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17-4 収穫の日 黄金の麦穂と剣の切っ先 - リセリの特殊ケース恋愛相談 -

「ごめん、ボクの意見なんて参考にならないと思う……。その、この通りボクって変わってるだろ」


 男性としての意見など言えるはずがない。

 そこでハルシオン姫様は、無責任な発言を避ける方向にかじを切ったようでした。


「あ~~、確かに少しだけー変わってますね~♪」

「そんなことないと思います……! それにこんなこと聞けるの、アルスさんしかいないんですっ、だからお願いします!」


 しかしアルスでなければダメだとリセリは譲りません。

 中性的で誠実な騎士アルスは、リセリからすればわたしやバーニィよりずっと相談しやすいのでしょうか。


「バーニィのやつじゃダメかい……?」

「ダメですよ~。バーニィさんはー、おじさんですから♪」

「はいっ。それに相談したらからかわれそうな気がして……」


 おじさんは即決で選択肢から外されていました。

 まあそれはあるかもしれませんね。

 親切に実用的なアドバイスをくれそうですが、あれは人をからかうのも好きな悪いおじさんです。


「というより、根本的な質問をしていいかい? リセリの想い人って、いったい誰(・・・・・)のことだい?」

「えっ、そ、それはっ……」


 里の中に魔族は4名います。わたし、リック、ラブレー、そして正解であるジョグ。

 究極の4択であることにアルスも当然気づく。どれが答えであってもアルスからすれば驚きでした。


「あっまさか……」

「えっ?! い、言わないで下さいっ、誰かにもし聞かれたら……っ」


「ホーリックスさんかい?」

「ぜんぜん違いますよっ! カッコイイですけど、女性じゃないですかっ!?」


 この4つの選択肢から、無難と思われるラブレー少年を選ばないところがさすがです。

 あなた本当に女の子が大好きなのですね、アルス。


「ちなみにー、ラブレーちゃんでもありませんよ~♪」

「違うのかい? いや、でもそうなるとネコヒトくんと……えっええっ?! ま、まさかっ……あの、でかくてムサいイノシシ男なのかいッ!?」


 ムサいは一言余計ですけど正解です。

 リセリがわかりやすく下を向いて、内股になって縮こまりました。


「ッ……。は、はい……そうです……。じょ、ジョグさんと、もっと、もっとお近づきになる方法、私に教えて下さいアルスさんッッ!!」

「そんな、嘘だろ……。ああ、女神よ、こんなに美しい女性がなぜ、ボクには理解できない……」


 見たところこれはダメそうです。

 理解不能なリセリの趣味に、アルスの頭が真っ白になっている様子。


 美女と野獣、盲目の蒼化病患者とはぐれワイルドオーク、色々と人間の世界の価値観からはぶっ飛んでいます。

 しかしだからこそ純粋なその恋心を、皆が応援したくもなるのです。


「あの~、横から失礼しますねー? あのー、参考に聞きますけど、キスとかは~、もうしたんですかー?」

「き、キス……?! そ、そそそ、そんなエッチなことしたことないですよ……ッ!!」


 そんなこと最初からわかっていました。

 本人同士好き合ってるのに、2人の関係はちっとも進展していません。


「あらかわいい、どっちも純粋なのねー。もぅ、お姉さんやけてきちゃいます♪」

「というか、キスなんて、ボクだってしたことないよ……」


 性格の割りに意外と清楚なのですね。

 アルスから漏れた小声のグチに、わたしは微笑ましさから笑ってしまいました。

 ……ああ、そういえばこの人お姫様でしたっけ、経験がないのが当然といえば当然でしょうか。


「すまない、ボクは恋愛にうとくて、そういうのはわからないよ……。それにリセリはまだ若いんだから、焦る必要なんてないんじゃないか……?」

「あ~、確かに~♪ ゆっくり育むのも愛ですね、素晴らしいお考えです♪」


 そうかもしれません。ですがそれを見ているだけの側は、とにかくもどかしいんですよ。

 それは年寄りの感覚だろうと言われたら、反論できませんがね。


「でもジョグさんイケメンだからっ、他の誰かに取られちゃうかもしれないじゃないですかっ!!」


 リセリの焦りはそんなところにあったようです。

 そんな小さな女の子の肩に、アルスは馴れ馴れしくもポンと手のひらを置く。

 リセリは目が見えない分、その突然のことに驚いていました。


「それはない、ボクが保証しよう、それは絶対に、ないから安心してくれたまえ。ボクの趣味ですらない。あ、いや、男と男だから、それは当然だな、ははは……」


 そうですね。どこからともなく押しの強い女ワイルドオークでも現れない限り、ジョグが他の誰かに取られるとは考えづらい。

 さて、これ以上仕事をサボるわけにもいきません。麦畑から彼らの前に姿を現しました。


「あっ……?!」

「おやネコヒトくん、狙ったようなタイミングで現れたね」

「うふふー、困ったわー、おしゃべりばかりしてたところ、見られちゃったかしらー♪」


 シスター、それは無自覚の自爆というやつなのではありませんか。

 クークルスの言葉に、他の2人も少しばつが悪そうです。


「そうでしたか、ではそろそろ休憩は終わりにしましょう。こちらを手伝いにきましたよ」

「すみません、すっかり話し込んじゃってました~」

「ああ、せめて収穫くらいはがんばって、ボクも隠れ里ニャニッシュに貢献しないとな」


 リセリとしてはアドバイスをもらえずじまいになってしまいました。

 わたしは不本意な乱入者となっていたでしょう。

 いつもの彼女なら鋭敏な知覚能力で、わたしの存在をわたしより先に悟っていたはず。それを鈍らせてしまったのが恋という病だったのでしょう。


「なら私はパティアちゃんのところに戻ります。アルスさん、クークルスさん、相談に乗って下さりありがとうございます」


 話を聞かれたのではないかという焦りもあってか、リセリは逃げるように背中を向けていました。


「いえ少しお待ちを」

「えっ……」


「あなたにとても良いお話があります。ジョグからはハッキリとした答えをもらえずじまいでしたが、もしあなたがよろしければ、お二人の、新居を建ててさしあげましょうか?」


 騎士アルスがわたしの顔をうろんそうに眺める。

 全部聞いていたんだろう、ネコヒトくん。とでも言い出しそうな顔色です。

 一方のクークルスは両手の節と節を合わせて、それは名案と歪みなき笑顔を浮かべていました。


「つまりですね、同じ屋根の下で、二人っきりで暮らしてゆけば、そのうち何かしらの意図せぬイベントが起こり、進展や幸せが得られるのではないか。……という提案ですよ」


 両方が奥手なら、くっつく環境をこちらが用意してさしあげればいい。

 わたしの一見気まぐれにしか聞こえない計画に、リセリは期待と希望に光映さぬ瞳を輝かせました。


「い、いいんですかっ?! 新居っ、その考え方はなかったです、ジョグさんとわたしの新居……っ、それならきっと、少しの勇気さえあれば……! ぜ、ぜひ、ぜひお願いしますエレクトラムさんッッ!」

「うふふー、それは名案ねー♪ ベッドは1つしか準備できなかった、そういうことにしましょー♪」


「えっ、ええーーっっ?!」


 いえあの、わたしそこまでするとは一度も……。あの、あなた本当に聖職者だったんですよね?

 さすがにそこまでやると露骨で、ジョグを警戒させることになるのでは……。


「フッ、悪いシスターもいたものだな。もちろん採用しよう、1つしか準備できなかったのではなく、バーニィがヘマをして、大きく作り過ぎたので2人で使ってくれ、こちらの方がずっと良いよ、もったいない精神というやつさ」


 恥じらいのあまり足下をふらつかせるリセリに対して、クークルスとアルスは実にノリノリでした。

 いえそれはさすがに攻めすぎではないかと……思う反面、そのくらいの方が、リセリとジョグにはちょうど良いのでしょうか。


「まあベッドのことはともかく、ジョグには南部の見張り番になってくれ、とでも命じればいいでしょう。いつまでも城で集団生活するのも、プライベートがなくどうかと思うので、2人はその先駆けというわけですね」


 ジョグの戦闘力にリセリの感知能力、見張りとしても最適な組み合わせです。

 パティアの術で外界と隔離したとはいえ、魔物の自然発生が止まったわけではありません。


「はははっ楽しいなっ、ここの生活は! ワクワクが増えてしまったよ!」

「そうでしょそうでしょー♪ アルスさんもわかってくれて良かったです。ぴとっ……」

「なぜ、ボクの手をとうとつに握るのだね、シスター?」


「何となくです♪」


 以下は割愛しましょう。

 収穫を手伝うと夕方となり、眠気の限界を迎えたネコヒトは夕飯までの眠りにつきました。


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