら誰だってできるよ!」


 めんどくせぇやつ……。けど昔はこんなじゃなかった。何でこんなにスレちまったんだろうな。

 大人になるっていうのは良いことばかりじゃねぇな。パティ公はこうならないで欲しいわ。


「けど……ああもうっわかったよ! 一応はあたいを心配してくれてることだけはね……。ま、ここへの行き来についてはこっちで考えておくよ」

「その頑固さ、嫁の貰い手が見つからねぇのも納得だな……。頼むから気をつけろよタルト?」


「あははっ、何だい自分は棚に上げちゃってさ、独身のおっさんには言われたくないね!」

「んなっ……?! あー、いやま、それもそうだったな……」


「そうだよ」


 言い訳をするならばそれは俺の立場だ。

 俺は確かにゴライアスの家と騎士の位を継いだが、元平民だ。なかなか良い縁に恵まれず、開き直って嫁も探さず遊びほうけていたさ。


 騎士という地位と名誉ばかり目に行くが、実態はきつい商売だ。跡継ぎって言葉にもピンとこねぇ。


「ちょっとバーニィ、これは何のつもりだい?」


 そんで話を戻す、やっぱコイツが心配だ……。

 元近所のお兄ちゃんとして、同郷の女が不幸になるのは見たくねぇ。


 そこで俺はポケットから、一見ちっぽけな首飾りをタルトに突き出した。


「やる。こいつはパティ公の魔法を喰らっても俺を無傷にしてくれた、正真正銘のお宝、レジェンド級のレアアイテムってやつさ」


 見た目は古ぼけている。銀色は輝きを失ってくすみ、宝石も小さな傷だらけで輝きも鈍っていた。


「そんな金目の物、かえって危険を呼び寄せるようなもんじゃないか!」

「大丈夫だ、一見は価値があるようには全く見えんだろ」


 こいつがあれば魔法の面では安全だ。俺よか無茶してるタルトが持っていた方がいい。


「ならそれほどのレアアイテムをさ……、アンタはどこで手に入れたんだい!」

「そりゃぁぁ……へへへ、ま、聞くのも野暮ってもんだろ。王家の宝物庫で拾った」


「ぁぁ……バーニィ……」

「おお嬉しいだろ、まあ俺とお前の仲だ、ほら遠慮すんな持ってけ」


 女っていうのはこういう物に弱いって決まってるんだ。

 銀の輝きは鈍っている。しかしアンティークとして見た限りでは、なかなかにオシャレだ。


「この旧市街の追い剥ぎより頭の悪いアホ男ッッ、バカ言ってんじゃないよッッ!! そんなヤバいブツを、あたいに持たせようとすんじゃないよッッ!!」

「ならネコヒト抜きで魔界の森を渡ろうとするな。受け取るなら考えてやる」


 タルトは俺から鈍色の首飾りを受け取らなかった。

 差し出す俺の手を包み、握らせて俺に返す。若い頃はもっとスベスベしてたな……。


「気持ちは受け取ったよ。次はもっとマシな物、用意しておいてもいいからね……バーニィ、ありがとう、帰り道も一応気を付けるよ」

「おう、積雪が始まれば暇になる。じっくり考えておくぜ」


 タルトは満足したのか畑の方に引き返していった。

 俺も釣り竿を構えなおして、水辺にまた腰かけた。で、まあそこまではいいんだ。


 珍しくタルトの素直な顔が見れて、今ほどツンツンしてなかったあの頃を重ねて思い返せた。

 だがよ、ヤツ(・・)は起きていた……。


「タルトさんは、バーニィさんの元カノか何かですかにゃ?」


 嫌らしい猫なで声だったよ。ネコヒトがコイツを警戒する理由が理解できた。

 性根だ。人の弱みを握ることに敏感な人種、クレイは見たぞと嬉しそうに笑っていやがる。


「てめぇ情報屋だったそうだな。しかも又売り上等の悪党だって聞いたぞ」

「又売りの何が問題なのかにゃ? どうせ誰かがすることにゃ、みゃーがしてもしなくても結果は同じにゃ」


 俺は騎士をしていた。だからよ、悪党には慣れている。

 悪党は2種類いる。やむなく悪事を働いてるやつと、とっ捕まっても悪びれず反省もしない真性の悪だ。


「はぁっ……ここは釣れたてのアユーン1匹で手を打たねぇか? 魔法もできるんだろ、火をくれたら焼いてやるよ……」

「みゃぁ♪ ウサギさん、話わかるにゃ~、にゃーは、みゃーが大好きにゃ♪ 脅しじゃなくて、賄賂をくれる人は特に大好きニャァ♪」


 アユーンフィッシュ1匹の賄賂とはかわいらしいもんだ。

 本人はそれに大喜びで満足している。今だけのポーズかもしれんがな。


「ったく、ホントうさんくせぇ野郎だな……」

「それは言われ慣れてるにゃ」


「はいはい。あ、このことネコヒトには言うなよ」

「わかってますにゃ、もし知られたら大変……。そんな蜜の味のする賄賂をくれる、ウサギさんがにゃーは好きにゃ♪」


 すまんネコヒトよ、大物はコイツの黒い腹の中に消えるようだ。

 アンタがクレイをここに招き入れたのは、どうやら失敗だったらしいぜ。


ごめんなさい! 投稿が遅れました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ