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16-4 猫一匹通さない防衛網とは言ったものですが

 翌日の昼、イブリーズ直轄領、監獄付近に到着しました。

 情報通りの三方を湖に囲まれた面倒な地形を確認した後に、ホルルト司祭のコネで森の教会に移動して長旅の疲れを癒しました。

 もとい、ネコヒトはネコヒトの本能に従い、食事を済ませると夜まで熟睡したとも言います。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「あなたはよく寝るな。起きてくれ、もうそろそろ時間だ」


 キシリールに揺すり起こされるとまたもや夜、潜入に都合の良い時間になりました。


「ところで聞いてもいいか? どうして貴方はこの依頼を受けたんだ?」

「それ相応の代価があったからです。わたしたちの里には職能が不足していまして、それをご提供下さるそうでしてね」


「何となく貴方の性格がわかってきた。きっとそれは建前だろう、本当は?」

「長らく探し続けていた物を取り返せるようなので、それで手を打ちました」


 オリハルコンの腕輪、いえ魔王の腕輪はタルトに預けて布などの物資と一緒に運んでもらうことになっています。

 護衛の方が心配ですが、彼女ならどうにかしてみせるでしょう。


「そうか、せん索ばかりですまない。俺はどうも貴方が気になってしまうようなんだ。貴方は魔族ではあるが紳士的で、どうしてかたくさん話を聞きたくなってしまう」

「ありがたいことです。ですがそれはまたの機会にしましょう。キシリール、小舟の準備の方は?」


 陸路がダメなのはもうわかっています。

 船で湖側から侵入する他に選択肢はありません。


「もう出来ている。だが本当に単独行動で大丈夫か?」

「キシリール、あなたは優秀な騎士のようですが、潜入となるとあなたの存在はノイズとしかなりません」


 夜中の出発から迷わずにここまでガイドしてくれただけで、十分です。

 船の手配、森の教会との接触はわたしだけでは上手くいかなかったでしょう。


「ここに戻ってまいりますので退路の再確認をお願いします。では船を」

「わかった、船はこっちだ、一緒に来てくれ」


 森の教会をフードの子男と騎士様が離れ、少し進んだところにある岸辺を目指した。

 そこに確保されていた小舟にわたしは乗り、彼と別れて監獄に向かって進んでいった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 結果だけ述べます。イブリーズ監獄の警備は実に物々しかった。

 ですがハイドの術がかかった船と、ネコヒトを真夜中の広い湖の中から見つけ出すに足りませんでした。


 無事に要塞の東側の壁にやってくると、小さなイカリを下ろして小舟をそこに停泊させる。

 さらに森で採った枝葉をかけて船を隠蔽すると、後はギガスライン要塞と同じ要領で、アンチグラビティを己にかけて壁を上ってゆくだけです。


 どうやら警備の大半は東側の陸地に集中していました。

 まさか湖を越えて、絶壁をはい上がって来る者がいるとは考えなかったのです。


「どうぞ安らかに居眠りでもされていて下さい。スリープ」


 城郭に上り詰めると、特別棟を目指して警備を眠らせながら進みました。

 体調管理が不十分な兵が、ただ居眠りをしてしまっただけです。

 現場の指揮官も、まさか敵襲を受けたとは考えないでしょう。スリープ、まったく便利な力もあったものでした。


 特別棟に入り、目的地とおぼしき扉を見つけました。

 そこに守備兵が二人立ち、何かを話していました。


「なあ、この国どうなっちまうのかな……幽閉されてるのって、第三王位継承者のハルシオン様だろ……?」

「さあな、兄を殺したって話だけど、そんなことして喜ぶのって、サラサール王子だけだよなぁ……。あれが次期国王か、なんか将来が暗いよな。ありゃ……なんか、急に、眠……」


 最後の障害を取り除くと、ネコヒトはハルシオン王子が捕らわれているはずの特別棟、最深部に潜り込みました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 その頃パティアは――


「あれ……」

「あらー、どうしたの~、パティアちゃ~ん?」


「クーか、なんでもない。ちょとなー、いろいろあってなー」

「そんなこと言わないで~、私にも教えて下さいよパティアちゃん」


「うん……まあ、そこまでゆーならー、はなしてあげるぞ。あのなー……クリ……なくなった……。ねこたんのぶんも……」

「あらー、残しておいてあげたんですね~、偉い偉いですよ♪」


 それがなくなったという話なのですけどね。

 まあクリがどこに消えたかなんて、推理の必要もない単純な話です。


「あのなー、きのういっぱい、とったでしょー。でもねー、こどもたちに6つずつあげてー? しろぴよにもあげてー、あとパティアも30こくらい、たべたら……ほら、からっぽ……」


 アケビの籠には、トゲトゲとしたイガの破片しか残っていなかったそうです。


「うふふ~、また明日取りに行けばいいんですよー。手伝いましょうかー?」

「クー、そんなこといってもー、ねこたんはー」


「渡さない?」

「そうゆーことだ。それでもいいならー、てつだって、クー! パティアな……あのトゲトゲがなー、にがてだ……だからー、いっぱいとれるかは、クーにかかってるぞ……」


 子供の不器用な手先で、クリのイガから実だけを取るのは大変なのでしょう。

 パティアの向ける信頼の瞳が嬉しかったと、お人好しのクークルスはおっしゃっていました。


「ねこさんのために、がんばりましょうね~♪」

「うん! おなじー、ねこたんだいすきなかまとして、しんじてるぞー、くー!」


 フフフ、モテモテですね、わたし。



 ●◎(ΦωΦ)◎●


・(ΦωΦ)


 見張りより鍵を拝借して特別房の扉を押し開く。

 するとそこにお仕着せを着込んだ女小姓が待ちかまえておりまして、わたしの来訪を事前に知ってか深々とこうべをたれていました。


 ハルシオン王子に仕える者でしょう。

 毛深いネコヒトの姿に気づき、少しだけ驚いたようですが警戒の素振りは見せませんでした。


「ようこそおいで下さいました。さ、あちらでハルシオン様がお待ちです」


 小姓相手に何か言ったところで進展はありません。黙って小姓の背中を追うことにして奥を目指す。

 ただ少し気になりました。それは褐色の肌と黒髪を持つ小柄な小姓だったのです。ですがどういうわけか、人間の女性とは、匂いが異なっているような、そんな妙な感覚がしたのです。

 ……まあたかが小姓、どうでも良いことでしょう。


「ハルシオン様、お迎えが参りました。支度の方は……」

「済んでいるよ、中に入ってもらって」


 小姓の手により古ぼけた扉が開かれて、お先にどうぞお客人と浅黒い手が差し出される。

 真面目そうな方です。なのでわたしはレディファーストの信条を今だけ取り下げて、王族の軟禁先にしてはどうにも粗末な奥の間へと入り込みました。


 するとわたしはそこで、昨日からずっと大きな勘違いをしていたことに今さら気づきました。


「ああ、急なことでね、そちらの名前はうかがっていないんだ。だから自己紹介からしようと思う、ボクの名はハルシオン、パナギウムの王女さ」


 名前からてっきり男性かと思っていたのです。

 ですがそこに現れたのは純然たる姫君、高貴なる紫の髪とドレスをまとう麗人でした。


「おや、どうしたんだい、ネコヒトくん?」

「いえなにも。わたしはエレクトラム・ベルと申します。ハルシオン姫、今後ともよろしく……」


 仰々しくわたしも礼儀を示しました。

 しかし姫君と呼ぶには、性格も顔立ちもキリッとし過ぎているきらいがあります。

 美しいがそれと同時に男前で、背もバーニィに届きそうなほどに高くそそり立っていました。


「言っておくぞ猫、ハルシオン様に何かしたら、パナギウムの半分を敵に回すと思え」

「待ちたまえそれは失礼だよ。ネコヒトに猫だなんて、人間で言えば面と向かってサルと言い放っているようなものだ。すまないねネコヒトくん、主人であるボクが代わりに撤回しておくよ」


 おや……、とても良い人ですねこの方。気に入りました、来ていただきましょうわたしたちの里へ。

 気取り屋のように見えますけど、そこはわたしからすればお互い様、想定よりずっと付き合いやすいタイプに見えます。


「それもそうですね……。失礼いたしましたエレクトラム様、軽率な言葉でした、どうかお許しを……」

「いえお気になさらず。そんなことより早くここを出ましょう。準備はいいですか姫」


 わたしは一時的に警備を寝かせただけです、出来るだけ早くここを出たい。

 これ以上時間を消費する気はありませんでした。


「ああもちろんだ、ボクもこんな場所で死にたくない、どうか頼むよ」

「時間稼ぎの方はわたくしにお任せを。姫様、どうかご無事で、この厳しい局面を貴女なりに切り抜かれて下さい……」


「そっちもね、お互い生きてまた会おう。頼むから無理はしないでくれよ」


 話が早くて助かります。

 軟弱な王族を想定しておりましたが、これは予定より楽ができるかもしれません。


「では失礼、あなたにハイドの術をかけさせていただきます。はい、かけました、さあ参りましょう」

「潜伏の魔法か、恩に切るよネコヒトくん、フッ、まだボクの命運も尽きていなかったか」


「いえ、それは無事脱獄してからにしましょう」


 長身の女性です、きっと今のドレスしか監獄内では手配できなかったのでしょう。

 小さなバックだけ肩にかけて、ハルシオン姫はわたしと共に牢獄を抜け出しました。


でかふくさんの挿絵を13-6話に追加しました。

せっかくなのでこちらにも。

挿絵(By みてみん)

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