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桜井香奈の禁断の恋

俺の彼女がミスコン出ることになったんだが

作者: 鷹羽飛鳥

 夏の恋企画に続き、秋の恋企画にも参戦です。

 めざせ! 甘いハッピーエンド!

 「あのさ亮介、あたし、ミスコンのファイナリストに入っちゃった…」

 真理と学食で昼飯を食ってる時、そうポツリと言われて俺は固まった。



 彼女、齋藤真理は、同じ大学に通う俺の彼女だ。

 高校時代から気になっていた相手で、告白してOKを貰えた時の嬉しさは、ちょっと言葉にできない。

 真理は、高校時代は運動部系の女子で1、2を争う人気者だった。

 バレー部だけあってすらりとした長身に、邪魔にならないよう短く切りそろえた髪、勝ち気そうな猫目と、どちらかというと美少女というより美人といった感じだ。

 もちろん、彼女の魅力は外見だけの話じゃない。

 さっぱりした性格で豪放なところもあるくせに、後輩の面倒見もいいし、細かいところに目が届く繊細さもある。

 俺達男子バレー部(男バレ)のこぼれ球が多くて危ないからちゃんと球拾いさせろとか、言いにくいことを言ってくるのは、いつも真理だった。

 当時の女バレの部長が、なんというか汚れ役をしたがらないタイプだったからか、仕方なく真理が矢面に立っていたんだと思う。

 そんな言動と、猫目のせいできつく見える顔立ちということもあって、“美人だけどおっかねえ女”というのが男バレでの彼女の評価だった。

 エースの真壁が「ツンツン女」と言って特に嫌っていたが、大なり小なり苦手にしてる奴が多かったのは確かだ。

 まあ、そのお陰で、男女バレー部間の調整には俺が出ることになって、真理と話せたんだけどな。

 もっとも、真理をきついタイプだと思ってたのは男バレだけの話で、他の部の連中からの人気は高かった。

 俺はバレー部繋がりで、それなりに顔を合わせることは多かったけど、告白するほどの度胸…というより、上手くいかなかった場合の気まずさに耐えられる自信がなくて、高校時代は遠くで眺めているのが精一杯だったっけ。

 1年の頃、真理が付き合ってた男子バスケット部(男バス)の先輩が、背が高くてがっしりとした、俺とは正反対のタイプだったってこともある。

 俺はセッターだからなんとかなってるが、背は高くない。175なんて、バレー部じゃチビの部だ。

 結局俺は、真理とは単なる部活仲間のままで卒業してしまった。

 偶然、真理も同じ大学に入学して、学食とかで顔を見かけはするものの、やはり声は掛けられない。情けない話だ。




 状況が変わったのは、今年の6月頃だった。

 妹の香奈から、いきなり、真理の話が出た。


 「この前、真理先輩が差し入れに来てくれた時に聞いたんだけどさ。兄貴、真理先輩と大学でよく会うんだって?

  声掛けないの? 兄貴、高校の頃から先輩のこと見てたじゃん」


 なんで知ってる!?

 「なんのことだ?」

 一応とぼけてはみたが、これは誤魔化すのは無理だ。香奈がこういう顔をしてる時は、何かある。

 2つ下の妹の香奈は、小さい頃は俺にすごく懐いていて、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とどこにでもついてきたもんだが、中学に入った辺りから、俺と距離を置くようになった。

 まあ、仲間に聞いても、妹なんてそんなもんらしい。

 「臭いから近寄らないで」なんて言われたりすることもあるっていうから、ちょっと生意気になった程度なのは、まだマシな方だろう。


 香奈もバレー部なんだが、ゴールデンウイークも練習があって、その時に真理が陣中見舞いに来たんだそうだ。

 それで、どうして俺の話になるのかはわからないが。


 「たまに見かけるけどな、声掛ける理由もないし、周りに仲間もいるし。

  向こうも友達と一緒にいるんだし、わざわざ声掛けるのも変だろ?」


 「友達いなかったら、声掛ける?」


 「え? う~ん…」


 「もし(こく)る気あるなら、先輩、呼び出してあげようか」


 「…どういう風の吹き回しだ?」


 「ん~、なんか、先輩見てると脈ありそうだし? 兄貴はともかく、先輩のためにもなるしね。

  もちろん、ただとは言わないけど」


 「何が望みだ?」


 「へへ、夏休みに、アストラルホテルでケーキバイキングやるんだよね。

  カップル限定、お一人様2000円でね、ちょ~っとあたしのお財布には痛いんだなぁ。一緒に行く相手もいないしさ」


 そういう魂胆か。俺と行って、奢らせようと。…4000円、ちょっと痛いが齋藤真理(彼女)と付き合えるなら安いもんだ。

 「…成功報酬な」


 「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」


 こんな時ばっか「お兄ちゃん」だもんなあ。

 こら、スカートで跳ねるとパンツ見えるぞ。




 そんなこんなで、香奈の試験が終わった7月に真理を呼び出してもらって告白し、無事俺達は付き合うことができた。

 毎日のように2人で遊び歩き大人の階段を昇った夏が過ぎ、地獄の前期試験も終わったある日の昼飯時。

 真理のミスコン発言は、そんな時のことだった。




 うちの大学では、毎年学祭でミスコンが開催される。

 春先に、自薦他薦問わずの参加者募集があって、6人のファイナリストが11月の学祭でミス春大(しゅんだい)の座を争うことになる。

 今年の学祭は、11月3日から5日までの3日間だ。

 「美紀が勝手に応募しちゃっててね、昨日、通知が来たの。ほら」

 美紀っていうのは、真理が大学(ここ)に入ってから知り合った友人だ。

 そいつが勝手に応募して、真理はファイナリストに選ばれたらしい。


 「そっか。出るのか?」


 正直、出てほしくない。とはいえ、それは無理な相談だ。諦め半分で聞き返すと、真理は眉間に皺を寄せて


 「辞退不可なんだって。ひどいよね」


と答えた。

 主催者側からしたら当然だろうが、ファイナリストに選ばれると、もう辞退はできない。

 繰り上げ当選だのやらかすと、色々面倒になるからだ。というか、昔それで揉めたことがあったらしい。

 俺も思わず「出るのか?」なんて聞いたけど、出場が避けられないのはわかってる。まったく迷惑な話だ。

 真理が出れば、当然注目されるだろう。変に人気が出るのは嬉しくないんだけどなあ。今更ライバルなんて、お呼びじゃない。

 とはいえ、出ると決まってるのにヤキモチ焼くのもかっこ悪いしなあ。


 「どうせ出るなら、優勝しろよ。

  俺の彼女がどんなにいい女か、見せつけてやればいいさ」


 結局、俺の口から出たのは、真理を焚き付けるような言葉だった。

 あ~、俺のバカバカ! 何かっこつけてんだ。妙なライバルでも出てきたらどうすんだよ。

 まったく、余計なことしてくれる奴もいたもんだ。恨むぞ。


 「ありがとう、亮介。あたし頑張るね」


 真理の笑顔が眩しい。

 この笑顔を守るためには、やせ我慢も仕方ないだろう。

 背中を冷や汗が流れてることには、気付かないでほしい。


 「で、審査項目ってどうなってんの?」


 「えっとね、普通にインタビューみたいなのと、水着にダンスだって。予めビデオ撮っておいて視聴覚室で流すんだってさ」


 ミスコンの開催は、11月5日(3日目)の午前だけど、実際のところ、初日から動画を流して投票を集める。ステージで行われるのは、優勝者の発表だけだそうだ。

 ステージで全部やらないのは、着替えの手間の問題とか、盗撮防止なんかのためらしい。ポロリ狙いとか、赤外線カメラ持ってくるバカとか、過去に色々いたんだと。

 世知辛い話だが、真理が盗撮の餌食になったりしても困るから、俺としてもありがたい。

 ああ、あと、11月に水着は寒すぎるってのも理由の1つらしい。撮影は暖かくした屋内でやるんだそうだ。


 「で、水着ってどうすんの?」


 「夏に亮介と海に行った時のを着るつもり。…駄目かな?」


 俺と海に行った時の水着っていうと、あのビキニか?

 エロくはなかったけど、結構露出度高めだった。

 後で聞いたら、俺にアピールするためだったとか。

 あの時は付き合い始めて1か月くらいで、真理としてもそろそろ手を出してきてほしいと思ってたそうだからなあ。実際、海の帰りに初めてしたわけだし。

 あれを見せるのか。不特定多数のヤローどもに。

 そりゃ、海でも不特定多数の前だったけどさ。

 どこの誰とも知らない奴らの前と、うちの学祭に来た奴らとじゃ、意味が違うと思うんだ。

 なにしろ、経済学部1年の齋藤真理だってわかって見てるわけだから。

 けど、駄目だなんて言ったら、俺の心が狭いみたいだしなあ。実際狭いけど、それを悟られるのは癪だ。


 「真理の水着姿見た男共が鼻血吹かないことを祈っててやろう」


 結局、俺の口から出たのは、そんな心にもない言葉だった。





 「兄貴、真理先輩、ミスコン出るんだって?」


 家に帰って着替えてると、香奈が部屋にやって来た。

 せめて着替え終わるまで廊下(そと)で待ってろよ。

 

 「そうらしいな。1年でファイナリストって、すごくないか?」


 「いいのかなぁ、兄貴? 真理先輩、優勝しちゃうかもよぉ? 大変だねぇ」


 ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてやがる。

 そんなに俺がオタオタするところが見たいか。


 「ん~、優勝したら、俺はミス春大の彼氏ってことになんのかな? モテないヤロー共に嫉妬されて大変かもな」


 「ちぇ~っ、つまんないの」


 平然と返してやったら、香奈の奴は口を尖らせて部屋を出て行った。

 さて、そうは言っても、真理なら本当に優勝しちまいかねないな。

 なんか考えておかないと。





 学祭初日、俺は真理と一緒にあちこち見て回った。

 正門のとこで渡されたパンフの背表紙がミスコンの投票用紙になっていた。

 なるほど、1人1冊しか貰えないパンフの、それも光沢紙の背表紙が投票用紙なら、コピーされたり組織票入れられたりする心配がないな。色々考えてるみたいだ。

 俺達は、パンフを見ながら、たこ焼きを食ったり、各部の演し物を見たりして歩いた。

 園芸部のバラ園は、なかなか良かった。

 秋バラがちょうど学祭で満開になるように温度を調節しているんだそうで、温室は見事に満開だ。

 赤、白、ピンク、様々なバラが咲いている。

 園芸部では、2日目の午後以降、希望者には1輪いくらでバラを売っていて、重要な収入源になっているらしい。


 俺達は入っていないが、バレー部も覗いてみた。

 サーブで9枚のプレートを全部抜いたら記念品ってイベントをクリアしたら勧誘された、なんてハプニングもあったが、真理にいいところを見せられたから満足だ。

 伊達に、この身長(タッパ)で高校3年間レギュラー張ってない。


 せっかくだから視聴覚室も覗いてみたら、ちょうど真理の水着姿が映ってた。

 部屋には、男が何人も、食い入るように画面を見ている。

 どうやらファイナリストが50音順で流れているようで、真理の後に3人いたが、もちろん真理が一番綺麗だった。

 そのまま見ていると、今度はダンスになった。

 なぜか3組の男女が踊って…違うな、6人のうち3人が男装してるんだ。

 男装のうちの1人は、真理だった。


 「なあ、真理、なんで男装してんの?」


 周りに聞こえないように、小さな声で聞いてみる。


 「いや、あの…毎年そうなんだってさ。

  あたしは、身長(タッパ)の関係で、有無を言わせず男役にされたの」


 真理の身長は177ある。俺が175だから、並ぶと真理の方が高い。

 ヒールなんか履けば、更に差が付く。真理は、その辺を気にして、俺と歩く時はベタ靴が多い。

 そして、大学に入ってから伸ばしているとはいっても、まだ真理の髪は肩に届くかどうかってとこだから、妙に男装が似合ってる。

 まずいなあ、ますます票を稼ぎそうだ。


 「こりゃあ、女の子のファンがつくかもなあ…」


 心の声が漏れてたらしく、真理が赤くなって照れていた。

 こういう顔も可愛いな、と思ったけど、さすがに追い打ちを掛けるのはやめておいた。

 周りのヤロー共は真理に気付いてチラチラこっちを見ていたが、さすがに俺が隣にいるのに声を掛けるほどの神経は持っていなかったようで、なによりだ。

 視聴覚室の隅には係員がいて、鋏でパンフから投票用紙を切り取ってくれる。

 俺は真理に投票して視聴覚室を後にした。真理は、さすがに自分に投票するのは恥ずかしいらしく、投票しなかった。


 こうして、1日目にめぼしいところを周り終えた俺達は、2日目は学園祭に来ないで、よそでデートして。





 そして3日目。

 今、真理は、ステージで表彰を受けている。


 「本年度のミス春大は、経済学部1年、齋藤真理さん!」


 ああ、やっぱりか。

 こいつは明日からが思いやられる。

 ステージでは、王冠を被りマントを羽織った真理が、優勝者インタビューを受けている。


 「この喜びを誰に伝えたいですか?」


 ありきたりな質問だ。司会者、センスないな。

 アイドル発掘コンテストじゃあるまいし、誰に喜びを伝える必要があるんだよ。


 「大好きな彼氏に!

  亮介、あたしやったよ! 背中押してくれてありがとう!」


 司会者、ナイス質問だ! 真理の奴、ミスに選ばれて彼氏がいるとか言うかよ!? まったく、喜ばせてくれちゃって…。


 発表が終わって控室から出てきた真理に、俺は用意していた花束を渡した。


 「優勝おめでとう、真理」


 一昨日のうちに園芸部に予約しておいた赤いバラ9本の花束を、真理は涙目で受け取ってくれた。

亮介「明後日の10時に薔薇の花束って予約できないかな?」

園芸「彼女にですか? じゃあ、赤いバラで9本の花束なんてどうです? 赤いバラの花言葉はあなたを愛しています、9本だといつも一緒にいてくださいって意味になるんですよ」

亮介「じゃ、それで」

園芸「まいど!」


真理の見てない隙に、こんなやりとりがありました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] らぶらぶだけど、心配なのねー。 男の心理とは面白い。
[良い点] はじめまして。 アンリさまの活動報告からとんできました小春佳代と申します。 鷹羽さまのお名前は以前からお見かけしておりまして、いつかお近づきになれたらなぁと密かに思っておりました。 今回は…
[良い点] 企画からすぐに流れて来ました。 ああ、あの三人ね!と、直ぐわかりました。 心理描写が素晴らしいと思います。 亮介と真里の心の機微が、とてもきめ細やかに伝わってきました。 [一言] 学祭、ミ…
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