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13-1 ネコヒト商談紀行・いざ自由都市カスケードヒルへ - ママン…… -

「いらっしゃい……何にする?」

「ええ、ではミルクを」


 目当ての酒場に入りました。

 その昔に通ったこともありましたが、マスターはもう別人に変わっている。まあよくあることです。


「支払いはどっちで? ガルドなら3、アケロンなら1だ」

「ガルドでお願いします」


 カウンターに金を置くとマスターがカクテル用のミルクを木製のコップにそそぐ。


「聞いたか、ミルクだってよ」

「酒場に来てミルク注文するやつ、俺ぁ初めて見たぜ」

「ギャハハ、ママのおっぱいが恋しいんだろ! わかるぜその気持ちぃぃ!」


 外野の客が何か言っている。騒ぎを起こすメリットもないので無視です。

 若造にはわからないでしょうね、酒場で飲むミルクの奥深さが。


「すみませんね、お客さん。一部を除いてなかなかいませんで、珍しいのでしょう」

「存じております、お構いなく」


 本当はマタタビ酒を注文したいところでした。

 しかしそれをやってしまうと、ネコヒトである疑惑をかけられる。

 それに出立前にリックから硬く禁じられていた。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



出立前――


「わかった。だけどこれだけは約束してくれ……マタタビ酒にだけは手を出さない、それが条件だ……」

「おやおや信用がありませんね。まあかまいませんが」


「頼むならミルクにしてくれ、栄養もある」

「そういえばしばらく飲んでませんね。ぜひそうしましょう」


 家畜として牛か山羊を買い入れれば、大地の傷痕でもありつけるのでしょうけど、それはまだまだ先の話になりそうでした。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 それがなかなかどうして美味いミルクだった。

 ゆっくりとそれをすすりながら、わたしは機会を待った。

 そろそろいいだろうか、じっくりと間を置いて、何気なしを演じてマスターに問いかけました。


「ところで男爵殿(・・・)は最近店に来られますか?」

「就職活動か? それならそろそろ顔をだす頃だ」


「まあそんなところです。実は彼目当てでして」


 この町では人間の通貨、ガルドを支払いに使える。

 元を正せば銅であり銀であり金ですから、人間を狩る者の町では当たり前のように流通するようになったようで。


「わかった、男爵が来たら教える」

「ありがとうございます」


 30ガルドほどをマスターの腕につかませると、彼は現金に笑ってくれた。

 その先はただただチビチビと、得体が知れないが美味しいミルクをおかわりして待ちました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 しばらくしてマスターがわたしの前に立った。

 妖魔族の紫色の肌と角、高い身長がわたしを見下ろす。


「お待ちどう」


 追加のミルクがカウンターに置かれました。

 注文していません。マスターは店の奥に目配せしました。


「何者かは知らんが、騒ぎを起こしたら通報するからな」

「そこはご安心を、ともかく助かりました」


 カウンターから離れて暗い店の奥、男爵の元に移動した。もちろんサービスのミルクを手に。


 さて少し話がそれます、魔族は2種類に分類されます。

 さっきの妖魔族のマスターやリックのような、人間に近い外見を持つ者と、わたしやミゴーのような人間とはかけ離れた外見を持つ者です。


 前者は魔族と人間の混血と主張する者もいますが、それはありえない。他種族の空似というやつでしょう。

 はい、遠回しになりました。男爵殿は後者です。許可を取らずに彼の向かいの席に座りました。


「グルル……」


 当然いきなり現れた怪しいフード男を、男爵殿は怪しみ、不機嫌な顔にしわを寄せる。

 それがまたしわくちゃで、彼の種族、いえ部族らしいたるみっぷりです。


 そいつが鼻を鳴らして、わたしの匂いをかぎ分けるのも想定の範囲でしたよ。どうぞお好きに、といったところです。 


「グルルルルル……おめぇ、知ってるか? 俺様が一番、この世で嫌いなものがよぉ……」


 存じてますよ。

 しかしここはあえて沈黙で返して、何でもないように本日7杯目のミルクを味わう。


「ミルクは好きだ……、こくがあって、ほんのり甘くて、ママの味がするからよ。だけどこいつだけは辛抱ならねぇ!! おめぇ、プンプンするぜ!!」

「おや、何の匂いでしょうかね」


「決まってるだろ! この匂いは猫野郎の匂い――ぁ、ぁぁ……っ?!」


 彼の名はヘンリー・グスタフ男爵。魔界がまだ貴族制だった頃の血統です。

 その貴族たちは三魔将の台頭により力を失い、もう領地を持っている者すら数少ない。残念ながら彼も土地無し貴族の1人です。


 その男爵閣下は昔から猫と、ネコヒトの匂いをなぜか毛嫌いしておりました。

 彼の前に座ったわたしがネコヒトであることを臭いで見破り、ブルドッグ顔の強面をくしゃくしゃにされたのです。


 彼もまた古き種族、イヌヒトと呼ばれる種でした。


「どうなされましたか。まるで亡霊でも見たような顔をされても、わたし困ってしまうのですが。フフフ……意地悪は止めましょうか、お久しぶりですね、男爵閣下」

「て、てててて、てめぇっ、う、嘘だろぉっ?!」


「お静かに。くれぐれも、あるネコヒトの名をうっかり叫ぶような失態は避けて下さいね。生きてるわけがないんですから」


 男爵閣下はボックス席を立ち上がり、首だけでついて来いと合図をした。

 カウンターに魔界通貨アケロンを払い、店を出て行く。それを追いかけました。


 往来を、それも人通りの少ない裏通りを彼は選んで進む。

 わたしが隣を歩こうとすると、並ぶな、なれ合うなと早足に先に逃げる始末です。


「この前、ミゴーが来たぞ。てめぇをかくまっちゃいねぇかってよ、しつこいったらねぇっ」

「居ないものはいないですからね、それはご愁傷様でした」


 いえ待って下さい、ですがそれは……。


「しかし妙ですね。自分で恩師を殺したというのに、その生死をあなたに確認しにくるだなんて変な話ですよ」

「抜かせ。ああ、くせぇくせぇ、おめぇは特に猫くせぇ!」


 人通りがなくなるとこれ幸いと彼が口を開いた。

 いざ魔界側に帰ってみれば、どうも妙なことになっている。


「あなただって十分犬臭いですよ」

「ああっ?! 俺様を犬扱いすんじゃねぇっ、ぶっ飛ばすぞ、俺はウルフだ!!」


「はてさて、そんな顔のたるんだ狼はわたしこの300年一度たりとも見たことがありませんが」


 今となると懐かしいやり取りだった。

 男爵はたまに寝言を言うのです。あなたのような狼がいるわけがないでしょう。


「てめぇっ、てめぇはクビだぁぁっっ!!」

「男爵、あなたは怒るとそればっかりですね……」


 補足しましょう、彼は商会主なのです。

 沸点の低い人で、怒ると誰彼構わずクビを言い渡す悪癖がありました。


次回挿絵回ワン

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