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17-1 新顔、騎士アルストロメリアのささやかなる才能 - ション -

 中略、秋を迎えた東の森、バーニィのところに連れて行って、伐採や木工職人の仕事を手伝わせてみました。

 人数分の食料を自給自足するには、もっと畑を広げなくはなりません。

 木こりも、木材の消費先である木工職人も重要な役回りでした。


「すまん、思った以上にヘッポコなんでこれ返すわ」

「おいバーニィッ、人を物扱いするなっ」


「はははっすまんすまん。だがよ、お前さん大工も木こりも向いてねーわ。ったく、危うく木に押しつぶされるところだったじゃねーか」


 面倒見の良いバーニィなら安心できると、ちょっと採集に出て戻ってきたところこのざまです。

 秋のニャニッシュはクリだけではなく、アケビの実やキノコが豊富でぼちぼちの収穫になりました。


「あ、あれは事故だよっ、まさか木を伐るだけの仕事が、こんなに難しいなんて、全くもって思わなかったよ……」

「木こりは危険のともなう命がけの仕事です。倒木や転落で命を落とす者も多いのですよ」


 カゴいっぱいのキノコに山菜、アケビの実をバーニィがのぞき込む。

 今夜の晩飯はキノコスープか、悪くない、なんて考えてるんでしょう。


「そういうこった。良いところ(・・・・・)の騎士様にやらせるのは、ちと申し訳ねぇってやつだな」

「くっ……さっきボクをヘッポコって言い捨てたくせに……」


 しかしまいりましたね。畑仕事、裁縫、木こりに大工もダメですか。

 ならば次は石工といきたいところですが、ダンはあの通りの口下手で、おまけに作業となると無口を極める男です。


 コミュニケーションが成り立つような気がしません。

 ああそれとバーニィ、あなたさっきから元主君の娘に暴言を吐きまくってるの、知っています?


「まあそうしょげるなって、お前さんまだ若いんだからよ、失敗なんてして当然だろ。応援してるから一緒にがんばろうぜ、な、アルス」

「はぁ……調子の良いやつだなキミは……」


 ええまあバーニィはそういう男ですので。

 もしかしたらハルシオン姫の正体を明かしたところで、隠していたそっちが悪いと、これまでの態度を開き直るかもしれません。


「ところでアルス、包丁を持ったことはありますか? ああ言わなくてもわかりました。顔で」

「ボクの心を勝手に読まないでくれ! そうだよ、もちろんないさ!」

「はっはっはっ、お前さんマジで良いところのボンボン騎士なんだな。こりゃ厨房の方も無理かね」


 包丁を持ったこともない人、しかも人間の騎士をリックに任せるのもきっと重荷です。

 しかしそうなると、パナギウムのお姫様に農夫のまねごとをさせることになる。それはそれで面白い気もしますがね。


「しかし困りましたね、次はどこに連れて行ったものでしょうか……」

「ていうかよ、お前さん何が得意なんだ?」


 最初からそう聞いておけば良いだけの、順序のおかしい質問でしたが、結局そうなります。

 ネコヒトとおっさん(41)の顔が姫君ハルシオンをのぞき込みました。


「得意なことか……。ダンスとかなら教えられるけど、ここじゃ全く必要ないな……」

「おお、そんなことはねぇぜ、飯の席で女の子が踊って見せてくれたらそれはそれで面白ぇ。が、まあそいつぁ、仕事じゃぁねぇな」


「ん……そうだ、貴人への書状作りとかなら出来るよ! あとは剣術と、馬術と、馬の世話ができるくらいかな……」

「そうか、意外と役に立たねぇな」


 バーニィの言葉にアルスの顔が憤慨に染まる。

 それからすぐに役に立たないのは事実だと認めて、目線を落として悔しがっていました。

 良かったですねバーニィ、パナギウムに戻れない理由がまた1つ増えましたよ。


「だいたいわかりました。ならば少しずつ、あなたの適正を探していくことにしましょう」

「すまない……辺境で生きるというのは、本当に大変なんだな……」


 知らぬというのは恐ろしい。

 何を考えたのか、落ち込み出すお姫様の肩をバーニィがたくましく抱いた。


「ひゃっ、な、なにっ、何のつもりだよぉキミっ?!」


 あえて繰り返します、姫君が下級騎士の男に肩を抱かれたのです。

 かわいそうに、甲高い声を上げて身をすくませてしまいました。

 それと意外と乙女なんですね、あなたは。


「おいおい、お前さんはそういう壁を作るところが良くねぇ! ここじゃ上も下もねぇんだ、仲直りの証拠に連れションでもいこーぜ!」

「連れション……聞いたことがないな。どういう儀式なんだそれは?」


 わたしが笑うところをバーニィに見られるわけにはいかない。

 たまらず彼らに背中を向けて、良いことを言っているものの、姫君に対する態度として間違いでしかないものを密かに笑い、頭を抱えてあきれました。


「あ? だからよぉ、一緒にしょんべんいこーぜっ!」

「はぁぁっっ?! だ、誰が一緒に行くかよこのバカっ!!」


 元主君の娘に対して、連れション行こうぜはないでしょう……。

 バーニィの馴れ馴れしい腕から騎士アルストロメリアはすり抜けて、それはもう気高く怒り散らして森の奥に飛び出して行きました。


「うーん……? なぁネコヒトよ、なんでアイツあんなに怒ってんだ……? 後で謝ろうにもよ、どこが悪かったのかがわからねぇ……」

「そうですね、きっと全部ですよ」


「そうかっ、なら後で全部謝っとくわ。取りあえずはま、フォローは任せたぜ」

「お任せを。それとすみませんが、彼についてはこれからも大目に見てやって下さい」


「おうさっ」


 妙な者ばかり集まってくるのは、この里の宿命なのでしょうか。

 意外と男性に対して恥じらい深いハルシオン姫の後ろ姿を追って、ネコヒトは東の森を進んでいきました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 お姫様は深く落ち込んでいました。

 そこで身体がくたくたにへばっていても可能で、とても有意義なお仕事があるとアルスを誘いました。


「キミにこれだけ面倒を見てもらったのに、期待にそえなくてすまないねネコヒトくん……」

「フフフ、ご安心を。出来の悪い生徒には慣れておりますので」


 もうお察しでしょう、それは釣りです。

 アルスが湖の前でたそがれているのを確認したわたしは、急ぎ引き返して釣り竿を2本手配したのです。


「ボクは今日知ったよ、いかに自分が地に足付いてない人間であるかをね……。ボクは己の地位に甘んじていた……ボクが持ってるものといえば、つまらない虚勢と陳腐な虚栄心くらいじゃないか……」

「しかし、ここまでドラマチックに全てを受け止める生徒は初めてかもしれません。いえ、パティアという前例がいましたか」


 釣り竿の手配という選択は発見にして正解でした。


「パティアくんは優秀だ、それにとてもやさしくてかわいい。ああ、ボクはあの天使に生まれたかった……はぁっ、また釣れた……」

「お見事です、ゴロロ……おっと、失礼」


 竿を握らせてみたところお姫様の気分とは真逆の絶好調、もう5匹目の魚、アマゴンをカゴに入れることになっていました。

 偶然か、それとも才能なのかはわかりません。


「しかしこれは楽しいな。釣りか、釣りなんて1度もしたことなかったよ」

「それは良かった。実はわたしも釣りが好きでしてね」


 初めての釣りで5匹も釣り上げるだなんて、わたしからすれば羨望であり嫉妬ですよ。

 その釣り運と、才能をよこせと言いたいです。


「なあネコヒトくん、釣りは仕事になるのか?」

「ならなければ漁師なんて言葉、この世に存在しないと思いますよ」


「おお……」

「そうですね、これからは午前いっぱいを畑や馬の世話に使って、午後はここで釣りをされてはどうでしょう」


 そうすればわたしは毎日魚にありつけます。

 それにもしかしたら、ハルシオン姫は精神的に疲れているのかもしれません。

 兄殺しの汚名で幽閉され、落ち延びてきた立場なのですから。釣りは落ち着いた時間となるでしょう。


「そうか、それでいいならそうさせてほしい……。しばらくはしょうがないよ、特別扱いで我慢する……」


 ああ、いつかわたしの娘もこんなふうに、自立心に芽生えてしまうのでしょうか。

 こうあって欲しいという親の願いを逸脱して、自分の道を進んでしまう。

 わたしは不安でならない、あの子が魔王様の二の舞にならないかと。……脱線ですね。


「ご安心を。いつかあなたにも才能が見つかります、それまでは焦らずがんばって行きましょう。だってそうでしょう、最初はどんな天才も不慣れからスタートするんですから」

「なら頼みがある。ボクに剣を教えて欲しい」


「おや」

「ここでは元騎士ということになってるし、いつか剣術が必要になるときが来る……。サラサールを倒す日がいつかボクに……」


 わたしは彼女の願いにうなづきで返しました。

 パティアの訓練と一緒に、まとめて面倒を見ればいいのです。

 彼女は大人、この地では子供たちを守るための貴重な戦力の一人でした。


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