2-2 古城を掃除をして食器を作ろう
勉強を終えたら早めの昼食を食べる、今日は脂身の多いボアの腹肉を焼いておいた。
それを2人で美味い美味いと腹におさめると、パティアがわたしごときの予測の付かぬことを始めた。
「みてみてー、ほうき、みつけたー。おそうじするぞ、ねこたん」
「……掃除、ああ、何かが足りないと思いましたが、それがありましたね」
よくも無事なほうきがあったものです。
保管場所が良かったのか、ほうきはまだ腐ってはいない。
少女がそれで床をはくと、わずかばかりが抜け落ちるがまだ今少しだけ使えるようでした。
「手伝いましょうか?」
「いい。こういうのはー、パティアのしごとだ。おとーたんなー、そうじ、できないおとなだった」
「エドワードさんが……。そういうタイプには見えませんでしたが、なるほど。ならばお任せしましょう」
「おう、まかせとけー! ここはひろいからなー、でも、がんばるぞー!」
しかしすみません。パティアが掃除を始めたところでわたしはいつもの昼寝に入りました。
仕方ありません、わたしの活動可能時間は1日8時間。どちらかというとエドワードさん側の掃除が苦手なタイプでした。
◎●(ΦωΦ)●◎
眠りから目覚めるとそこには見違える世界があった。
考えてみればここは古い建物、たまった埃や砂を掃き掃除するだけでも快適さがまるで違っていました。
心なしか、いえ確実に空気が綺麗になっています。
それはそうともう夕刻です。高い日射しが天から降り注ぎ、城の中を暗く、外の世界をオレンジ色に照らし出していました。
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「あ、おきたか、ねこたん。どうだ、すごいだろー。あ、これなー、おみやげのー、おだんご!」
「おやおやなんとも至れり尽くせり……って、これ泥団子ではないですか。ああ、こんなに手を泥だらけにして……」
城壁の崩落部から外に出ると、遠くにパティアの姿があった。
それが両手で泥団子を抱えたまま、わたしの目の前に飛び込んできた。
「うけとれ?」
「いやですよ、指の毛が汚れます」
「はぁぁ……ねこたんも、どろあそび、ゆるさないおとなか……よのなか、せちがらいな」
「ダメとは言いませんが、あまり服を汚すと後が大変ですよ。ん……おやこの土は」
ところがその泥団子、子供が作ったものとは思えないほど良くできてました。
ニワトリの卵くらいの大きさで、丸く丸く丁寧に固められています。
肉球周りの毛が汚れるのを妥協してそれを受け取り、思うところあって強く握りつぶしてみたところ……。
「あっ、なにするっねこたん! せっかくー、まんまるにしたのにー、そういうことするの、だめだぞー!」
「すみません、少し気になりまして。パティア、コレはお手柄ですよ。コレは、泥団子ではありません」
その泥団子は崩れない。
粘り気を持ったそれが自慢の白い毛にこびり付き、わたしは不快感を抱きましたがそれを我慢しました。
「ほぇ……?」
「コレは粘土です。つまり粘土団子、お皿の材料になるそこそこ貴重な土です」
城の食器類はほとんど全滅に等しかった。
保管状態が悪く、錆びていたり、腐っていたり、割れていたり、苔ていたりと1つとしてまともなものが残っていない。
「試しにこれからこの土をお皿の形にして、暖炉で焼いてみましょうか」
「はっ……ねこたん、ねんどくうのか?!」
「人の話を聞いて下さい、お皿にするって言ってるでしょう。さすがに配合比まではわかりませんが、上手くいけば素焼きのお皿でご飯を食べれますよ」
「こ、これが……これがおさらに、なるのか!? しゅ、しゅごい……ねこたん、なんでもしってるなー……!」
これだからこの子はいけない。
そんな当たり前のことでわたしを尊敬の眼差しで見上げてくる。
わたしはそれに良い気分になってしまう。
かわいいこのヒナを、最後まで育て上げたいと思ってしまうのです。
「そうですね、これでも長生きしていますから。ではパティア、わたしはこれ以上手が汚れるのはイヤなので、これをお皿の形にして下さい。そしてそれをメギドフレイムの炎で焼くのです」
わたしは粘土の塊をパティアに返し、やさしく新しいこのお遊びに誘った。
どんな仕事も遊びとしておだてれば、それは楽しみに変わるのです。
「おお、おしろみたいにしよう!」
「いえ、これをお皿の形にして下さい。わたし今そう言ったはずですが……?」
「おさらかー……なんか、ふつうだなー。おさらより、おしろのがいいぞー?」
「……わかりましたどうせ実験です、もう好きにして下さい」
小物も立派な生活雑貨。けして必需品ではないもののパティアは女の子ですし、そういったオモチャが欲しいのかもしれない。
まともな人間に育ってもらうためにも、このやる気の方向は悪くない。そう思おいましょう。
「やったー、やったー! みてろねこたん、すっごいの、つくってやるからなー!」
「どうぞどうぞ。いっそ少しちぎって、小さな人形でも作られたらどうですか?」
「そっ、そんな、そんなことがっ、できるのかっ?! すむひと、いないと、おしろさびしいな! そうするー!」
わたしたちは司令部、いえわたしたちの部屋に戻って粘土をメギドフレイムでじっくりと焼きました。
●◎(ΦωΦ)◎●
どうやら質の良い土だったようです。翌朝になるとそれが焼き上がった。
簡素な人形と、お城のような何かは、赤土の色合い明るい立派な陶器に変わっていたのです。
なにせ破滅の業火メギドフレイム、通常ならば超高温が必要なこの処理も、わたしの予想通り何のことはないようでした。
「おきろ、ねこたんねこたん! すごいぞこれはー! つぎはなー、ねこたん、つくりたい! あと、パティアも! きょうはねんど、ねんどとりにいこう!」
「ふぁぁぁ……それは良かったですね。ですかパティアさん、先にお皿を作りましょう。手作りのお皿があると、ご飯が楽しくなりますよ」
「んーー……それはねこたんとパティアのあとだなー……。あっ! くび、かりかり? ウサギさんもー、つくらないとなー!」
わたし、こんな手ですので陶器作りにはまるで向いてません。
毛並みは汚れる、爪で粘土が固まる、どうあがいても肉球とか爪痕が完成品に残ることになる。
ですので、壷やお皿という生活必需品を得るためには、パティアの横道にそれた豊かな創作欲が、ただ静まるのを待つしかありませんでした。
「お皿のことも忘れないで下さいね、パティア」
「…………うん」
まあいいです、困るのはわたしたちだけで、今は不便なのが当たり前の状態です。
わずか8歳の人類最強の資質を持つ少女を歪ませないためにも、やりたいようにやらせることにしました。