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16-2 パティアとリセリとトゲトゲの実

 その後受け取った情報をここに要約します。


――

1.王子ハルシオンは母親である皇后が現宰相と懇意で、義兄サラサール王子と意図せぬところで敵対してしまった。

――

2.今パナギウムでは国王の病状悪化により、政治の実権を握る宰相と、サラサールの対立が激化している。

――

3.それゆえにハルシオン王子はお家騒動に巻き込まれてしまった。実兄の殺害をでっち上げられ、申し開きもできぬままイブリーズ監獄に収監された。

――

4.これによりサラサール王子は世継ぎ争いの邪魔者の排除に成功した。

――

5.宰相側はこれを非難、だが国王の病状はもはや表に立てる状態ではなく、バッサリ言ってしまえば王子ハルシオンと宰相は窮地にある。

――


 要するにです、サラサールにこれ以上、義弟ハルシオンを政治利用される前に、外に逃がしておきたいそうでした。

 もちろん狙いがあってのことでしょう。


 もし宰相がハルシオン王子を救出し、これを立てて世継ぎサラサールを排除しようとすれば、それは内戦の始まりです。

 その隙を突いて魔軍がギガスラインに押し寄せる結果になるのはもう目に見えている。


「エレクトラム殿、イブリーズ監獄は湖畔にある。東側以外を湖に囲まれていてな、当然警備も厳しい。そこで私たちが陽動を行うので、その間に貴方に救い出して欲しいのだ」


 納得です。だからこそ彼らはわたしの力を欲したのだと。

 ですけど理解し切れていません。そこは見くびらないでいただきたい。


「陽動は必要ありません」

「なんと……?」


「確かにそれで侵入は簡単になりますがね、警戒されてしまいますよ、救出したところで追っ手も早くつくことになる。わたしを頼った意味がありません」


 わたしはネコヒト、魔軍に属していたものです。

 こういった隠密、潜入、策略を目的としたミッションは慣れたものでした。


「侵入くらい簡単にやってのけると言われるか、これは恐れ入った。だが本当にそれでいいのか……?」

「ホルルト司祭、わたしは先ほど最大限の努力をすると言ったでしょう。絶対にどうにかしてみせるので、現地までわたしを運んで下さい」


 彼としては絶対に成功させたい作戦のようでした。

 しくじって間者が捕まれば、己の立場も悪くなるでしょうしね。


「わかった、クークルスを見事さらったその腕前を信じることにしよう。エレクトラム殿、貴方に全て任せてしまってかまわないか?」

「ええ、お任せを」


「ではある男を貴方につけましょう。若いが優秀な方なので、きっと役に立つはずだ」

「フフフ……わたしの見張り役ですか? 確かに、パナギウムの王子を手に魔界に戻れば大手柄ですね」


 三魔将は何か狙いがあってわたしを殺そうとした。そう仮定すると、あまり現実的な路線ではありませんがね。


「見張りであることは否定はしない、信用には保証が必要なものだからな。だが人間の領土を移動する以上、貴方単独では難しいでしょう。連れて行かれるといい」


 話はこうしてまとまりました。

 シスター・クークルスの次は、王子様を誘拐することになるようです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 時はさかのぼり昨晩、パティアは――


「パティアちゃん、食べないの?」

「いらない……トゲトゲあじは、いらない……」


 食後のデザートとして、わたしと一緒に拾ったクリを焼いたそうです。

 けれどなぜかクリに異常な警戒を向けていたと、後日リセリが半笑いでわたしに教えてくれました。


「え、トゲトゲ味? あ、もしかしてパティアちゃん、クリ食べたことないの?」

「うん、でもわかるんだ……それは、からい……」


「辛くなんかないよ、とっても甘いよ。ほら……」


 盲目のリセリは見事に焼きグリを割って、それを口の中に運んで見せました。

 後でわたしも食べましたがとても甘くて美味しいクリでした。


「ああ美味しい、食べないなんてもったいないなぁ……」

「からいのに……リセリすごいな、おとなだ……」


 それでもパティアは信じない。ええ、思い込みの激しい子ですので。


「辛いならこんな顔で食べないでしょ。私パティアちゃんを騙したりしたことある?」

「それは、ない……」


「なら食べてみて、とっても美味しいからっ、絶対大丈夫!」

「ぅー……で、でも、トゲトゲあじだし……」


 パティアに食べさせようと、リセリが殻を割って、中のホクホクと甘い実を差し出しました。

 ああちなみに、見てきたように語るのだなと言われたら、わたしはこう言い返しましょう。


 それだけ不在の間の様子を、根ほり葉ほり聞いているのです。どこで人に迷惑をかけているかわかりませんから。


「ま、まて……こ、こころのじゅんび、する……」

「も~、そんなの必要ないよ~! 私を信じてくれないの、パティアちゃん?」


 小さな胸に手を当てて、娘は深呼吸を繰り返す。

 目は見えないけど、ちょっとしたしぐさ1つ1つがかわいくてたまらないと、リセリは言います。


「スーハァスーハァ……そ、そういうわけじゃー、ないんだけどなー、そいつー、パティアのてに、かみついたし……」

「トゲに触っちゃったの? 痛かったでしょ、手見せて、大丈夫?」


「へ、へいき! パティアはつよいからなー、クリのトゲトゲなんてー、きかないのだ! スゥゥーハァァァーッ。そだ、こんなときはー、ねこたんの、けだまのにほい、スーハァスーハァ……よしっ、おちついた! どうぞっ、あーんっ!」


 親の毛玉を常に持ち歩いていて、それを嗅いで精神を安定させる娘って、実際どうなのでしょう……。

 嫁に出す気はさらさらありませんが、個性的過ぎて将来が心配になります。


「あれ、パティアちゃん……食べたよね?」


 リセリは言いました。確かにパティアのやわらかな唇に触れて、口の中にクリを入れたはずなのに、いつまで経っても反応が返って来なかったと。

 だから落としてしまったんじゃないかと、不安になったそうですよ。


「もしかして美味しくなかった……? 好きじゃない味だったのかな?」

「んっ……もご……」


 ですが確かにクリはパティアの口の中にありました。ただ……。


「あ、あのねパティアちゃん、噛まないと、それ甘くないよ……?」


 食べようとしていなかった。

 舐めることもなく口を開けっぱなしにして、クリの味わいを拒んでいた、といったところでしょう。


「ほ、ほーか……ん、んんっ、もぐ……ん、んん? ンンーッッ?!!」


 結局ちゃんと食べたそうです。

 甘くてホクホクのその味わいが舌に広がりだすと、それを一心不乱にかみ砕いて飲み込んでいた。


「うっ……!! うまぁぁぁぁーーっっ! な、なんじゃこりゃぁーっ、クリあまいっ、しゅごくあまいっ、パティアだまされた! これ、うまーー!」


 あなたが勝手に辛いと思い込んでいただけで、誰も騙しちゃいませんよ。


「良かった。エレクトラムさんに頼まれてたから。今夜パティアちゃんに食べさせてあげてって」

「え、ねこたんがかー? もー、ねこたんはー、おせっかいさんだなー。えるぴかのときとか、すねげふかかったしなー」


「きっとパティアちゃんに甘いクリを食べさせてあげたかっただけだよ。……え、すねげ?」

「しらないのー? ねこたんいってたよ、じぶんは、すねげふかいって」


「う、うん……ふさふさだね……?」


 その日、眠りに落ちる前にリセリはやっと気づいたそうですよ。

 もしかして、執念深い、と言いたかったのではないかと。

 ええまあ深いですよ、全身どこもかしこもふさふさです。


「へへへー♪ パティアはー、ねこたんの、ぷにぷにのにくきゅーの、うえだったなー」


 もしかして、ねこたんの手のひらの上、と言いたかったのでしょうか。

 どうして人間たちはわたしたちの肉球がそんなに好きなのでしょうね……。


「もぐもぐ……あれぇ?」

「どうしたのパティアちゃん?」


「クリ……こんだけ……?」

「うん、たくさんあったけどみんなで分けたから。それとパティアちゃん、ずっといらないって言ったから、少なくなっちゃった」


 急に黙り込んだので、相当ショックだったのではないかとリセリは言いました。

 そうでしょうね、うちの娘の食い意地は相当です。


「うっううっ……そんな、もうないのか……。パティアは、パティアは、なんて、おろかものだ……きょうまで、ずっと、おもいあがって、いました……」

「大げさだよパティアちゃんっ」


「ぅぅー、もっとクリたべたいー! あ、そだー、いまからとりにいけばいんだー!?」 

「ダメだよパティアちゃんっ、夜の森を独り歩きするなんてっ!」


「うーうん、だいじょうぶ。そういうのー、なれてる」


 慣れてるじゃありませんよ、どういうことですかパティア。

 後日、森の夜歩きは絶対にダメだと厳しくわたしは叱ることになりました。

 普通の子供なら夜の森なんて闇と恐怖に泣き叫ぶ環境でしょうに、あなたどんだけ剛胆なんですか……。


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