表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/443

14-2 隠れ里の名が決まった日 - 消失者の里 -

「ネコタンランドで、おねがいします!!」


 それからしばらくすると、遅れてパティアと石工のダンの二人連れが現れました。

 帰ってくるのが思ったよりも早い。大方途中でこの大切な行事を思い出してしまったのでしょう。


「お、俺も、それで……」


 優柔不断なダンのせいで、ネコタンランドがグラングラムと11票タイで並んでしまった。

 このままでは抜かれてしまう、ここはちょっと難癖付けておきましょうか。


「ちょっとダン、大の大人が子供に丸め込まれてどうするんですか。大事な里の名前です、自分の意見を言って下さい」

「えーー、ネコタンランドがいいよねー、ダダーン?」

「だ、ダンだよぉ……。う、うん、俺、バカだから、わかりやすい、名前がいい……」


 ダンくらいなら口車で丸め込めると思っていました。

 しかしパティアに先を越されてましたか……。

 パティアは何だかんだ皆に愛されていますし、ダンの説得は難しそうです。ここは引き下がるしかありません……。


「あっ、ラブちゃんだー!」

「ひっ……?!」


 ところでパティアさんがラブレーくんを見つけてしまったようです。

 正門の陰に隠れて、警戒心に頭だけ出していたのが災いしました。


「おいでおいでー? ラーブ、おいでー♪」

「い、いかないよぉっ!」


「おいでってばー、おいでおいでー? パティアがー、いいこいいこしてあげるー♪」

「く、くるなぁぁーっ?! おいでおいで、じゃないよそれっっ!!」


 止めるべきでしたが今回は事情が異なります。

 パティアは子犬の少年を追いかけて、投票所こと城門前から消えてくれました。


「お、俺も、城、直す……。子供たち、寒くならないよう、もっともっと、直さないと……」

「おう、そっちはよろしく頼むぜ。ダン、お前さんが来てくれて助かったよ」


「へ、へへへ……おだてるなよ、バーニィ、俺、がんばる」


 ダンも城の中に消えました。

 彼のおかげで破損によりあまり使うことのなかった城1階の部屋が、徐々に運用できるようになってきている。


 少しずつ城の見栄えも良くなっている。

 ぼんやりとそれを眺めていると、タルトとリセリ、ジョグがやって来ました。


「アンタやリックにはもうちょっとでかい斧がいいかもね。次来るときに手配してやるから、リセリのためにがんばりな!」

「あいたっ?! お、おら、がんばりますタルトさん……」

「あはは、お姉ちゃんがジョグさんのこと気に入ってくれて、本当に良かった……」


 リセリは嬉しそうに二人のやり取りに笑っていました。

 いえジョグを気に入ったと言うより、明らかに試しているように見えるのはわたしの気のせいでしょうかね。


「おいタルト、ジョグに迷惑かけるんじゃねぇよ」

「はぁ? 迷惑なんて人聞きの悪い。お互い歩み寄ろうとしてるだけさ、そうだろ、ジョグ」


 あまり友好的とは言い難い口振りです。むしろ威圧的というのが正しい。


「そ、そうだったんべか?! てっきりおら、なんか、裏があるのかと……ずっとおっかなびっくりで……」

「裏なんてないさ。ただ、そうさね。リセリが欲しければそれ相応の誠意と、信用を見せて貰うだけさ」


 それを言う人間が旧市街の暗部だからたちが悪い。

 ヤクザの言う誠意、信用なんてただ恐ろしいだけです。


「お姉ちゃんもジョグさんが気に入ったみたい」

「ああ気に入ったさ、こんなイイ男、人間の世界にだってなかなかいないさ……なかなかねぇ……?」


 タルトはジョグのみぞおちに拳をグリグリと押し込み、怖い笑顔で巨体を見上げる。

 まあ多少は関係が前進しているから、これで良しとしましょうか。

 本音をもうしますと、痴話ゲンカごときに関わりたくありません。


「メッチャクチャ迷惑かけてんじゃねぇか……」

「まあま痴話ゲンカなら投票してから、あちらでお願いします。ちなみにこの城の名はグラングラム、というそうですよ」


 今大切なのは命名です。ジョグの危うい立場など些末なことと思って忘れましょう。


「ごめんなさいエレクトラムさん、ネコタンランドに2票お願いします」

「す、すまねぇ、エレクトラム、そういうことだべ……」

「お~そうきたか、ネコに2票なー」


 娘を甘く見ていたようです。

 ジョグとリセリはパティアの根回しを受けていました。


「何度言わせるんですか、わたしが生きているのがバレるとまずいんですよ……わかってますか本当にあなた方?」

「あっはっはっ、困り果てるアンタを見るのも初めてかもしれないね! じゃあこういうのはどうだい、消失者の里バニッシュ、っていうのはさ」


「おお……それはなかなか、悪くないですね。この里の特徴を良く現しています」

「バニッシュな、まあ無難かもしれん」


 バニッシュという名が壁に黒炭で記された。

 といってもタルトに投票権はない。後は残りにかかっていました。


 さてこの後のことは少し割愛しましょう。

 遅れて残りの子供たち10名が投票所に現れ、無事に投票が終わりました。結果は――


 グラングラム13、ネコタンランド13、バニッシュ5、ウンディネ4、レッドカイザーサンダー3、以下略でした。

 では上位3つを候補にして、わたしとバーニィ、パティアで決めてしまいましょう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 城郭に上がって古参3人の顔を付き合わせました。


「おお、これはー、ネコタンランドできまりだなー」

「何勝手に決めてるんですか」


「ネコタンランドだめかー?」

「ダメです。しかしバニッシュというのはなかなか悪くない。夜逃げ先としてもわかりやすいですしね」


 パティアは意外にもわたしのダメ出しに文句を言いませんでした。

 バニッシュという言葉の意味を理解しているとは思えませんが、うんうんとうなづいている。


「じゃあそれにしようぜ。グラングラムも隠れ里の名前としちゃ大げさだ。ネコタンランドって言うほど、まだでかくねぇしな」

「じゃあこうしよ。えと、ば、ばにーしゅ? の、ひみつの、ねこたんむらで! あ、タルトにおしえてくるねー!」


 てっきりゴネるかと思いました。

 ところがあっさりパティアも引き下がってくれました。

 こんなことなら裏から糸なんて引かなくても別に良かったのでは? なんて考えたら負けですか……。


「おう頼んだ、俺ぁもう疲れたわ、晩飯まで寝る」

「おかげで良い案も出ましたし、これで良しとしましょうか。ではお願いしますねパティア。バニッシュですよ、バニッシュ」

「うんっ、まかせとけー!」


 こうして大地の傷跡に眠る隠れ里の名前が決まりました。

 その名も――



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「ばにーしゅ、ばにーしゅ、ばにーしゅ……」


 忘れないように小声でつぶやきながら、パティアはタルトの姿を探して城内を駆け回りました。


「あらパティアちゃん、ねこさん見ませんでしたかー? お洋服のことで相談が……」

「お、おわぁっ?! はぁぁーー、びっくりしたー……なんだ、クーか。おばけかと、おもった……」


 薄暗い廊下でクークルスと出会ったそうです。

 子供というのは想像力が豊かなので、ちょっと暗いだけで怖くなってしまうものみたいですね。


「ねこたんならー、あっち。あっちのてっぺんにいるぞー」

「あらありがとー♪ パティアちゃん親切ねー♪」


「へへへ……みんなのためにー、おようふく、がんばってね、クー!」

「はいっ、がんばります♪」


 クークルスと別れ、パティアは再びタルトの姿を探した。

 ところがそこで肝心なことに気づく。


「……なまえ、なんだっけ、えっと、うーんと」


 あらパティアちゃん、ねこさん見ませんでしたかー?


「にゃにっしゅ……? にゃにっしゅ、にゃにっしゅ、にゃにっしゅ……にゃにゅしゅ? あ、ちがう、にゃにっしゅだ!」


 違います、バニッシュです、ニャニッシュじゃありません……。

 こうして勘違いしたパティアはタルトを食堂の炊事場で見つけ、伝えました。


「タルトー! なまえきまったよ! にゃにっしゅ!」


 連絡の不備により里の名をニャニッシュにせざるを得なくなったのは、タルトが再び里に現れた日のこととなるのでした。

 翌日タルトは男衆を引き連れて里を去り、リセリとの別れを大げさに惜しんだのでした。


 ニャニッシュ、それがこの里の名前です……。そんなバカな……。


現在でかふくさんのイメージイラスト、制作中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ