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14-2 隠れ里の名が決まった日 - 偉大なる竜殺し -

 寝坊をしておいて説得力がありませんが、今日は大事な日でした。

 ですがまだその時ではない。そこでわたしは東の湖に向かい、その清らかで静かな水面の前で釣り糸をたらしました。


 釣りをしていると時間がゆっくりと流れてゆきます。

 ぼんやりとただ水面の輝きを眺め、あらゆる雑多な思考を頭から切り離しました。

 魔界の都市部で暮らしていた頃には、こんな贅沢な時間の使い方もなかなかできるものではありませんでした。


 ネコヒトは湖の前に置かれた彫刻となり、時刻の経過と共に輝きを変える水面をただ眺め続けました。

 はい、要するに釣果はボウズ、当たりすら1度も来ませんでした……。

 


 ●◎(ΦωΦ)◎●



 そろそろ今日の目的を果たしましょう。諦めてネコヒトは立ち上がり、城の方角に引き返す。

 説明しましょう。明日、タルトが帰ります。

 そこで今日、仕事が落ち着いた夕方にこの隠れ里の名前を決めることになりました。


 そうです、何としてもネコタンランドを阻止するために、早めに陣取ってやるのです。

 畑仕事に精を出す子供たち、小屋作りのために材木を集めるリックを後目に、城正門にたどり着きました。


 その壁の前にバーニィとイヌヒト・ラブレーの姿があります。

 わざわざ小屋を建ててくれるバーニィにすっかり懐いて後を付いて回り、元から犬好きだった彼にかわいがられていました。


「ベレト――いえ、エレクトラムさん、こんにちは。早いですね」

「そりゃ早ぇぇだろ、ネコヒトからすりゃ必死だからな」


 この二人は選挙管理員といったところです。

 これだけ住民の数が増えると里の命名も簡単ではありません。

 もう個人が勝手に決めていいものではなくなっていました。


 そうなると多数決が無難でしょう。しかしネコタンランドだけは回避したいのです。

 したいというか、ミゴーやニュクスの耳に入れば、その命名はもはや挑戦状でしかない。

 わたしは生きていますよ、しくじったなバカめ! と言ってるようなものなのです。


「わざわざこんなめんどくせーことしないでよ、もうネコタンランドでいいじゃねぇか」

「良くありませんよ、何度説明すればわかるんですか、まずいんです」


 ミゴーのバカはまだ良しとしましょう。行動原理がわかりやすいですから対処できます。

 ですけどあの哀れな――いえ、ニュクスは予測の付かない凶行に出ます。魔界の者は誰であろうとみんな、アレを刺激したくないのです。


「だけどエレクトラム様は既に、この土地の象徴になりかけていると思います。ネコタンランド、みんなが納得する良い名前じゃないでしょうか?」

「まあ経過を見守ろうや。で、ネコヒトからは何か候補はあるのか? いや聞くだけ愚問ってやつか」


 選挙のルールを説明しましょう。

 世の中、多数決が正しいとは限らない。まずそこから言いくるめました。

 そこで名前を公募することにしたのです。


 公募した名前を城の壁に黒炭で書いてゆき、気に入ったものにそれぞれ住民が1票ずつ入れる形式にまとめました。

 その中の上位3つから最初の住民パティア、バーニィ、エレクトラムが採決する。


 バーニィにはネコタンランド以外を選ぶよう約束させました。

 フフフ、完璧です。知っておられましたか? 不正はバレなければ不正とならないのですよ。


「じゃあ茶番、いや、投票ってやつを始めるか。わざわざ一番乗りしたってことは、当然立候補したい名前があるんだろな?」

「はい、ご名答です」


 計算通りですよ。一見公正なようでこのルールには穴がある、穴を作りました。

 名前の公募は当日に行われます。

 つまり後から提示されたものは不利となり、先に提示されたものが有利になる。


 つまりネコタンランドが票を伸ばす前に、もっとピンとくる命名候補をここで提示すれば、ネコタンランドを完膚なきまでに追い落とせるのです!


「バーニィ、あなたはこの城の名前を知っていますか? グラングラムだそうです。訳すと、偉大なる竜殺しの剣だそうで」

「はははっ、嘘くせー、それ本当か~?」


「本当ですよ。今日のためにちゃんと調べましたから」

「んーじゃ、グラン、グラムな……」


 城の壁に黒炭でグラングラムと記されました。これで勝利が確定したようなものです。

 わたしたちが身を寄せる、この城の正しき名、これ以上にふさわしい名はありません。


「票はどれに入れるんだ? って、はははっ、それも愚問か」


 バーニィは笑ってグラングラムの名の隣に棒を線を2本引いてくれた。

 彼も本当はわかっているんでしょう、ネコタンランドはまずいってことが。


「これだけじゃ露骨だから俺の案もな。ウィンディネ。水の精霊が現れたっておかしくないくらいだからな。……おおそうだ、お前さんからもなんかあるかい?」

「え、いえ、僕は部外者ですから……」


「そうつれないこと言うなって、ラブ公」


 すっかりそれが当たり前になっているのか、ワシャワシャとバーニィがレトリバー型のイヌヒトを撫で回す。


「ら、ラブ公は止めて下さいっ……僕は、イヌッコロじゃありませんよぉ……。ぅぅ……じゃあわかりました、バーニィさんの、ウィンディネに1票入れますから……くぅぅん……」


 甘い声を上げてイヌヒトはバーニィのちょっと荒っぽいスキンシップに喜んでいました。


「懐いていますね、あなたに。パティアがずいぶん嫉妬してましたよ?」

「うっ、あ、あの子来たら僕隠れますからね……っ!」


 別にパティアを過度に嫌っているわけではないようです。子犬は尻尾を丸めて我が身を両手で抱きました。

 うちの子のモフりテクはイヌヒトの子供にはいささか刺激が強い。

 ついついエッチと非難したくなってしまうほどに。


「おっと、おいでなすったぜ」


 畑の方からぞろぞろと年長組が現れました。もちろん投票をするためにです。


「皆さんわざわざすみませんね。ああところで、この城の名前を知っていますか? グラングラムっていうんですよ」

「おいネコヒト、そこまでしてネコタンランドを追い落としたいのかよ。不正だろそれ……」


「いえいえ、わたしはただ世間話をしただけですよ」


 ついでに一人一人握手もしておきましょう。他を選びにくい空気を作るのです。


「汚い……」


 ラブレーくんから小声が漏れました。

 汚くて結構、保身のためなら不正も許されるのです。


「じゃ、じゃぁ俺はグラングラムで……」

「なら私も……」


 こうしてもくろみは成功しました。

 年長組10名が投票して帰り、グラングラムが9、ウィンディネが4という結果が残る。


 それから少し間を置いて、シスタークークルスとリック、それと年少組が10名やってきました。

 パティアですか? あの子には少し遠くの仕事を頼みました。

 子供たちの安全のために、東の湖をぐるりと回って危険なモンスターを排除して来て欲しいと。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



昨晩――


「ねこたん……。えへへぇ、ねこたんがパティアのちから、みとめてくれた……うれしい! わかった、いってくるねっ、いっっぱいっ、やっつけてくる!」

「フフフ、応援していますよ。ゆっくり、じっくりと……がんばってきて下さいね」


「うんっ、まかせろー! みんなのためにー、パティアはがんばるー! あれ……あした、なんか、あったような……」

「気のせいでしょう」


「きのせいかー、わかったー!」


 うちの娘がアホの子で助かりました。

 後でグチグチ言ってくるかもしれませんが、その時は食べ物で釣ってはぐらましましょう。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「あら~、ネコタンランドがありませんね~。では、私はネコタンランドを提案しますね♪」

「あっじゃあわたし、クーお姉ちゃんと同じやつにするー!」

「俺も俺も!」

「私もー!」


 な、何ですって……?

 ちょ、ちょっと待って下さいシスター・クークルス、これじゃ何のためにパティアを遠ざけたのか、ぁぁぁぁ……。


「どうしたネコヒト、顔が白いぜ?」

「それは元からです」


 結果、ネコタンランドに9票も入ってしまいました……。

 グラングラム11、ウンディネ4、レッドカイザーサンダー2といった途中経過に。

 投票が終わると子供たちとクークルスは手を繋いで、すぐに畑の方角に去ってゆく。


「レッドカイザーサンダーか、男の子らしい名前が来たな、いいねぇこういうの」

「ぇぇっ、さすがに子供っぽ過ぎますよ……」


 どちらにしろバーニィと談合してあるのです。自動的にネコタンランドは排除される、そういう仕組です。

 ただ得票数トップでゴールインされてしまうと、ごねるでしょうね、うちの娘が……。


いつも誤字報告、リツイート支援等ありがとうございます。

これからもじっくり続けて参りますので、引き続きどうかご支援下さい。

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