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14-1 神様からの贈り物


前章のあらすじ


 ネコヒトは西に旅立つ。目的地は魔界の自由都市カスケードヒル、そこで魔界の特産品を手に入れ、夜逃げ屋タルトを介した交易を行うため。

 そのカスケードヒルにて、ネコヒトはヘンリー・グスタフ男爵という名のイヌヒトと接触した。


 文句を言いながらも男爵はネコヒトの要求に応じ、沢山の交易品を大地の傷痕に運んでくれる。

 そこで恐るべきモフり手パティアに男爵がメロメロにされる事件もあったが、商談が進んでゆく。しかし支払いが足りない。


 そこでパティア、バーニィ、ネコヒトは封鎖していた迷宮を下ることにした。

 ところが迷宮を進んでゆくと、オウルノーブルと名乗る大きなフクロウと出会う。

 再び迷宮を利用するとの約束で、報酬に色を付けて貰うことに成功した。


 都合良く支払われたプリズンベリルを男爵は疑うものの商談は成立、同族のラブレーを置いて大地の傷痕を去る。

 そのイヌヒトのラブレー少年のために城の東に小屋を建てることになった。男気あるバーニィにラブレー少年は懐き始めていた。


――――――――――――――――

 神様からの贈り物

  ネコとイヌとヒトの居る生活 

――――――――――――――――


14-1 神様からの贈り物


・クークルス


 私は長く神に仕える仕事をしてきました。だけどこんなことは初めてです。

 生まれて初めて、わたしは神託というものを体験しました。

 神々しきお方が私の夢に立ち、ありがたいお言葉を下さったのです。


「起きなさい、クークルスよ」

「あらー……あら、あらあら……あらー、これはビックリ……」


 私ったら夢の中なのに手のひらを重ねていました。

 ふふふ、癖って夢の中でも抜けないものなんですね~。


「私が何者かわかりますね。全て、ここから見ていましたよ」

「あら恥ずかしい……ひょっとして、あなた様は神様ですか……?」


 真っ白な世界に輝くお姿がだけがありました。

 具体的な輪郭や、顔が上手く確認できないのは私の信心が足りないせいかもしれません。


「ずいぶんがんばっているようだな。蒼い肌の子供たちのために」

「そう、そうなんです神様。あの子たちったらもう不憫で、何もしてないのに迫害されるなんて、あんまりもあんまりだと思います」


 ああ良かった、神様は全て見ていて下さっている。

 私は私たちがしていることに誇りを覚えました。自分たちは今、正しいことをしているんだって。


「そうだな。……ところでクークルスよ、仕立て屋を欲しているそうだな」

「あら~、そんなこともわかるんですかー? さすが神様です、そうなんですよ~。リセリちゃんも私も、繕い物はできるんですけど~、作るとなるとなかなか……」


 そうそうリセリちゃん、あの子すごいのよ神様、目が見えないのに縫い物ができるの。

 誰かが最初に針を通してあげないといけないけど、それでもすごいわ。視力を失っても、物の形はわかるものなのね。


「よかろう、クークルスよ。そなたに仕立て屋の才能を与えよう。その力で彼らに暖かい服を作ってやるといい」

「あら嬉しい。神様って意外と親切なのねー♪ あ、深い意味はないんですよ~、言葉のあやというか、ラッキー♪ みたいなー?」


「神に向かってラッキー、意外と親切、か。まあいい、せいぜい励むのだな」

「うふふー、そうします。はぁ……いい夢見ちゃったー」


 これが現実だったら良かったのに、さすがに都合が良すぎるわよね。


「クークルスよ……」

「はい、なんですか~、神様?」


「そなたは――天然だな……」

「ふふふっ、よく言われます♪」


 神様はちょっと私に呆れて、夢に限りなく近い神託を打ち切った。

 だけど驚いたわ~、本当に神様だったなんて~、次にお会いするときまで、天然、治しておかないと~、うふふー♪



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・ネコヒト


 寝坊に気づくと人間は慌てたり、時間をむだにしたと思い込むそうです。

 けれどわたしの辞書にはそんなものはない。

 昼過ぎ、わたしは寝坊に気づきましたが二度寝に入りました。


 いいえ、部屋に誰かがいるようで、奇妙な物音に目が覚めてしまいました。

 食事は蒼化病の子供たちが来てからというものの、外や修繕された食堂で作るようになっています。

 パティアのメギドフレイムがあれば、どこであろうと調理場所は選びませんでした。


 チャキ、チャキ、と不思議な音が耳に届く。

 金属と金属が擦り合うような、それとザラザラと何かが裂けるような、今までにない音です。

 気になって身を起こしました。寝ぼけてぼやけるまなこを擦り、音のする方角に振り返ると、そこに小さな服が完成しかけていた。


「おや……驚きました、意外とやるではないですか、シスター・クークルス。これはタルトへの注文をキャンセルしなくてはなりませんね」

「あ、ごめんなさい、起こしてしまいましたか。すみません、他に落ち着いてできる場所がなくって……」


 見事なものです。寸法の狂いのないプロの手並みがそこにありました。

 かーちゃんの作った服、といえばどこかしらがおかしなものと相場が決まっているものですが、これならあの子供たちも感動してくれるでしょう。


「素晴らしい、そっちのはコートですか? 教会のシスターとはこんな仕事までするんですね……」

「いえそうじゃないんですよー。実は、神様が私に才能を下さったんです♪ 布に触れるだけでどうすればいいのかわかるようになっちゃいました♪」


 そこで私の期待と感動は、疑いと当惑に変わりました。

 いえシスター・クークルスはド天然です、言葉を額面通りに受け取るのはよしましょう……。


「ご冗談を。どこで教わったんですか?」

「あら~、そうなります~? ん~~、はい、昨晩に、神様に教わりました♪」


「そうですか」

「はい~、信じて下さったんですね~♪」


「いいえ、信じません」

「あら~、ダメですかー♪」


 寝起きに彼女の天然が重なると、理解不能という思考停止が起きるようです。

 彼女は何を言ってるんでしょうか、信心深さと天然のコラボレーションは恐ろしいものです。


「そんな都合の良い奇跡があるはずないでしょう」

「だけど服はちゃんとできてますよー? ほら、これは女の子のスカートです、かわいいでしょネコさん♪」


 明るい黄色のかわいらしいスカートを、ひらひらとクークルスが揺らしました。

 うちの娘に似合うかもしれない、と考えてしまうのは親バカというやつでしょうか。

 その手並みはプロ顔負け、ただの聖堂のシスターの技ではありません。


「ええまあ、ですがパティアには少し大きいですね」

「ふふふ……。パティアちゃん、自分の服を女の子にあげちゃったのよね。ご褒美に何か作ってあげたいわー」


 何がどうなってるのやら理解できません。

 しばらく様子を見ることにして、わたしは部屋を立ち去ることにしました。


「フニャッ?!」


 ですけどシスター・クークルスの遠慮のない手が、あろうことかわたしの尻尾を引っ張りました。


「な、何をするのですかっ?!」

「すみませんつい手が♪ ではなくですね、朝ご飯残しておきましたので、食べて行って下さい」


 見れば暖炉の付近にフライパンが置かれていました。

 それはボアの焼き肉です。それとカブの塩漬けをクークルスが準備してくれました。


「クークルス、あなたはまるでお母さんみたいですね」

「あら~、わたし口説かれちゃいました?」


「そんな口説き文句、使うのはマザコンの男爵くらいでしょう」

「すみません、ですけど私、ミルクは出せません……」


 わたしは頭を抱えずにはいられませんでした……。

 頬を桃色に染めて恥じらわれるのですから……。


「誰もそんなもの要求してませんよっ!!」


 この方は、個性の強さではパティアと双璧をなしますね……。


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