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16-1 エレクトラム・ベルのけして望まぬ天職 - くるくるー -

        

前章のあらすじ


 殺戮派の魔将ニュクスとベレトートルートの過去。

 ニュクスは人間の母より生まれ、迫害を受けて魔界に来た。そんな哀れな少年にベレトは同情を向けていた。


 だが彼の本質は復讐と狂気、ニュクスはベレトを殺戮派の乗っ取り計画に誘う。

 これをベレトが断ったことにより、二人の間には軋轢が生まれることになった。


 ・


 幻の魚エルドサモーヌの魚影をジョグが見つける。

 魚狂いのネコヒトは狩りの予定を取りやめ、ジョグと共に釣りに向かった。


 最初は不漁だったものの、リセリとパティアの登場で流れが変わる。

 ネコヒトは珍しい香木を水中より釣り上げ、パティアは見事エルドサモーヌを釣り上げた。


 協力してくれなかったバーニィに嫌みをたっぷり送り、それに満足するとネコヒトは眠る。

 目覚めると夕飯となり、エルドサモーヌの鍋と串焼きに舌をとろけさせた。


 食事を終えるとリセリがネコヒトの笛を願う。迷ったものの願いに応じて食堂で曲を奏でると、彼の中で心変わりが生じた。

 魔王のためだけに奏でてきた笛を、彼らに捧げようと。


 翌日、彼は秘密にしていた魔王の歌の歌詞を、食堂の壁に書き殴っていた。


―――――――――――――――――――――

 脱獄の水先案内人

  ネコヒト エレクトラム・ベルの大冒険

―――――――――――――――――――――


16-1 エレクトラム・ベルのけして望まぬ天職 - くるくるー -


 それから半月が笛の音色と歌声と共に流れました。

 青く実った栗が地に落ちて、大地の傷痕に秋が来ました。


 麦穂が高く育ち、じきにそれが黄金に染まるでしょう。

 しかし秋は実りの季節であると同時に、短いとはいえいずれ来る冬の準備期間でもありました。


「クリあった! ねこたんクリさんあったよー! ほらこれーっ、みてみてー、アイタァァァッッ?!! な、なんだこりゃー、クリ、クリいたい、クリいたいぞねこたん!!」


 わたし、落ちてるクリをまさかわしづかみにする人なんて、初めて見ましたよ。

 うちの娘は右手を抱えて悶絶しておりました。


「あなたはアホですか、見るからに痛そうなトゲが付いていたでしょう。それはただの不注意ですよ」

「うぅぅぅ……でもねこたん、こんなトゲトゲ、ほんとにおいしいのかー? うそだ、あまいなんてうそだ……からいんだこれ……」


 そういう発想になるのですね。

 確かにこれだけトゲトゲした実の中身が甘いなんて、まるであの夜逃げ屋タルトのようです。


「トゲトゲしているのでこうやって、靴で踏みつぶしましてね。出てきた中身を取り出すのですよ」

「からいのにかー?」


「それはあなたの思い込みです、甘いです。焼くと芋のように甘いですよ」

「うそだ……しんじられない……トゲトゲあじに、きまってる……」


 ゴミを見るような目でパティアがイガグリを見下ろしている。

 自分の不注意だというのに、トゲで刺されたことを根に持っているようです。


「しょうがないですね、ではこれをあげましょう」

「おぉー? なんだこれー?」


「カエデの木の種です。これを高いところから落としてみて下さい」

「んー、そうするとどうなるのー? こうかー? お、おおおおーっっ、くるくるーっ!!」


 カエデの種は羽が付いています。

 不思議なものでソレが翼となって、回りながら落ちるのです。

 子供騙しといえば子供騙しですが、だからこそお子様には面白おかしいものだったようでした。


「一気にたくさん落とすともっと面白いですよ。ほら……」

「ふ、ふぉぉぉぉぉーっっ! しゅごいっ、いっぱいくるくるしてるー!! ねこたん、あそびのてんさいかー!?」


 パティアがカエデの種で遊んでいるうちに、わたしは豊作となったクリの実を拾い集めて籠に収めていきました。


「くるくるーっ、くるくるーぅっ♪ これたのしいなー、リセリたちにもー、おしえてあげないとなー!」

「知っている子もいるかもしれませんけどね。喜びそうですし、たくさん持って帰って下さい」


 自分が回る必要はないと思うのですが、パティアはカエデの実を落としては時計回りに回転していました。

 それではゆっくり落ちてゆくところが見えない。けれどそんなことは、彼女にとってどうでもいいのでしょう。


「うん! これはいいものみつけたー! クリってやつより、パティアこっちがいいなー」

「そのセリフ、覚えておきますからね。もっとクリが食べたいって言っても分けてあげませんよ」


「それはない! それ、ぜったい、からい!! パティアのてにかみついた、わるいやつだ……」

「はいはい、思い込みの激しさだけはご立派ですね。ああそうそう、わたしまた近いうちに遠征します。そこであなたにも少し手伝っていただきますよ」


 布が不足していました。

 タルトと男衆が運んでくれた布だけでは、全員分の服には足りなかったのです。

 これから寒くなります。肌寒い日も来るでしょう。風邪を引かれて死なれても困ります。


 だからレゥムの街に向かい、再度必要物資を調達せねばなりませんでした。

 人が幸せに生きるには、多種多様の物が必要になるのです。


「いっしょに、まちいく?」

「お忘れですか、あなたはお尋ね者ですよ」


「おお……そだった、いつもわすれるー♪」

「ええそこは良い傾向です、文句はありません。まあですので、デカフクさんのところまで付き合ってくれませんか?」


「でかふくちゃんの、めーきゅーか、いく! パティアにまかせろー、ねこたんのにがてなー、かちかちーなやつは、パティアがたおすぞー!」



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 リックの手を借りずに、またバーニィとわたし、パティアであの迷宮を下りました。

 目当てはプリズンベリルでした。冬に向けて毛皮が必要になるため、代わりの商品を手配しなければならなかったのです。


 パティアの実力は日に日に増し、迷宮は危なげなくわたしたちを出口に導いてくれました。

 こうしてその翌日、ネコヒトは布その他、冬のための物資調達のために隠れ里バニッシュを出たのでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●




 まだ日付が変わっていない頃、人間の空に真夜中の星座が浮かび始めた時刻に、わたしはギガスラインの城郭を上り詰めました。

 少し妙です。警備が物々しいともうしますか、無闇にギスギスと張りつめていました。


 こちら側で何か起きているのかもしれません。

 さておきわたしは天すらおおい隠すほどの大長城ギガスラインをゆうゆうと越えて、レゥムの街へと歩きました。

 そこからはいつも通りです。人を迷わせるあの旧市街に入り込んで、タルトの骨董屋その2階に忍び込みました。


「んなッッ……。だからねアンタッ、会いに来たなら正面玄関を叩きなよ!」

「フフフ、これはこれは……あなたの意外な姿を不覚にも目撃してしまいましたね」


 どうやら今日は休日だったのかもしれません。

 ぼんやりとしたランプ1つだけ灯らせて、タルトはベッドの上でかわらしいピンクのパジャマ姿で厚い書物に目を落としておりました。


 盛り上がっていたのかその両足をバタバタと揺すらせて、彼女としてはかなり恥ずかしいしぐさをわたしに見られたと。そういうわけです。


「人の私生活のぞき見しといてなんて言いぐささ! アンタじゃなかったら今頃刃物を投げつけてやってたところだよ!」

「すみません、下に明かりが灯っていなかったもので。フフフ……」


 営業日であってもお構いなしに2階に忍び込んで毎度人を驚かせるくせに。なんて赤毛の女に睨まれてしまった気がします。


「ッ……このこと、あのスケベに絶対言うんじゃないよ!」

「わかっておりますよ。それよりお楽しみのところ悪いのですが、仕事の話を―-」


「ああ予想はしてたよ、物資の調達だね。布がもっと必要なんだろ、羊毛とかもさ」

「さすがタルトさん、話が早くて助かります。冬を迎えるにあたってどうしても必要になりまして」


 それは経験則からくる直感でした。タルトの返答がそこで滞り、私生活をのぞかれた恥じらいを鋭くなったその顔から消したのです。


「布その他の物資はこっちでやっておくよ。その代わり―-ちょいとヤバい仕事を頼めないかい? あたいからの報酬はそうさね、職能を持った新しい夜逃げ人」


 その報酬は人身売買スレスレです。夜逃げ屋などという、因業な仕事もあったものでした。


「醸造家、鍛冶職人、あるいは腕の良い商人、あやしい錬金術師でもなんでも揃えてみせるよ。多少、説得の時間が必要になるけどね……必ず手配を約束するよ」

「それはまた、破格の条件ですね。わたしたちとしても好都合ではありますが」


 さすがに現金にはなれません。報酬が大きいということはそういうことなのですから。


「依頼の詳細をお聞きしましょう、わたしのような老人に何をご希望でしょうか?」

「ホルルト副司祭、いやこの街の現司祭からの依頼さ。ある方の脱獄をアンタに手伝ってもらいたい」


 そう言ってタルトはベッドから立ち上がり、赤く光る魔界の酒を取ってテーブルの前にわたしを誘っていた。


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