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14-3 神様からの【疑わしき】贈り物 - 紅の瞳 -

 それから10日ほどが経ちました。

 するとわかってはいましたがね、食料備蓄がそれはもうもの凄いペースで減っていきました。

 魔界都市カスケードヒルとレゥムの交易が本格的に稼働すれば食料を買い込めますが、今はそうもまいりません。


 どうにかやりくりして、成長期の子供たちに肉を供給し続けたいところです。

 実のところ体格に悩む子供はカール少年ばかりではない。隔離病棟での恵まれぬ栄養状態が、彼らの成長を止めてしまっていたのです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「いるかパティアっ、あっいたいた! ほら見てくれよこれ!」

「こらカールっ、エレクトラムさんが寝てるかもしれないんだから、静かにしなさいよっ! だからチビなのよ!」


「うがーっ、身長は関係ねーだろっ!!」


 そのくだんのカールとジアが部屋にやってきました。

 彼らが何をしにきたかは見ればわかる。ずっとボロボロの黒ずみだらけだった2人の服が、綺麗でしっかりとした物に変わっていたのですから。


 ジアの方は冬のために毛皮のコートまで作って貰ったらしく、それはもうご満悦ににやけていました。


「ぉ、ぉぉーっ、しゅごっしゅごい! えー、いいないいなー、なにそれー、ふわふわ、あったかだー! クーは、てんさいか!?」

「ね~♪ クークルスさんすごいよ! 私感動しちゃったもんっ、かわいいよね、こんなの着れるなんて、ほんとに夢みたい……」


 ええ、夢みたいな光景で困ります。

 長年の修行を経由してどうにかスキルを得て、レベルを育んだ仕立屋がこれを知れば、嫉妬と理不尽を覚えるに決まってる。


 そのコートと服の出来映えは完璧でした。

 あのおっちょこちょいのクークルスとは思えないほどの、熟練のプロの仕事がありました。


「いいないいないいないいなぁぁーっ! パティアもそれほしい! ふかふかで、ふわふわ~なコート! あっ、そだ、ねこたんのー、おけけ、あつめて……」

「パティア、わたしをむしるおつもりですか?」


「ううん、ぬけげ、あつめる。いっぱいなー、あつめてなー、ねこたんコートにする!」

「無理無理! そんなのいつまでたっても完成しないってパティア!」

「ちょっとカールッ、パティアちゃんの夢を壊さないの!」


 いえ、そこは積極的に壊していただけませんかね。

 わたしの娘なら地道に集めて、いつか本当にやりかねない……。


「えー、むりじゃないもん。それにー、ねこたんのふかふかはー、せかいいち、だからなー。つくるかちがある……」

「そうですか」


 ありませんよそんなもの。とは言わないでおきました。

 しかしそんなことより、やはり気になる。


 はしゃぎまくる子供たちから距離をおいて、窓辺から畑の方角を見下ろした。

 畑は子供たちという労働力が加わって、見違えるほどに立派になっていました。そろそろニンジンも収穫出来るそうです。


「神様から才能を貰った、ですか……」


 ただの裁縫上手さんが、一夜にして皮のコートまで作れるようになってしまうだなんて……。

 さすがにいくらなんでも作意的と申しますか、妙ですね。

 わたしも長く生きましたけれど、こんな道理破りは初めて体験しました。


「んー? どしたー、ねこたん? あ、わかったー、パティアのねこたんコートきてるとこ、もうそう、してたかー。えへへ……」


 豊かですねわたしの娘は、妄想力が。

 そんな妙な妄想、しろと言われてもできませんよ。

 ねこたんコートとやらの完成図に予想が付きませんから。


「ええまあ、そういうことにしておきましょうか。ではちょっとクークルスをおだててきます、彼女はいつもの部屋ですよね?」

「うんっ、仕立て部屋にいるよ! あ、そうだパティアちゃん、森に採集に行こうよ、甘い木の実とか集めて、クークルスさんにお礼がしたいし」

「なら俺、剣取ってくる。前衛は俺に任せろ! エレクトラムさんに教わった剣術を見せてやる!」


 男の子の面倒を見る機会も増えました。

 男の子がわたしに求めてくるものといえば、だいたいそればかりです。

 鬼教官時代とは似て非なる、きっとホーリックスが見たら笑われてしまうような光景だったでしょう。


「では失礼。パティア、2人に怪我をさせたら許しません、立派にその力を活かして下さい」

「あい! かならずや、まもりぬく、しょ、しょぞん?」

「合ってる合ってる、それで合ってるよパティアちゃん」


 繰り言ですがパティア、魔法の物覚えをお勉強の方にも、少しくらい分けたりは出来ませんかね?



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 さて話が少し前後しますが、ダンが城の修繕を地道に進めていってくれました。

 そこで1階の空き部屋を仕立て部屋にすることになり、そこが仕立て屋クークルスの仕事部屋となったのです。

 狩りに出かける前に、わたしはそこに立ち寄りました。


「シスター・クークルス、いきなりですが一言いいでしょうか」

「あらー、いらっしゃいませ~♪ ねこさんもコートをご所望ですかー?」


 室内にはバーニィが作った素朴な机が置かれ、布とハサミと針がそこに置かれている。

 さらには同じくバーニィが作った木製のマネキンまでありました。


「フフフ、クークルスさんはご冗談が上手い。毛皮が毛皮を着てもしょうがないでしょう。それよりですね……」

「あらー、それもそうですね~♪ でもー、ふかふかがー、ふかふかを着るのも絵になるかと♪」


 やはりどうにもわからない。

 いえクークルスやパティアの一般的とは言いがたい特殊な趣味ではなく。

 人間の神が、人間のために都合の良い奇跡を起こすとは、とても思えないのです、わたしには。


「わたしには理解しかねる趣味ですね」

「ふふふっ、だって私も女である前に、女の子ですからー♪ ねこさんを着せ替えしたら、それだけでもうとっても楽しそう……」


「あなたもパティアもブレませんね……。あの子、わたしの抜け毛でコートを作る気だそうですよ」

「あら素敵……♪」


 シスター・クークルス、あなたまでわたしを丸刈りにするつもりですか……。


「まあそれは置いといて」

「はい、わかりました、構想だけ練っておきますね♪」


「余計なことはしないで下さい……」

「はい♪」


 とにかく人間の神が人間を救うはずがない。

 なにせもし本当に慈悲深い神様だったのなら、300年前の人類は、あそこまで追い込まれなかったでしょう。あの時、魔王様が慈悲をかけなかったら、今頃は……。


「~~♪」


 とにかく怪しい、こんなご都合主義の贈り物(ギフト)が現実にあるわけない。

 クークルスはわたしの視線を受けながら、上機嫌でマネキンに着せた布に糸を通してゆく。


「ともかくあなたは働き過ぎです」

「あら~、そうですかー? だって大事なときじゃないですか、あの子たちにとっても、私たちにとっても」


「それにしたって限度がありますよ。それにすみません、もう1つ文句を追加しましょう、口うるさいですが年寄りというのはそういうものですので」


 大半の魔族は他人に奉仕しようなどと考えない。

 だからこのクークルスの善人っぷりに、わたしはペースを乱されてばかりです。

 というわけでわたしの文句もソレでした。


「人の服を作る前に、ご自分の服をどうにかされてはどうでしょう」


 聖堂が用意した立派な生地とはいえ、ここで生活するに修道服は邪魔ったい。

 だというのに己より、子供たちのことを彼女は優先していた。


「あっなるほど、ふふふ、その発想はなかったです♪ そういえばこの格好で畑仕事するの、大変なんですよねー♪」

「というより畑の仕事は無理にしなくてもいいんですよ。あなたは仕立て屋としてこうして尽力して下さっているのですから。それにあなた、子供たちの世話までしてるでしょう……」


「あらー、だってそっちは趣味ですからー、私楽しんでますよ~?」

「そのようですね」


 だから言ったのです、あなたは働き過ぎだと。

 ここの大人はどいつもこいつも、言ったところで聞かない人ばかりですよ。


「……それより身体に違和感等はありませんか?」

「違和感、ですか? うーん……どうかしら、無いと思いますよー?」


「なら不調などは?」

「はい、空気も食べ物も美味しくて、町で生活していた頃より元気になってしまいました♪ ねこさんの狩ってくれるお肉のおかげですね♪ あ、しいていえば……」


 魔界の生態系は人間の世界から見ると特殊です。

 ここでは無より有が、いえ無よりお肉(モンスター)が生じる。限度こそありますがね。


「お腹が空きやすくなっているかもしれません。ホーリックスさんのご飯が美味しいせいかもしれませんけど♪」

「そうですか、まあそんなことだろうかと。おっと、何を――」


 ところが作業をしていたはずのクークルスが手を止めて、流れるような無理のない動きでわたしというふかふかに抱き付いてきた。

 まさかこちらの権利を無視してモフる気かと警戒してしまいましたけれど、どうもその気配はありません。


「ふふふ♪」

「はて、あの、どうなされましたか、シスター?」


「ふふっ、ウフフフフ……♪」

「シスター・クークルス、これは何のつもり――痛っ?!」


 クークルスがわたしの首筋を噛んでいた。毛だらけの首筋を。

 わたしがただちに驚き飛び離れるも、クークルスには何かをした自覚がないのか、のほほんといつもの脳天気っぷりで首を傾げる。


「どうなされましたかエレクトラムさん? あら、なんだか口の中が……んん?」

「あなた、その目……」


 それとクークルスの瞳が赤く染まっていた。

 それはすぐに元に戻ってしまったが、彼女に確認できた異常としてわたしに記憶された。


「今何をしたか、覚えていらっしゃいますか?」

「あら不思議ー♪ そうですね~、急にエレクトラムさんにくっつきたくなって、そうしたら、あら大変……時間が飛んでいました♪」


 魔王様、わたしこんなこと初めてです。まさか人間のシスターに、血を吸われるだなんて……。

 天から降ってきた才能に、無自覚な吸血。これはどうしたものでしょうか……。

 わたし医者でもシャーマンでもありませんし、何が起こってるのやら、もうわけがわかりませんよ。


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