第6話 まだ、続いているのかよ! ガッツドリンクの話
俺たち三人、雷徒、光羅、ガチャガールことメッサリーナだ。こいつは付けられた名前で外人ではない。と思う。
俺たちはこそこそと移動をしている。その光景は異常に見えるだろう。クマの絵が付いているパンツだけをはいたマッチョ一人と服がピチピチになっているマッチョ一人にエナメル質のセクシーな格好をしたダイナマイトバディの娘の三人組だ。
まてよ? 異常なのは俺だけじゃないか? でも、残り二人もなぜか羞恥心に襲われている様子だ。仲間だ、仲間。一蓮托生、道連れだ。
向かう先は俺がたまに大声叫ぶとういうか歌うために利用している人気のない山だ。カラオケ? まあ、そういうところもあるが、デスメタル愛好家にはカラオケは縁がない。カラオケにそういう類はあまりない。メタラーは孤高なのだ。俺だけ?
「雷徒っち。街にこんな場所があるなんて知らなかったぜ」
「あ? あまり、手入れしない誰かの私有地の山でな。俺が勝手に使いやすいように手入れした。多分、だれも知らない場所だ」
「雷徒っちは相変わらず勝手な奴だな」
「そんなことより、二時間は山に登りましたよ。よくこんなところがありますね」
「探したり、作ればいくらだってあるぜ」
自慢にもならないがな。
俺を非力のインドア派と思った奴は勘違いというもの。俺は興味があるものにしか力を入れない。
それより、ガッツドリンクの影響のせいか全く疲れを感じない。すこぶる絶好調だ。周りの奴らもそれは感じているだろう。
「ここで残り時間過ごすわけだが、食料いるか?」
「全然」
いらないか。これも、ガッツドリンクの影響だろう。まあ、便利な飲み物ではあるんだな。肉体の変化だけは非常に迷惑なんだがな。
「だけどよ、これからなにして時間を潰すわけよ?」
俺たちの醜態を隠すだけでもいいというのに贅沢な奴だな。
「弟を呼んでいる」
「弟さんいるんですね。呼んでも驚かないですかね?」
メッサリーナが心配そうに尋ねる。
「あいつなら、大丈夫だろう。人に対する偏見がない。ツッコミとかはいれるがな」
アイツとて女装が趣味なんだ。というか男の娘だ。奴なりに苦労もしているから人の困りごとに関しては寛容なところが多い。助けも差し伸べるできた弟だ。
「雷徒っちの弟かしばらくみてないな。どんな感じになったんだろう」
男の娘です。
「まあ、すぐにわかるさ」
しばらくして、山を登ってくる気配がする。道のりは獣道程度はあるが小さな木々や草にまみれたところだ。普通はガサガサと体がすれる音がするがそれがしない。だが、ガッツドリンクの影響のせいか気配も敏感に察知できるようだ。
「おお!」
その姿はなぜかギターケースを背負った、ゴシックドレスを着こなした少女がいた。
弟です。
「なんだよ、雷徒っち。女の子じゃないか。こんな山ですっげえ格好だな。どこの子?」
「いや、だから弟だよ。お前、弟の面影忘れた?」
「あまり、覚えてないけど……。ってマジっすか」
弟はスカートを少し上げてお辞儀する。見た目だけは可愛らしい。
「はい、僕は雷徒兄ちゃんの弟で秋上風っていいます。ところで兄ちゃん、すごい格好だね。SSSトリプル エスのガチャドリンクの影響でしょ? それに、そのパンツもまた、SSSトリプル エスのクマさんのおパンツだし。僕もはきたかったな~」
「はきたいんかい! でも、まあ、お前もガチャガールって言ってただけあって詳しいな」
「え?」
ここでメッサリーナが驚く。同僚でも面識がないのかな?
「ガチャガールは男の娘でもなれるんですか?」
「お前、知らなかったのか?」
俺も知らないが。
「僕の場合は特別枠ですね。ところで、僕もわりと多忙なんだよね。兄ちゃんのために仕方がなくきたところ忘れないでよ」
「ああ、悪いな。礼は何がいい?」
「いらないよ。気持ちだけ取っておくよ」
「ところで、弟さん、あなたの担当枠はどこですか?」
メッサリーナが割って入る。相当食い気味だ。気になるのか? 同僚くらい調べておけよ。
「僕? 僕はね、引き王さんの担当になったエイミーって呼ばれているよ」
「え、え、ええええええ? エイミーさん! 私の大上司じゃないですか。すみません、すみません、失礼しました」
「いいよ。知らなかったんだから」
こんな小僧の下っ端かよ。メッサリーナよ。無様だな。
「恐れ多い! エイミーさんに会えるなんて光栄です」
「大げさだな~」
俺たち、兄弟はそろって言う。まあ、弟の奴がどれだけ偉いのかわからんが。
「ところで弟よ、引き王って何? 引きこもり人間?」
「違うよ。引きがいいってこと。つまり必ず支払ったコインより高値のものを引き当てる無敵のガチャ王だよ。そのうち、わかると思うけどね」
「俺も引きがいい方に思えるんだが無用なものばかりしか手に入らないんだが……」
「そうでもないと思うけどね。いずれ引き王と対峙するかもね。そのときはお互い別の立場になるけど、ごめんね」
「今のところ、よくわからないから構わないぜ。それが、お前の仕事だしな」
「兄ちゃん優しい!」
弟が抱きつく。現在、筋肉マッチョでクマの絵が施されているパンツ一丁の変態とゴシック調の服装で男の娘が抱きつくという奇妙な絵図が完成される。
よその二人は少しゲンナリした様子をみせる。俺もあまり喜ばしくないのだが。仕方がない。
「と、ところで雷徒っちの弟さん。背中のギターケースなに?」
「歌うんだよ」
代わりに俺が言う。
「歌う?」
「どうせ暇なら俺のメタルショーを披露しようと思って弟はギター演奏で俺がボーカル」
「ええ?」
二人は興味がないらしく避難じみた声をだす。
「雷徒っち、ここだと電気ないしアコースティックだぜ」
「アコースティックでいいじゃん」
「ね」
弟と俺は意気投合でノリノリだ。周りはやっぱり不満そうだが。メタルの何が悪いの?
「だけどね、兄ちゃん」
「ん?」
「今日は特別でね。この、お二人為にミニライブやるよ。ところでお名前聞いてませんでした。すみません」
「ひえー、私こそ名乗らずにすみません。メッサリーナです」
「おれっち、八木光羅だよ」
「メッサリーナさん、八木さんよろしくです」
弟はやたらと丁寧なのだ。少々荒い俺とは違う。
「兄ちゃん、これ使って」
弟は何かのチケットをだす。なんだこれは? それを見て大慌てする奴がいる。メッサリーナだ。
「エイミーさん! そ、そそそそそそれは」
「うん、これはね、無料ガチャチケットの中でもなんでもだせるものだよ」
「待ってくださいよ。それは、私たちガチャガールでは所持できないもの。いったいどこで?」
「運営にご褒美にもらったんだ」
「ご、ご褒美って! ひえー」
部外者の俺でも驚くのはわかる。しかし、メッサリーナは大げさなんだよな。
「それが本当ならお前はチートキャラか? なんでもありとはな」
「でも、兄ちゃんにあげるから兄ちゃんがチートだね。何を手に入れたい」
「ちょうどいい、ここでライブ会場か! しかも光羅とメッサリーナのためにだけか。豪華だな」
「おい! 雷徒っち、そんなことのために使うか? もっとでっかい欲望とかあるんだろ?」
「わかってないな~八木さん。兄ちゃんはこういう人。だからあげたんだよ」
「流石は我が弟」
「えへへ」
こいつ、とても嬉しそうに笑いやがる。俺もだ。最高だ。
早速、弟はガチャガチャ召喚をし、俺がガチャをまわす。そしてこの場にあわせたサイズのライブ会場が現れる演奏者もいる。機材など扱うスタッフもいる。弟もメインでギターを弾く。そして、俺は即興で歌う。
最初は音楽にどうでもよかった光羅とメッサリーナだが、次第に熱狂していき大盛り上がりだ。しかし、この音響は山だけですむのか?
まあ、街中まで遠いから気にしなかった。
こうして、時間が過ぎていく、ガッツドリンクの影響で体力もぜんぜん落ちてこない。その中、ガッツドリンクを飲んでいない弟は途中で疲れ果て去る。
「エイミー様のことは誇りに思いますよ」
痴女のような格好した女が年少の男の娘に敬意を持つさまは微妙だが、いい雰囲気でこの場は過ごせた。
さて、明日はどうするか?