14-3 神様からの【疑わしき】贈り物 - にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー♪ -
「あっ、クーいた!」
「あらパティアちゃん、こんにちは~」
ところがそこに出かけたはずのパティアの姿があった。
「ねぇねぇクー、これみてー、これー!」
何をしに来たかと思えば自慢です。
うちの娘は、あの迷宮でちゃっかり手に入れたオモチャの猫尻尾をお尻に付けていました。
「あらかわいい。何度見てもいいものですねー♪ でもくたくただから、少し手直ししたいかしら?」
「それでなー、あのなー、子供たちのふく、できたらー、パティアにもあったかいのつくってー!」
わざわざそんなことを言いに来たのですか。
そんなの言わなくても決まっているでしょう、冬が来る前に全員分のコートを作らないと、わたしがもみくちゃの抱き枕にされてしまいますので。
「はい、喜んで♪ あ、そうだわ、それなら余った生地とふかふかを使って……。パティアちゃん、帽子とか好き?」
「うんっ、べつにー、ぼうしは、きらいじゃないぞー」
「そうっ、じゃあ楽しみにしててね♪」
「へへへ……わかった。でもなー、いっとくぞー? クーにはー、ねこたんはわたさない」
最後の部分だけ立派な早口でした。
そのやり取りも今では日常の風景、挨拶代わりみたいなものです。
うちの娘だけ本気でまだ張り合っているのかもしれませんが。
「あらー、私のこと、ママって言ってくれてもいいんですよ~?」
「ちょっと、あなたも何を言ってるんですか……」
「おことわりだ。パティアのめんたま、くろいうちはー、ねこたんにはゆびいっぽんっ、モフモフさせないぞー!」
「あらー、モフモフくらいいいじゃないですか~」
「だーめっ!」
この2人のやり取りは独特過ぎて、なんと口をはさんだものやら戸惑うことが多々ある。
フフフ、モテモテですねわたし。ただし毛皮として。
「ところでパティア、カールとジアを待たせているのではないですか?」
「お、おおっ、そうだったー! ごめんクー、ねこたんまたなー!」
「はい、いってらっしゃいパティアちゃん♪」
クークルスの異常が気になるものの、対処しようがないのでわたしは諦めて、ナコトの書を手に結界の外への狩りに出かけることにしました。
●◎(ΦωΦ)◎●
その日の深夜遅く、わたしは誰にも妨害されていないというのに人知れず目を覚ましていた。
ここ最近は日を越すごとに元通りの一日16時間睡眠に近づき、今は1日の半分を寝て過ごしている。
さすがに16時間も眠っていられない状況なので、子供たちに眠気を押しつけてバランスを取っているのですけどね。
「ぐふふ……ねこたん、らぶちゃん、わんたん……ぐふ、ぐふふふふふ……」
世界を滅ぼし得る才能を持っているとはとても思えない、だらしない寝顔がわたしの隣にありました。
わたしの自慢の毛並みに、お構いなしによだれをたれ流し、枕にしていた不届き者をどかします。
「らぶちゃんの……ちっぽ、ちっぽのにおい……ふ、ふぉ、ふぁぁぁ……♪」
「変態ですかあなたは……」
平常運行のパティアをはがし、わたしは誰も起こさぬよう立ち上がった。
部屋にシスター・クークルスの姿がないことに気づいたからです。
昨日のうちに、バーニィやリックに相談しておけば良かったのでしょうか。
「らぶちゃんの……ちっぽ……ガブッ」
「ヒィッ?!」
わ、わたしは部屋を、出ました……。
尻尾、尻尾を噛むなんて、この子の親はどんなしつけをしてるんですか、そうです私ですよ! 手に余って困ってますよ!
ああ、わたしとしたことが我を失っていました。それよりクークルスです、大方居場所は仕立て部屋だろうと推理して、わたしは古城グラングラムの1階に下りました。
娘に甘噛みされてムズムズする尻尾をさすりながら……。
●◎(ΦωΦ)◎●
そこでクークルスは黙々と子供たちのために服を作っていた。
「今日という今日は呆れましたよ。寝なくて平気なのですか?」
「あらー、それが眠くなくなってしまいまして♪ ふふふ……することもないので、お仕事を少し」
「労働中毒はみんなそう言うのですよ。それでしたら今すぐ、スリープの術をかけて差し上げましょうか?」
「それは名案ですね。ですけど、もう少し待って下さいね、これがもうちょっとなんです」
昨日の吸血と赤い目が気になっていたのですが、わたしとしたことがクークルスの手の中の物に目を奪われました。
「これは……なるほど、パティアにですか」
「わかっちゃいましたか? だって尻尾だけじゃ物足りないでしょ~、だからー、上も作ろうかと思いまして♪」
やさしくて、働き者で、敬虔で、おまけに美人で気が利きます。
サラサールという狂人に見初められることがなかったら、もっと敬虔な他の貴族に嫁いでいたかもしれませんね。
「わざわざすみませんね、あの子のために。何か手伝うことはありますか?」
「いえ特には。あ、肌寒いので、後ろからぎゅっとして下さい♪」
「フフフ、それはお断りしましょう」
指先に炎を灯らせて明かりとちょっとした暖にする。
その後は黙って彼女の仕事を見守った。
器用で素早い手先が布を画一的に縫製してゆく。完成寸前であったこともあって、作業はあっという間でした。
「完成です。では寝ましょうか。ねこさんと一緒に♪」
「はい、そのくらいサービスして差し上げたいほどの見事な出来上がりですが……。翌朝どうなるかも見えるので、遠慮しておきましょう」
「ならパティアちゃんを真ん中にしましょうか~♪」
「いえ、そういう問題ではないと思いますよ」
クークルスと共に仕立て部屋を出ました。
真っ暗闇の通路を魔法の炎で照らして進みます。
この城は大きくて広いので部屋までだいぶ移動時間がありました。
「シスター・クークルス、本当に身体に違和感や不調はないのですね?」
「はい、絶好調ですよ。特に今日は元気がありあまってるみたいで」
「そうですか……」
「そうですよ、これからも沢山頼って下さいね」
急にどうしてでしょうか。わたしは言いようもない不安を覚えました。
心やさしかった魔王様が変わってしまった日のことを、唐突に思い出してしまっていた。
●◎(ΦωΦ)◎●
「パティアちゃん、よかったらこれどうぞー♪」
翌朝、パティアの手に昨晩の成果が差し出されました。
「なんだークー? これ、ぼうし……?」
ただの帽子ではありません。
あなたの好みを恐らく誰よりも理解する彼女が作ったものですから、特別製に決まっています。
「あっ、ねこたんのみみがついてるー!!? しゅ、しゅごい……っ、こ、これがあれば、パティアは……ホントの、ねこたんのむすめだーっ!」
「うふふっ、気に入ってくれたみたいですね~♪」
それは白い帽子でした。
わたしの毛並みに似せたのでしょうか、服作りで余った布切れを使って帽子を作り、そこに毛皮の猫耳がくっついていました。
「ねこたん、ほらみてー! きょうからパティアはー、ネコヒトさんになるぞー!」
「ええそれはご自由に。フフフ……笑ってしまうほどにお似合いですよ、パティア」
猫の尻尾と、帽子を付けた娘がくるくると回る。
そこにウサギのぬいぐるみのリュックが加わると、あざといほどに露骨な光景が広がった。
「似合う! 似合うわパティアちゃんっ! 私の思った通り、奇跡的としか言いようのない、最高のかわいさよっ!」
「そ、そうかー? へ、へへへ……まあー、わるいき、しないなー。へへー♪」
興奮のあまりクークルスは拍手してパティアを誉めたくった。
そうするとうちの娘も調子に乗りやすいたちです。
「にゃー♪ にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー♪ パティアはー、ねこたんの、むすめのだにゃー♪」
「ふわぁぁぁーっっ♪ 自分で作っておいてこう言うのも変ですが……か、かわいすぎますっ、かわいすぎますこんなのっっ!!」
「おっおおっ……ふにゃー♪」
クークルスに抱きつかれて、パティアの方もまんざらでもなさそうでした。
なんだかこうして見ていると、本当の親子か姉妹のようです。
当然そのあざとさは、わたしの趣味ではありませんでしたけれど。
「きょ、教官……か、かわいい……」
「リック、あなたまで言いますか」
「えへへー、うれしいにゃー。ねこたん、ねこたんもー、いっしょにー、にゃーにゃーいおー?」
「はい、そればかりは断固としてお断りしましょう。いいですか、ネコヒトは軽々しくニャーとかミャーとか言わないものです」
「いまいったー、いまいったぞーねこたん! わぶぅっ?!」
その後、パティアはクークルスとリックにもみくちゃにされ、さらには盲目のリセリにまで猫マネの愛らしさにほぼ同じことをされたという。




