17-2 ラブたんとパティアの、けっとー
・イヌヒト・ラブレー
今日、僕はあのパティアに決闘を申し込む。
だってパティアはもっと僕を恐がるべきなんだ。
この前の魔法勝負では、悲惨にも僕はオシッコをちびったところ見られてしまった!
湖でパンツを洗ってる現場を! むき出しの恥ずかしいお尻を見られた! このままじゃ僕はアイツのおもちゃだ!
だから今度は魔法じゃなくて、武器で勝負する。
僕の方が強いって見せつければ、パティアも僕に対する態度を考え直す。
「あ、ラブちゃんだー! おおー、も、もしかしてもしかしてー、パティアに、あいにきてくれたのかーっ?! はーー、かんげきだ……」
朝、パティアが東の森に入るのを後ろから追った。
そこであの白くて太った鳥と一緒に、採集をしながら森のモンスターを倒して回っている。
僕はその秘密を知っているんだ。
「そうだよ。さあ勝負だパティア! 僕とこれで勝負しろ!」
用意しておいた樫の棒をパティアに押し付けた。
公平になるように同じ長さにした棒を、僕はパティアに向けて身構える。
さあエレクトラムさんのいないこの場所で、僕の恐さを見せてやる!
「えーー……やだ」
そんな! せっかく用意したやつなのに、パティアが僕の棒を足元に捨てた。
「ラブちゃんはー、パティアのー、おともだちだぞ。でもおともだちと、ケンカは、しちゃいけないんだぞー」
「そ、そうだけど……じゃなくて僕は友達になった記憶なんてないよっ!」
パティアが捨てた棒を拾い直す。それからもう一度押し付けた。
「友達じゃないから勝負だパティア!」
「んーー……やだ」
「捨てるなぁぁーっ!!」
僕の棒が今度は森の茂みの向こうに投げ捨てられた!
反射的に駆けて、それを拾って僕はパティアにまた押し付ける。
「おお……これは、いわゆーる、アレ? へへー、ラブちゃーんっ、とってこーーいっ♪」
「捨てるなって言ってるだろっもうっ!!」
また遠くに投げ捨てられた……。
それを嗅覚を頼りに拾って、パティアの前に戻る。僕の意思に反して尻尾が左右に揺れた。
「いいこいいこー♪ このあそび、たのしいねー♪」
「楽しくない! そうじゃなくて、今度は魔法じゃない方法で勝負しろって言ってるんだ!」
「えー、なんでー?」
「な、なんでって……パティアに僕の方が強いって見せつけてやるためだよ!」
「んー。そういうの、どうでもいい」
「どうでも良くないよっ!! そ、そうだっ、なら、勝った方がなんでも言うことを1つ聞く、これでどうだ!?」
僕は魔法タイプだけどれっきとしたイヌヒトだ。
身体能力に優れるこの身体があれば、こんなやつに負けない。魔法無しでは僕の方が上と教えてやる!
「えっ、それってほんとかー?! ラブちゃんが、パティアのいうこと、きいてくれるのかー?!」
「う、うん……だから勝負しろ! あっ、魔法は禁止だからね!」
あんなのぶつけられた僕死んじゃうし……。
「いいよー! それはならそーと、いってよラブちゃん。むふふー、しょーぶだ!」
「よし、なら行くぞ、僕の強さ思い知れ! やぁぁーっ!」
「とぉぉぉー!」
素早く激しく撃ち込んで戦意を奪ってやろうと思った。
あれ……けど僕の攻撃の威力をパティアは綺麗にずらしていた。
「や、やるじゃないか、だけどこれは受けきれるかな!」
「こいこいー、ラブちゃーん!」
今のは本気じゃない、次は全力で行く。
イヌヒトの力いっぱいに樫の棒を振り下ろし、面、薙ぎ、突き、ありとあらゆる乱舞を撃ち込む。
なのに僕はいつまで経ってもパティアから1本も取れなかった。
どんなに攻め立てても、いけそうなはずなのにギリギリで防ぎ切られてしまっていたんだ。
「な、なんで……本気なのに……!」
「かったら、ラブちゃんをすきにできる。それがパティアのー、ちからのもとみなだ! にへへ……にゅへへへへ……♪♪ おと、よだれでてたー、じゅるる……」
「ヒャンッッ?! へ、変態ッ、変な妄想するなっ、パティアの変態ッッ」
これが恐怖、身の危険……?
負けたら何をされるかわからない、こうなったら絶対に負けられない! 絶対に!
「か、かかか、覚悟しろパティアッ、うおおおおおっっ! えっ、キャウンッッ?!」
「あ、ころんだ。ラブちゃん、だいじょうぶー? あ、そだ、すきあり」
僕の脳がコツンと揺れた。イヌヒトのふさふさの頭にパティアの樫の棒が乗っていた。
「あ……」
「パティアのかちー。へへへ、らっきー。じゃー、なにおねがいしよっかなー、どうしよっかなー♪」
「ひっ、い、嫌っ……許して……」
血の気が失せた。何をされるかわからない。
僕はまたオシッコを少しチビってパンツとズボンを濡らしていた……。
「何でも言うことを聞くとは言ったけど、限度はあるからね! 変なことしたら、エレクトラムさんに言いつけるからね?!」
もし変態なこと言われたらもうそうするしかない。
フェアじゃないけど、エレクトラムさんだって文句は言わないはずだ!
「うーん……ごはんにしよう」
「ぼ、僕を食べる気か?!」
「ラブちゃん、おそとでくらすのはいいけどー、ごはん、いっしょにたべよー? これからまいにち、パティアはラブちゃんとー、よるごはん、いっしょにたべたい」
え……そんな、そんなことでいいの……?
それってでも、僕しか得しないんじゃないの……?
「で、でも、僕は人間と慣れ合わないって決めたから……」
「おねがい、それがおねがい。みんなでたべるごはん、おいしいよー。ラブちゃんにもー、うしおねーたんのおいしいごはん、たべてほしい!」
あれ……もしかしてコイツ、凄くいいやつなの?
魔界でこんなお人好しでバカな態度取るやつなんていないのに、なんて甘いやつなんだ。
「お前……、変態だけど、意外といいやつだな……。わかったよっ、もう好きにしろよ! だけど、だけど次僕が勝ったらっ、この約束は取り下げだからな、いいな!」
「あれー、ラブちゃんどこいくのー?」
そんなの決まってる、狩りだよ。
ご飯をごちそうになるのに手ぶらなんて、それこそ餌付けじゃないか。
「狩り」
「おおーっ、パティアもいく!」
「お前の魔法じゃ得物ごとバラバラになるだろっ!」
「だいじょーぶ、そういうのなれてる」
「慣れてるって……お前、ホントに、何なの……」
「ラブちゃんのー、ファンです! ラブちゃんの、ふわふわのけが、だいすきな、ファンだぞー!」
こうして僕はパティアに勝てる日がくるまで、皆さんのお城で晩ご飯だけ一緒にすることになった。
ホーリックスさんのところに食材を持ち寄ると、彼女はいつも喜んで調理してくれる。
蒼い肌の子供たちとも、そのせいでなれ合いが進んでいってしまった。
カールとジアは特にいいやつだ。
パティアに追いかけ回される僕をこっそり助けてくれるから……。
ホーリックスさんが作った出来立てのご飯は、パティアが言うとおり本当に美味しかった。
うん、別に晩ご飯くらいならいいかな。
パティアに乗せられたみたいで複雑だけど、何だか居るだけであったかい。
食べ終わった後に一人だけの家に帰るのが寂しくなるくらいだった。




