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13-6 でかふく!(挿絵追加

 そこから先はだいたいいつも通りの流れとなりました。

 バーニィが前を固めて、わたしネコヒトが遊撃攪乱、パティアが正確無比の魔法砲台として敵を排除するパターンに押し込みました。


 これだけの実力者がそろえば破竹の勢いで進んでゆくのも当然の道理、翡翠の迷宮はイージーモードと化しました。

 ですけどどうも少し妙なことにわたしは気づかされました。


 この前下った白亜の迷宮は、軽い運動程度で地上に戻れた。ところがまだわたしたちは迷宮の中にいて、今5つ目の階段を上っているところです。

 子供の足には少し段差がきついので、パティアはこれ幸いとバーニィに乗っかっていましたがね。


「なぁ、俺たちもしかして最強じゃね?」

「ばにーたん、そんなこといってるとー、あしもと……えと、あしもと……われるぞー?」

「割れるんですか?」


「うんっ、ぱかっとわれてー、おちる」

「ソレどんなに気をつけても対処しようがねぇじゃねぇか。……それを言うなら足元さらわれる、だろ?」


 やせ我慢かはわかりません、バーニィは平気な顔をしていました。

 未来の巨乳娘(自称)に背中に張り付かれながら、わたしと同じペースで階段を上がっている。


「おさら、ふんづけるってことかー? たいへんだ……ぜったい、いたい……」

「まあそんなところです」

「おい、それでいいのかよ親、いい加減過ぎるだろ……」


「いいんですよ」


 成長したらうちの娘も多少知的になったりするのでしょうか。

 今の性格からは全くイメージ出来ません。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 上の階層に出ると一本道が続いた。

 これまでの構造と違う。何かあるのか、ゴールなのかと期待して道を進む。

 するとギョッとするほど大きなフクロウが止まり木に止まっていました。


 何もない大部屋のど真ん中で、わたしたちをまるで待っていたかのように陣取って、その大きな眼孔を開いたのです。


挿絵(By みてみん)


「しろぴよのおともだち?」

「んなわけねぇだろ……」

「どちらかというと、しろぴよさんを食べる側かもしれませんね」


「よし、ならたおす!」


 パティアがナコトの書を解放する。カチリと蝶番を鳴らして大判化させた。


「待ちなさい、まったく失礼な方々ですわね」

「へ……しゃ、しゃべったーっ!? こいつはー、おどろきだ! あっ、しろぴよも、しゃべるのかなー?!」


 そのフクロウがしゃべり出した。魔族であるわたしはある程度耐性があったものの、バーニィとパティアからすれば驚きの光景だったようでした。


「ようこそゲストのみなさま、わたくしはしがないフクロウ。この地に縛り付けられている身の者ですわ」

「ええまあ、そのようですね」


 フクロウの足には鎖と足輪がかけられていた。

 解放してくれと真っ先に言わないからには、別の事情があるようにも見える。


「ここは迷宮のプロトタイプ、魔族を拒まないのもそのせいですわ。先日は失礼しましたエレクトラム様、こっちはいきなりのことで、準備が整っていませんでして、あの時はお帰りいただいたのよ」

「お、おぅ……む、むつかしいこと、いってるのはわかるぞ……」


 それわからないってことですよね。

 パティアの頭をポンポンと撫でて、わたしはレイピアにそっと触れた。これはこの迷宮からいただいたものです。


「この前、わたしがおじゃましてしまった時のことでしょうか?」

「はい、その通りですわ。この迷宮は、長らく使われていなかったことから報酬が期待できますわ。ただしプロトタイプです、バランスは通常の迷宮のように考慮されていませんわ。冒険者の都合なんて考えていない場所ですのよ」


 プロトタイプ、試作品ということでしょうか。

 ですけどこのフクロウ……。


「おい、この鳥なんか聞いてもいないこといきなり語り出したぞ」

「話し相手がいない状態が続くとよくあることです。どうしても口にしたかったのでしょう」

「聞こえてますわよっ、違いますから!」


 大きく翼を広げて彼女?は抗議した。

 しかし大きい。鷹すら簡単に狩れてしまいそうなほどに。


「質問しましょう。この前おじゃました時なのですが、迷宮の最後にレイピアの入っていた箱がありました。あれはどういう意図でしょう? いえ感謝してるのです。当時のわたしとしては欲しくてたまらないものでした、今も愛用させていただいておりますしね」


 レイピアを抜いて大フクロウにそれを見せつけた。

 名剣とは言えない、ただのレイピアです。

 もろい武器なので交易を通じて、いつかスペアを確保したいところです。


「サービス、あるいは偶然ですわ。あれっきり一度も来て下さらないのだから、ガッカリさせられましたけれど」

「それはすみません。あまりここを使いたくなかったのです」


「そんな……そう言わずまたいらして下さいな。より屈強なモンスターをとりそろえて、しっとりと(・・・・・)、接待させていただきますから……どうか」

「口をはさむぜ。ソイツはお断りなのさ、迷宮がもたらす富がこの土地を狂わせる。だから井戸のある部屋は封鎖してたんだよ」


 ちらりとパティアの様子を見る。

 会話についてこれていないのがよくわかりました。

 しゃがみ込んで、拾った小石で翠の床石に猫と犬2匹の落書きをしていましたから……。

 それ、わたしと、男爵と、ラブレーくんですか?


「だけどこうして皆様は来ましたわ、わたくしは皆様の力になれると思いますの。違います?」

「違うな。俺たちはここでゆっくりするつもりなんだ。命を掛け金にしたバトルなんて要らん、今回はどうしても入り用だっただけだよ」


 そこでフクロウ、いえこの迷宮に繋がれた何者かは翼をたたみ、まぶたと閉じて黙り込みました。

 それからほどなくして納得したようにうなづく。


「商品……いえ、交易品が欲しいのですね。それに対して収穫はプリズンベリルが1――全く足りませんわね」

「おお……でかふくちゃん、そんなことまでわかるのかー! パティアじつはなー、よくわかんないけどついてきたんだぞー」


 世界を滅びしえる絶大な力を持ちながらもアホの子、それはうちの娘です。アンバランス過ぎます。

 フクロウの方はでかふくという奇妙なあだなに、困ってしまっているようですね。


「でかふくは止めて下さい……。ノーブルオウルとでもお呼び下さいな」

「おう、のーぶ? む、むつかしいからおぼえれない……パティアだけでかふくにするねー!」


「諦めろデカフク。俺なんかバーニィがバニーたんだぞ、子供のやることだ、諦めようぜ」

「デカフクの方がどう考えたって不名誉ですわ!!」


 ミステリアスな登場をしたわりに親しみがいがありました。

 知能の高いただのデカフクロウ、そう見るともう少し譲歩してあげたくもなってくる。


「と に か く ! また来て下さると約束されるなら、報酬に色を付けますわ! あなたたちのような圧倒的な戦士をご接待できるならばそれは、迷宮冥利につきるというものですから」

「報酬に色か、それなら悪くねぇな。次に来る日がいつになるかはわかんねぇけどな」


「わかりました、もうそれでかまいませんわ……。忘れられ続けてきたこれまでの日々を思えば、うれし涙が出てくるほどありがたいですわ」

「へへへ……パティアもー、またきたいから、いいよー。またくるねー、でかふくちゃん」


「だからデカフクは止めて下さいましッ!! 約束破ったら地上の作物枯らしますわよっ、しっかり覚えておきなさい!」


 そう言い捨ててデカフクあらためノーブルオウルは止まり木ごと霞と消えた。

 パティアさえいなければミステリアスな謎のフクロウでいられたのに、これじゃ逃げたみたいです。


「きえたー。でもとびらも、あいたなー」

「ま、リスクはあるだろうけど有用ではあるな。こっそりまた潜って、お宝探すのも悪かねぇかもな」

「あなたは変わり身早いですね」


 部屋の奥の扉がひとりでに開いていました。

 その扉の向こう側は明るく、近付いてみれば外の日差しが内部へと差し込んでいた。

 そこに地上への上り階段と大きな宝箱があった。


「すげぇ……よっぽどあのフクロウ、えーとなんだっけ、ああもうデカフクでいいか、本当は寂しかったんだろうな」

「ほわぁぁー、キラキラだー!」


 宝箱を開くと8色のプリズンベリルがそこに眠っている。

 それと、取引にはない何か妙な物が……。


「ん、なんだこりゃ?」

「これは、尻尾ですかね……?」


 猫の尻尾のアクセサリーがそこにありました。

 それこそ子供のおもちゃとでも呼べるほどちゃちな作りです。


「これはー、パティアがな、おねがいしたやつだ。ねこたんみたいになりたい! って、いのったー」

「何ちゃっかり自分の欲しいものお願いしてるんですか……」

「パティ公っ、てめぇずりぃぞっ!」


 わたしたちは交易品となりうるプリズンベリルを合計8つ手に入れた。

 パティアはちゃちな猫尻尾を手に入れた。それはもうご満悦でした。


「ありがとー、でかふくちゃん!」


 ノーブルオウルですわ!

 ネコヒトの耳にだけ抗議の叫びがかすかに届いた気がしましたが、もちろん聞こえなかったふりをいたしました。

 いやはや愉快な迷宮もあったものです。


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