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0-01 魔界を追放されたネコヒトの最期(表紙絵あり

 人の空は高く青くまるで濁りのない瑠璃のようで、わたしたちの空は低く妖しい晴れ無き赤紫に染まっている。

 東西に渡るその不思議なグラデーションをわたしはぼんやりと見上げていた。

 ……どうしてこうなってしまったのでしょうね。


「さてベレトルートよぉ、何か言い残すことはあるかよ? あ、わりぃ、命乞いだけは受付けねぇぜ」


 今回の依頼は少しばかし不自然な点がありました。

 人間の殺戮を好む嫌われ者のミゴーと、その取り巻きとのパーティを組むよう魔軍から直々の命令が下ったのです。

 早く言えば、わたしははめられたようで。


「おやおやつれないことですねミゴー。わたしとあなたは100年来のお付き合いではないですか。さあ思い出して下さい、あなたが新兵の頃にわたしは、それなりに親切にしてあげた覚えがあるのですが……」


 わたしの名前はベレトート(・・)ルート。ネコヒトと呼ばれる少しばかし珍しい種類の魔族です。

 昔はクリーム色の毛並みを持っていたのですけど、これでもう300年以上を生きました。今のわたしの毛はもう真っ白です。


「懐かしいねぇ。あんときはま、世話になったなぁ……」

「はい、ですからこのわたしにどうか温情を」


「いやぁ、そればっかりはダメだねぇ。お前を間引けって俺ぁ言われてるんだ」

「そんなの酷いじゃないですか。そもそも一体誰にです、誰が、わたしを用済みだなんて言うんですか」


 わたしの背中には断崖絶壁があります。

 大地の傷痕と呼ばれる、魔界と人間界の狭間にある太古の古戦場らしいですよ。

 いくらわたしが転落に強いネコヒトであったとしても、ここから落ちたらまあ死ぬでしょうね。


「あー、ま、どうせここで死ぬんだ、せっかくだから教えてやるよ。お前は三魔将の満場一致で、殺処分することが決まった」

「ははは、それは嘘でしょう。確かに昔ほどの力は出せなくなりましたが、だからってそんな……例えば戦場で、わたしを捨て石にすればいいだけの話じゃないですか」


 の魔界は魔将を長とした3つの派閥が支配しています。

 その全てがわたしの存在を否定するなんて、理不尽に不自然だ。

 きっとこんなの陰謀ですよ。誰かがわたしを逆恨みにしてるに違いない。


「そんなの俺が知るかよ。代わりにハッキリ言うがよ、てめぇみてぇな歳ばっか食った老兵は、うちの魔軍にいらねぇんだよ」

「キャヒヒッ、ひっでぇ! ミゴーの兄貴よー、ちゃんとこいつの罪状があっただろぉ~! ブッブホッ、ブフフッ、何度聞いても笑っちまうぜっ」


 ミゴーの取り巻き、鳥魔族のムクドが下品にわたしを笑い飛ばした。

 気に入りませんね。実力ではわたしより格下なのに、そうやってミゴーの威を借ることしかできない無能めが、ですよ。


「罪状……わたしは何も後ろめたいことはしていない、つもりなのですがね。ミゴー、趣味の悪いあなたとは違ってね」

「うっせぇよ性悪クソ猫が。そんじゃ、ぶっ殺す前に、三魔将からの罪状をテメェに言い渡すぜ。ベレトルート・ハートホル」


「いえ待って下さい、わたしの正式な名前はベレトートルート・ハートホル・ペルバストです」

「うるせぇっ! 人の名前なんかそこまで覚えてられっかよこのアホ猫!」


 ミゴーはデーモンタイプの優等種です。

 わたしがいくら抵抗したところで、彼にはとてもかなわないでしょう。

 さらには彼の配下が合計12人もいらっしゃっている。


「罪状を言い渡す、てめぇの罪状、それは、惰眠罪(・・・)だ! てめぇは型落ちの古種だっ、1日の3分の2を寝て過ごすような怠け者なんてっ、この魔界に要らねぇんだよ! ベレトの爺よっ、てめぇは存在そのものがもう使い物になんねぇって言われてんだ!」

「ははは、それはしょうがないじゃないですか。それがわたしの体質なのですから」


 ジリジリとわたしは追いつめられ、ついに一歩後ろがお空になっちゃっていました。

 さあどうしよう、抵抗して滅多斬りにされるか、それとも可能性を信じて自殺を演じるか。

 演じきれず死ぬと相場が決まっているから、ああお辛いこと、本気でどうしましょうかね。


「世話になったなぁ、これはせめてもの温情だぜ、おら死ねクソ猫ッ!」


 ミゴーの長い剣がわたしに向けて薙ぎ払われた。

 それをネコヒトの柔軟性と、軽い身のこなしを使って飛び越える。あ……。


「はっ、どんだけ長い付き合いだと思ってんだよっ、バーァァァカッッ、墜ちろやっ!!」


 おやおや、あの新兵ミゴーがこんなにまで成長するなんて……長生きなんてするもんじゃないです。

 ミゴーは剣を捨てて、わたしに体当たりをぶちかましました。

 悪あがきにミゴーの胸に細剣を突き刺しましたが、こうなってはどうにもなりませんね。


「ミゴー覚えてい――」


 哀れ、老いた用済みのネコヒトさんは、大地の傷痕の奥底に墜ちていきましたとさ。

 ああ、もう200年くらいは図太くこの世にしがみついてやる予定でしたのに……。

 いくらわたしの身が軽かろうと、死にますねこれは。


挿絵(By みてみん)

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俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[良い点] 惰眠罪……私も適用されます(爆) 魔王軍じゃなくて良かった~♪
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