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17-5 収穫の日の終わり タヌキとネコの夜想曲

 食事前にわたしは目覚めました。

 それからいつものように食堂で笛を奏でて楽しい夜を過ごしますと、充実した時間はすぐに流れて就寝前となっておりました。

 今は疲れ果てたお姫様、いえ騎士アルスの肩と腰をパティアが背に乗ってほぐしています。

 ちなみにわたしは、一足お先にたぬき寝入りをさせていただいておりした。これは盗み聞きにちょうど良いのです。


「おー、うらやましいねぇ、後でバニーたんにもやってくれよそれ」

「いいよー、でもあるたんがさきだぞ。あるたん、かちこちんに、つかれてる、おとと……。はい、これあげるー」


 なんてサービス精神旺盛な8歳児なのでしょう。

 パティアはポケットから焼きグリを取り出して、グニャグニャと滑る背中の上でそれを割りました。

 それから下りればいいのに足を震わせながらかがんで、アルスの横顔に実を寄せる。


「ああパティアくん、キミは本物の天使ではないかね……あっあっあっ、きくぅぅー」

「はやくたべてー」


「うん、いただきますパティアくん。ん、んん……ああっ、甘いな、甘さが疲れた身体に染み渡るよ……」

「なんつーかよ、イケてる顔に反してポンコツで、そこそこオヤジ臭くて、けどそこがなんか愛きょうがあるぜお前さん」


 バーニィとしては褒めてるつもりでした。

 ですけど気高いハルシオン姫としては、そういう言い方は気に入らないのでしょうね。ムッとしていました。


「品もデリカシーもない男に言われても、あっああっ、ぉ、ぉぉぉ……余計な、お世話だよっ……。はぁっはぁっ、はふぅぅ……」

「じゃあクーさんはー、アルさんの腕の方を揉んであげますねー♪」


 クークルスが寝床に戻ってきました。

 布と羊毛が届いたことにより、彼女の生活は忙しさを極めています。

 本来収穫など手伝わなくてもいいくらいなのですけど、彼女も一緒になって育てた小麦です。

 収穫に加わらないなんて選択肢は最初からないそうでした。


「い、いや……クーさんはちょっと……んんっ……」

「えぇぇ~、パティアちゃんだけずるいですぅーっ」

「アル公ばっかずるいぜ……。って、おい、まさか寝ちまったのか?」


 今さっきまで普通に話していたのに、騎士アルスの意識はゼンマイが切れたかのように途切れていました。

 小さな寝息を立てて、無防備に熟睡している。


「パティアがせなか、のるだけでねちゃうなんてー、おとなは……だらしないなー」

「いやわからんでもないぜそこは。ってことで、パティ公、次はこっち頼むぜ、ほらこいっ」


 毛皮の敷物の上にバーニィがうつぶせになる。

 パティアは女性らしい肉質のアルスから、硬くて大きいおっさんの背中に飛び移りました。


「とうーっ!」

「ふぎゃぁっ?! て、てめぇパティ公っ、バニーたんを殺す気かっ!」


 ええ誇張でも何でもなく、頑丈そうなので娘は大地を蹴って飛び移っておりました。

 あれを食らったら大変です。わたしは書斎ベッドより身を起こしました。


「アルスはお疲れだったようですね」

「おお、ねこたん、たぬきいりだったかー。えへへー……すごいだろー、あるたんは、パティアがねかしましたーっ」


 たぬき入り……? ああ……。

 それはそうと、アルスが女だとバレると面倒です。

 そこでわたしは彼女の上半身を引きずって、暖かい毛皮の敷物の上にあおむけに寝かし直しました。


 するとどうしたことでしょうか。

 柄にもなく親切なわたしの行いに、シスター・クークルスが何か含みのある微笑を浮かべていました。


「どうかされましたか、シスター・クークルス?」

「いいえー、何でもありませんよ~、ふふふ~」


 まさかとは思います。

 ですが彼女、もしかして、騎士アルスの秘密に気づいてはいませんか……?

 ならばそうなると、小麦の収穫の際に見せたアルスへの妙に馴れ馴れしい態度も、真実が180度ひっくり返ります。


 女性と知った上でクークルスがアルスの手を取っていたとすると、それはただの親愛。

 かわいそうにハルシオン姫は、自分が男として言い寄られていると、勘違いしていたことになります……。


「それを言うなら、タヌキ寝入りだろパティ公。おっおおっ、こりゃ、きくっ、ぉぉぉぉ……っ」

「ああ~、てっきり私ー、ねこさんが、タヌキとネコのハーフさんなのかと、深読みしてしまいましたー♪」

「そ、そうだったのかっ、ねこたんっ?!」


 いえやっぱりわたしの深読みかも……。

 それとパティア、言ってもムダなので心の中で言います。人の話はちゃんと聞きなさい……。


「わたしはタヌキの子でも、ネコの子でもありません、ネコヒトです。そもそもわたしのどこにタヌキ要素があるんですか……」


 それはそれとしてバーニィの枕元に立ちました。

 身をかがめてその耳元に口を近付けます。もちろん密談のために。


「バーニィ、そろそろ察して下さるころかと思いますが、()のこともよろしく頼みますよ」


 するとバーニィはそっぽを向いたまま返事をくれました。


「ああ……ま、現れたタイミングがタイミングだよな。買い物に行ったはずのお前さんが、布じゃなくて騎士と馬を持って帰ってきた、なんかあったな、ってのは最初から理解してるぜ」

「すみませんね、まあそれとなくで構いませんので。……ああそれと」


「まだあんのかよ」


 声の量を戻してバーニィから離れました。

 このことも伝えておかなければなりません。


「厩舎の方が片付いたら、次は南にジョグとリセリの新居を建ててやって下さい」

「あっそれっ、パティアもてつだうぞー! リセリにはー、しろぴよ、しょうかいしてもらった、おんがある!」


 なるほど一応そういう経緯になるのでしょうか。

 リセリという仲介者がなければ、あの丸くて太った小鳥と娘は出会わなかったと。

 いえもしかしたらうっかりわたしが捕まえて、焼き鳥になっていた可能性すらあります。


「アイツらの新居だぁ? わははっなるほどな! ジョグは同意してんのか、いやしてねぇだろな! はははっ、そりゃなおさら面白ぇ話じゃねぇか!」


 バーニィはもっともっと里の人口を増やしたいと思っているそうです。

 だから外に家を建てることには好意的で、それはもう楽しそうにこの悪ふざけに乗って下さいました。


 もしかしたら、ただやりがいのある大工仕事が欲しかっただけかもしれませんがね。


「うふふー、2人の子供が楽しみだわー♪ どっちに似るのかしら~♪」

「こども?! いっしょに、おなじとこでねたら、こどもできるのかーっ?!」


 はい、シスター・クークルスは朝も昼も夜も天然で困ったものでした。

 人間と魔族のハーフ、殺戮派のニュクスのような例は珍しいのです。

 もし運良く生まれても、必ずどちらか片方の特徴だけを引き継ぐのがこの世界の決まりでした。


 それは人間と魔族が、永久に混じり合わないという意味でもありました。


「そうだぞパティ公、もうじき俺とネコヒトの子供もキャベツ畑から生まれてくるころだ、仲良くしてやってくんな」

「バニーたん、ざんねんだけどなー、ねこたんだいすきなとこ、わるいけどな。おとことおとこは、こども、できないんだぞー」


 すみませんパティア、それもどこ経由で得た情報なのでしょうか……。

 わたしあなたが妙な知識を付けてゆくのが心配です……。


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