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14-4 子犬と規格外の少女

・イヌヒトの少年・ラブレー


 僕の家がついに完成した。

 ダンさん、ジョグさん、ホーリックスさんにエレクトラムさん、色んな人が手伝ってくれたけど、半分以上はバーニィさんの大工仕事と時間外労働のおかげだ。


 だから本音を言えば少し後悔している……。僕が余計な意地を張ったせいで、皆さんの手をこんなにわずらわせることになるなんて考えてなかったから……。


 僕はただ横になれて、屋根があればいいってバーニィさんにお願いした。

 それなのに僕の前には今、立派な木の家が建っている。バーニィさんたちが言うには、後で納屋として使うかもしれないから気にするな、だそうだけど、こんなの立派すぎる……。


 そんなふうに気後れする反面、僕のためにここまでしてくれるやさしさに感激した。

 魔族である僕のために、バーニィさんがこんな立派な家を建ててくれたんだ。尻尾がつい無自覚に動いた。


「これが僕の家……すごい、すごいですバーニィさん! ありがとう、僕っ感動しました! バーニィさんの仕事っぷりも気さくさも全部!」

「ああよしよし、まあ気にすんな。ラブ公にはこっち側の見張りをしてもらうようなもんだしな」


 バーニィさんがちょっと乱暴に僕の頭を撫でた。

 何だか悪い気はしない。人間には良い感情を持っていなかったけど、彼だけは特別だった。

 やさしくて、頼もしくて、明るくて大人だ。僕もいつかこんな大人になりたい。


「らぶーっ、あそぼー!!」

「ひぇっ、この声は……で、出たぁっ?!」


 逆にパティアは苦手だ、馴れ馴れしいし、僕への触り方にデリカシーがない。

 それにこの子に触られていると、何でか不思議なんだけど、気が変になっていくんだ……。


「ぶっ、ぶははははっ! おいなんだよその格好っ、バカ似合うにもほどがあんだろっ!」


 バーニィさんが爆笑していた。

 だってパティアが猫の尻尾と、猫の耳が付いた帽子を身に付けていたんだ。

 本人はバーニィさんに誉められたと思って大喜びで、大声で笑われたことを怒りもしない。つくづく変な子だと思った……。


「僕は仕事で来てるんだ、お前と遊んでる暇なんかない!」

「えーー! あそぼうよー、らぶー! ほらこれみて、ねこたんみたいでしょー!」


「だ、だからなんだよーっ!?」

「あー、邪魔するのもなんだし、俺は帰るぞ。腹減ったりなんか困ったらいつでも城に来いよ」


「えっ、ちょっと、バーニィさんっ?! い、行かないで……!」

「逃げてばかりいねぇでちったぁ歩み寄れ。そんじゃ仲良くな、パティ公にラブ公よ」

「うんっ、ばにーたんきがきくなー」


「仲良くなんて絶対無理ですよぉっっ!!」


 そういう問題じゃないのにバーニィさんは僕を置いて出て行ってしまった……。

 パティアっていう超危険人物と、木の匂いのする新築の家で、二人っきりにされてしまったんだ……。


「っ……ぼ、僕は魔族だぞ、強いんだぞ、怖いんだぞ!」

「えー、こわくなんかないよー? ラブちゃん、かわいいよー、ふかふかでー、パティアのこのみだ」


 そ、そうだ、僕の強さを見せつけてやればこんなやつ怖くない。そうだそうしよう!

 パティアのやつは僕の姿をいつだって舐めるように見てくる。舌なめずりをされない日なんてなかった! こういうの立派なセクハラだよ! よし、こうなったらやってやる!


「じゃあ今から僕の魔法を見せてやるよ。でも誰かに見られると困るから、あっちの森の方に行くよ」

「わかったー! えへへ、ラブちゃんのまほー、たのしみだなー」


 男爵様よりいただいた竜骨の杖を手に新居を出た。

 パティアは脳天気に喜んでるみたいだけど、僕の強さを見たら態度だって変わるはずだ。

 見せてやればいい、お前みたいな子供とは違うってことを!


 東の森には草木の生えない石灰質の地面が広がる場所がある。

 そこにパティアを連れて行った。


「見てろよ、僕はこれでも魔法使いなんだぞ!」

「わんこなのに、ラブちゃん、まほーもできるのかー。ぉぉ、かっこいい……ねこたんみたいだねー」


「え、いや、エレクトラムさんと比較されるとちょっと、目標が高すぎて困るっていうか……。ぅぅっ、とにかくいくぞ、見てろよっ、ウィンドカッター!」


 わざとパティアの足下を狙って撃ってやろう。

 へへへ、ビビるかな……ビビるに決まってるよね!


「おおー、まほー、でたー。うぃーんどかたーかー、これー、かっこいいなー」


 あ、あれ、コイツ全然驚いてない……?

 もしかしてこいつバカだし、恐怖心もとんでもなく鈍いのか?


「へへへー、じゃあパティアもみせるねー」

「え。見せるって、何を……?」


 僕の目の前で女の子がなぜかがに股になった。

 それから手をブンブン振り回して、両手を前に伸ばす。


「まほー」

「あははっ、やれるものならやってみろよ! 人間の子供なんかに魔法が使えるわけ――」


「うぃーんどかたー!」


 そんなバカな……。何が起きたのかわからなくて、思わず僕は犬みたいな悲鳴を上げていた。

 信じられない光景だった。あり得ない破壊力だった。

 キャゥンとか、クゥゥンッとか、恥ずかしい鳴き声が出ちゃってもしょうがないんだ……。


 遠くにあった太い木が爆音を上げて真っ二つになった。それからそれが音を立てて、森の奥に向かって吹き飛びながら倒れたんだから……。


「へへへー、どうだー! パティアもできるんだぞー!」

「な、なななななっ、なっなぁぁぁーっっ?!」


 腰が抜けていた。お、おしっこが、ちょ、ちょっと、漏れちゃった……。

 しょうがないんだ、イヌヒトはこういうの、緩いから……ぅ、ぅぅぅぅ……。


「つぎはー、ラブちゃんのばんだぞー」

「ぇ……?」


「ラブちゃんのまほー、もっかいみせてー?」

「ぇ、いや、それは……」


 こいつなにっ?! 何なの今の?! なんで8歳ぽっちであんなっ、そんなバカなっ、これじゃ僕の立場がないじゃないか! 嘘だ……こんなの、嘘だぁーっ!!


 はっ、そういえばここに来るとき、この土地そのものをハイドの魔法で隠蔽した人がいるって……。

 てっきり僕それ、エレクトラムさんだと思ってたけどまさか、そんな……。


「ねぇねぇまだー? まほー、もうださないのかー?」

「ぅっ……」


 こんなの見せられた後に、出せるわけないじゃないか! もう何なんだよコイツーっ!


「きょ、今日はこのへんにしておいてやる! ま、まあまあだなお前っ」

「へへへ……ほめられちゃったー。ラブちゃんにいわれるとー、うれしい」


 わからない……。

 バカなのか、天才なのか、変態なのか、僕にはこの子が何なのかわからない……。


「じゃ、べつのあそび、しよー? なづけてー、ラブちゃんもふもふあそびーっ!」

「い、今はダメっ!」


「えー、なんでー? じゃあ、あとでー?」


 チビったのがバレたら、僕の立場がないじゃないかっ!

 年下にオシッコ漏らした醜態見せるくらいなら、僕はもうここで死ぬ!


「やだぁっ、ついてくるなよぉっ?!」

「そんなこといわないで、ちょっとだけー、ちょっとだけさわらせてー?」


 パティアの10本の指先が多足の虫みたいにうごめいた。

 そんなちっぽけな動作だけで、僕の全身が粟立つ。尻尾がお腹に向かって丸まって、僕は地をはいずり回って逃げて、なんとか岩にしがみついて立ち上がった。


「うっううっ……これで勝ったと、思うなよぉーっ、覚えてろよぉーっ!!」

「あれー、ラブちゃんどこいくのー? そっちはあぶないぞー? おーい!」


「つ、ついてくるなぁぁーっっ!!」


 僕はパンツを洗うために、東へ、東の湖に逃げ走った……。

 バーニィさん……あの子、なに? 僕、もう挫折しそう……。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「ラブちゃん、なんでパンツあらってるのー?」

「ヒッ……エッチッ変態、もう来るなぁぁーっっ!!」


 もうやだ、カスケードヒルに帰りたい……。


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